第34話 兄さんは相変わらずの傍若無人でした。
兄さんは?」夕方食事時になったから、食堂に行くと兄さんの姿が無かった。
いつも時間厳守の兄さんにしては、珍しい。
今日は、早く仕事が終わるから皆で、夕食を一緒に出来る筈だったのに。
「カリムなら、ベル嬢の屋敷に寄ってから帰ると今朝言っていたわよ」
母さんが食前酒を飲みながら、俺に話す。
(…ふ〜ん。ベル嬢の屋敷にねぇ?まあ…仮にも許婚が留守にしていたんだ顔位は見に行くか)
なんて、皮肉な事を思っちまう俺もまだまだガキだよな。
「なんだ?兄さんが居ないと淋しいのか?可愛い奴だな」
何処をどう聞けば、そう言う風に聞こえるのか、俺は父さんの頭の中が知りたい。
「…父さんっ食前酒も程々にしないと、いざ団長の仕事が入って来ても動け無い様じゃ困りますね」
「…母さん…エースが俺に冷たい」
「はいはい」
父さんの戯言をサラリと返す母さんっ流石ッス。
家族三人で食事をするのは…初めてでは無いけど、会話が無いっ。いつもは兄さんの理不尽なツッコミに俺か父さんがボケていたが、ツッコミ担当が居ないだけで、こんなにも静かだっけか?
別に好きでボケ担当をしている訳じゃねぇけど。何故か兄さんが居るとそうなっちまう。
(兄さん…今頃ベル嬢と何話しをしてるんだろう)
鱈のバターソテーをほう張りながら、そんな事を考えてた。
(いやいや…俺には関係無い無いっ)
仮にだとしても兄さんと許婚なんだっ!余計な事を考え無い様にしたくちゃ…。
(…ベル嬢兄さんにお土産渡せたのかな)
「いやっ!だからっ其れが余計だっつーのよ」
鱈のバターソテーをフォークでグサッと刺しては一人悶々としていた。
「アナタ…エース何か様子が変ですわね」
「ふむ…あの年頃は分からない。思春期なのかも知れんな」
「思春期って…アナタ」
食事を終え部屋に戻り、明日から学校に行く準備をする事にした。
旅行カバンから何気に荷物を取り出しては、ベル嬢に貰った「アンクレット」が出て来た。
「…これアンクレット…ふーんセンス良いじゃん。早速明日学校に付けて行くか」
クローゼットからアンクレットが似合う服装を選んではつい鼻歌が出ちまう。
「この服装ならパンツはデニムにした方が…其れとも、こっちの服装の方が…いやいやそうなればチョイ悪親父になっちまう」
気がつけば、服装選びに小一時間は経っていたかも知れない。
其れに気付いた時には、妙な自己嫌悪に陥ってしまった。
「…だーかーらっ何浮かれてんだっつーの」
結局、適当に服装選びをして学校の準備に戻る。
その時、コンコンコンッと部屋をノックしては兄さんが入って来た。
「にっ…兄さんっお帰りなさい。今戻られたのですか?」
なんか、相変わらずの人の返事を待たないで部屋に入って来るのは久々の様な気がする。
「ああ…今帰った。何だ忙しかったのか」
「いえ?今丁度学校の準備をしていた所で、だいーー」
「そうか。ならば少し話しをしないか」
「大丈夫」と最後まで聞かないこの横暴ぶりも何だか懐かしい。
「…なんだ?俺と話しはしたく無いのか?」
この、無茶な理不尽の物言いも懐かしくなった。てか、俺をなんだと思ってんだか。
「兄さんと話しをするのは随分と久しい気がしますね?」
俺は「どうぞ座って下さい」とデスチャーでテーブルの椅子に誘導?うん誘導するで良いのか?
「…旅行は楽しかったみたいだな」
「はいっイーソン達の別荘は想像以上に素晴らしかったですよ」
「…ふむ。ならば良かったな。イーソン殿から聞いたが…お前イルカに弄ばれたんだってな」
なっ!?…ンのやろぉーそんな事まで言いやがったのかっ!
