第10話 明けない夜はないように

 高校一年生になった。と、言っても中高一貫校だから特に大きな変化はない。もうやめにしたいな。ここ最近なにをしても暗い気持ちのまま。表面は取り繕う事ができても、心は荒んでいく一方だ。言い表しようの無い不満を抱えたまま、今日も部活がない放課後を過ごしている。


 連日ニュースでやっていて聞き飽きたな、と思っていた感染者数の情報に今日は何故か耳を傾けていた。そのニュースで流れてきたのは、感染者減少の文字。そろそろ大会が開催される時期だ。これなら大会も出来るかもしれない。思わず口が緩んだ。ここ最近全く動いてなかった頬が引き攣った気がした。


 次の日、部員たちがコーチから呼び出された。コーチが話す内容はもちろん大会のこと。手に滲んできた汗を握りしめて、重々しく口を開くコーチをみていた。

 コーチが長ったらしい前置きの後に言ったのは、感染症が落ち着いてきたからこのままの状況が維持されれば大会は開催されるということ。他にもブツブツと言っていたが、私にはそれだけの情報で十分だった。また走れる。また影野さんと勝負できるかもしれない。


 たった一年。されど一年。ずっと感じられなかった胸の高鳴りを、今、久々に感じた。長かった夜が明けて行く。

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