第31話 なにがなんだか分からないです。

 確か…そのままベッドにダイブをして寝て何処までは覚えて居るが…いつの間にか自分で無意識に掛けたのか?


「エース様起きて下さい」ノックと共にエリンが部屋に入って来た。


「ああっ起きているよ。お早うエリン」


「良く眠れましたか?」


「昨夜、エリンがタオルケット掛けてくれた?」


「はい?何の事でしょうか?私は今日初めて部屋に来ましたが…?」


「あ…そう?」


 シャッと部屋のカーテンを思いっきり開けたエリン。その朝日が、部屋の中全体を照らすかの様な眩しい光に思わず「眩しい…」と顔を顰めっ面をしてしまう。


「…そう言えば…昨夜、カリム様がエース様のお部屋に入られる所をお見受け致しましたわ」


「兄さんが?」


「はい」とエリンは食堂に急いで下さいね?と一言を言っては部屋を後にした。


「…兄さんが…」俺はタオルケットを見つめては昨夜部屋に入って来たのは、兄さんで夢じゃ無かったんだ?


 じゃ…何んと無くだけど…「寂しかった」と聞こえたのも…いやいやっ其れは無い無い!


 きっと…其れは夢だな?


 エリンに促され、顔をサッパリと洗っては皆が居てる食堂へと足を運んだ。


「お早う。エース早く席に着いて朝食を頂きなさいな」


「お早う。昨夜土産の酒今日早速頂くとしょう」


「お早うございます。其れは良かったです。はい朝食頂きます」


 と、チラッと兄さんの方を見ると、此方を見る訳でも、紅茶を飲んでは黙々とベーコンエッグを口に運んでいた。


(…なんだよっ挨拶も無しですか?やっぱ昨夜は夢だったのかな)


「…なんだ?俺の顔に何か付いているのか」


 カチャンッとティーカップをソーサーの上に置いては…一睨みを朝から俺にかます。


(だから、何で朝から睨むかね?この人は)


「…はい。目と鼻と口が付いてます」


「……はっ?」


 兄さんには、どうやらこの親父ギャグが分からないらしい。


「兄さん…兄さんに頼まれていたお土産アレで良かったですか?」


「……ああ…問題は無い」


 良かったっ…下手をしたら何嫌味を言われるか。


「そう言えば…カリムこの連休中のパーティーは随分と盛り上がったらしいな?アリス嬢が喜んでいたみたいだぞ」


「ブハッ」父さんの突然の問いに飲み掛けでいた紅茶を吹き出す兄さん。


(むっパーティー?アリス嬢?…だと?)


「……はい。父さんもご存知だと思いますが団員達にも休憩が必要かと思い…細やかなパーティーを開かせて頂きました」


「ああっ其れに至っては、俺も同意見だよ。日頃から団員達には頑張って国や街を護ってくれているからな…でも」


「でも?」


 暫く、兄さんと父さんの会話を、俺はエリンが運んでくれた朝食を黙々と食べながら聞き耳を立てる。


「アリス嬢をパーティーに誘うのは…如何な物かと父さんは思うぞ?」


「…お言葉ですが。今回アリス嬢は体調不良の為…エース達との旅行を断念したのです。彼女にも連休の思い出を作ってあげても宜しいかと俺は思ったのですが」


「…いやっしかしだな」


 と、二人の会話が続いてた。まあ確かに兄さんの気持ちも分かる…けど。

 許婚の居る兄さんの行動に苦言をする、父さんの言いたい事も分からない事も無い。


「まあまあっアナタ宜しいじゃ無いですか?結果的には団員の人達やアリス嬢も喜んでいたのだから…ねぇカリム」


 キリが無い会話に助け舟を出したのは、他でも無い母さんだった。


 兄さんと父さんは母さんの鶴の一声で、其れ以上に何も話さなくなったけど…代わりに不穏…つうか重い空気だけが食堂一杯に漂っている。


 先に席を立ったのは、兄さんの方だった。カチャンッとフォークとナイフを食べ掛けのベーコンエッグの皿の上に置き。ナフキンで口を拭いては早々に食堂を後にした。


 分かり易い態度…如何にも不機嫌ですってオーラなんか出しちゃってからに。


「はあ…」と兄さんが出ていた扉を眺めては、深い溜め息を吐いていた。


「アナタ…何もあそこ迄言わなくても宜しいんじゃ無くて?お相手はアリス嬢なのですから別に良いじゃ無い」


「いや…しかしだな。仮にも婚約者が居る男が別の女性とパーティーに行くと、其れを快く思わない人達も中には居るからな。今回は仲間内のパーティーだったから良かったものの…其れを考えると頭が痛い」


