第2話
それから毎週金曜日僕は彼女の姿を見に行った。彼女が歌う姿を見るのが僕の生きがいになった。それまで勉強しかしてなくて恋愛はおろか恋なんてしたこともなかった僕を彼女は一瞬で変えてしまった。今日の路上ライブも終わりみんなが帰る中僕はまた足を止めていた。
ガシャン‼
彼女は音を自分の前に置いてあったマイクを巻き込んで倒れこんだ。
「…っく…はぁ…はぁ…」
彼女の息は荒くなって顔も真っ赤になっていた。僕は慌てて彼女のもとへ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか?!」
彼女をすぐに寝かせて救急車を呼ぼうとしたとき勢い良く手を掴まれた。
「み…水…ちょうだい」
「え?」
「はや…く」
「は、はい」
僕はせかされて言われるがままに水を渡した。
「ゴクッ…ゴクッ…はぁ、死ぬかと思った。ありがとう」
「い、いえそれよりだいじょうぶですか?」
僕は彼女を本気で心配した。
「あぁうん。平気」
「でも、倒れ方すごかったですよ」
「今日はちょっと気合入れすぎちゃって。って言うかきみ、毎週金曜日にいつも見に来てくれてるよね」
「えっ…あ、いや…その…ごめんなさい」
僕は慌てて頭を下げた。
「いやまって違うの。そういう意味じゃなくっていつも見に来てくれてありがとうって意味で言ったの」
「あ、そ…そっちか」
僕は勝手に勘違いした恥ずかしさで顔をそむけた。
「うん、だってきみいつも最後まで見てってくれるでしょ?ファンの顔はちゃんと覚えないとだからね」
プロ意識が高いんだなと僕は感心した。
「そういえばちょっと疑問なんですけど、なんで路上ライブみたいなことしてるんですか?」
僕が聞くと彼女は笑顔で言った。
「私、夢があるの。いつか大きなステージで大勢の人に私が歌う姿を見てほしいんだ。それに私が好きだった人にもそれを見てもらいたくて」
彼女は空を見上げた。僕は素敵な夢だと思ったと同時に切なくなった。彼女は自分の好きだった人に見てもらおうと頑張っている。彼女の顔を見る限りもうその人はこの世にはいないんだろう。
「そう……なんですね……じゃあ僕もお手伝いします!あなたの夢が叶うように一生懸命応援します」
僕は彼女を見て言った。彼女は少し驚いた後はにかみながら
「ふふ、ありがとう頑張るね」
と笑顔を見せながら言った。次の週も駅前のあの場所に行ったが彼女の姿は無かった。その日はたまたまかと思ったが何週間たってもその場所に彼女は現れなかった。他の曜日に来ているのかとも思い金曜日以外にも足を運んでみたが彼女の姿はあの金曜日以来一度も見なかった。
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