「あははっ…弄ばれただなんて…昔から僕は動物から好かれているだけですよ」
「………………ほう」
はいっ滑った!はいっ一応そこは「なんでやねん」的なツッコミを入れて欲しい所だったけどっこの兄さんにそんな皆無。
あれ?今思えば…兄さんはツッコミ担当では無かったか。って、そんな事はどうでも良い話しだけど。
「…パーティーにも招待されたらしいな」
ギックーンッヤヤヤヤバイッ一番知られたく無いっ人に知られたっ!!
「あー…はいっクラーク家の古い友人の方で…あっほらっ!ハキーム・アンドレ殿ですよ?兄さん達は元気にしているか?と聞いておられました」
なんとか…誤魔化せたいけど…ダンスの事には触れないでよ?
「…ああ…彼か。なるほど確かに俺達もそうだがクラーク家の古い友人でも有るからな」
あははっと今は笑うしか出来無い。しかも額に薄らと汗をかきながら。
兄さんは、其れ以上パーティーの話しをして来なかった。どこまで聞いたかは知らないけど、ベル嬢は勿論の事。イーソンもそこまでベラベラと話す程バカじゃ無い事を信じたい。
「…向こうではベル嬢はどうだったんだ?楽しく旅行していたか?」
「はいっ普段の彼女から想像出来無い位はしゃいでは居たと思います。僕の学校の友人のシーア嬢ともすっかり打ち解けていたし」
「…そうか。なら良かった」
兄さんは、少しホッとした様な…とも少し違うか。兎に角なんとも言えない顔で俯き加減でテーブルの下に有る両指を触っていた。
うん?あれ?今日ベル嬢の屋敷に寄って来たんじゃ無かったっけ?何でそんな事俺に聞くんだ?彼女から、聞いて無いのか?
さっきから兄さんの口から出て来るのは、イーソンの名前だし?
ベル嬢とは会って無いのか?そんな事を俺は思い切って聞こうとした。
「…兄さんーー」
「ベル嬢がーー」
「えっ?ベル嬢がどうかしましたか?」
「あ…いやっ今日屋敷に行って彼女とも会えたんだが…最初は彼女も笑顔だったけど…時間を増すにつれ彼女から笑顔が消えていたんだ」
「ベル嬢が」何となくだけど…本当に何とくだけど大体の察しは出来た気がする。
今日兄さんが屋敷に行った事で、イーソンを含め家族層増員で出迎えた筈だ。
その中にもきっとアリス嬢が居たに違い無い。
兄さん…多分無意識の内に自分の中のアリス嬢に対する感情が出ちまったんじゃ無いだろうか?
ベル嬢も、其れを感じ取ったのかも知れ無いな?だって…兄さんアリス嬢を誘ってのパーティーの事聞いているだろうから。
そりゃ、許婚の身分としては面白く無いに決まってる。
まあ…これは俺の考え過ぎで有って欲しいがな。
だって…実際俺もベル嬢とダンスを踊った事兄さんには言えないでいる位だから。
でも、一層の事兄さんに打ち明けちまうかっ最低だけど…兄さんにカマを賭けたくなっちまった。
「あのっ兄さんっ実は俺っパーティーの時ベル嬢とダンスを踊りました!許婚の兄さんが居るにも関わらず他の異性とダンスをした事をお許し下さい」
言ったっ言っちまった!もし兄さんがベル嬢の事を本気ならっ兄さんの事だっ激怒するだろ!
「ああ…其れなら構わない。異性と言ってもお前だからな気にするな」
「え…あ…そうですか。なら良かった」
なっんだっ!?そう来たか!異性っつっても「弟」はアウトオブ眼中なのね?
俺の思っている答えとは180度違う物だったから正直拍子抜けだった。
てか、俺は一体兄さんからどんな答えを期待したんだ?
俺が「弟」じゃ無かったら兄さんは激怒したのだろうか。
♦︎♢♦︎♢♦︎後書き♢♦︎♢♦︎♢
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