 ほうほう。普段から兄さんの事を良く思って居ない連中の格好の的になるかも知れないって事?なのか?


 でも…其れを言ったらベル嬢だって…婚約者が居るのに他の野郎と旅行に行ったのは…どうするんだ?


 まあ…実際には二人っきりじゃ無かったし?義兄…イーソンも一緒だったから…其れは良いのか?


「早く…正式に婚約を発表した方が良いのか」


 ん?正式にして無かったの?俺は父さんの独り言の様な小さな言葉を聞き逃さなかった。


「父さんっ兄さんまだ正式に婚約して無かったの?」


「ん?ああっ仮にしただけだっ…なんだお前知らなかったのか?」


「知りませんよっだって…家族の顔合わせの時点で正式な物だとばかり思っていましたから」


「あれは…仮だよっ正式ならば皆様を集めて発表のお披露目をしなくてはならないからな」


 なん…だっ正式じゃ無かったのか…心の奥でちょっとホッとしている自分が居た。


(ん?今…ホッとした?)


 今、思えばあの旅行の時、イーソンが「ベル嬢の事どう思っているんだ」と聞いて来たのは…アイツこの事を知っていたからなのか?


 意味深な言葉の意味を、何となく理解しつつも気分は何処と無くスッキリとはし無かった。


 父さんも母さんも、仕事が有るからと食堂を終えて、俺も一人旅行の荷物の整理をすべく。部屋に戻る途中、クルーズとバッタリ会った。そこで彼を俺の部屋に連れて行き。兄さんの婚約の事を聞く事にしたんだ。


 あの時、彼も一緒に顔合わせの時に来てたから、何らかの情報は知っているからな。


「はい。そうですね確かにまだ正式な発表はなさってませんから…仮でございます」


「…何で今まで仮にしているの?」


「さあ…私もハッキリとは存じ上げませんが…カリム様も隊長になられたばかりな上ベル様に至っては…立派な淑女になられてからなのでは無いかと」


「ふ〜ん…俺には分からない世界だけど…兄さんって本当にベル嬢と婚約したいと思っているのかな」


 その言葉に、クルーズは眉をピクッと動かした様に見えた…なんだ?何か知っているのか?


「そうだと思われます…ですから婚約を承諾なさったのだと思います」


「だったらさ?俺だったらさ?仮じゃ無く早くに婚約しちまうけどな?」


「…其れはエース様のご意見でしてカリム様にはカリム様のお考えが有るかと」


 むっ!確かにそうだけど…少しクルーズの言動に腹が立ってしまった…いやいやここは冷静になってだな。


「…兄さん…もしかしてアリス嬢の事がーー」


 と、少し意地悪なカマを賭けようとした時、普段からは想像出来ないクルーズの低音ボイスにビビった!?


「…エース様っ一体何を仰りたいのですか?私からは何も聞けませんよ」


(こっっっっわっ!!)


「あー…うんっ!すまないっ!俺もアレコレ聞きすぎたなっありがとうっもう仕事に戻っても良いぞ」


「では、失礼致します」


 俺に一礼をしては、絵に書いた様なターンでクルッと背を向けては部屋のノブに手を充てる。


「…エース様…今は何も言えませんが時期が来たら分かる事だと思われます」


 そう言葉を残しては、静かに扉を閉め彼の靴音だけが耳に残った。


「なんだよっ…益々気になっちゃうだろぉ。でもあの兄さんの執事を務めるだけの事は有る流石だなクルーズ」


 なんだか急に、自分がクルーズにした事が恥ずかしく思えて来た。


「…俺何やってんだよっガキみたいに人から情報を聞き出す事をして気になるんだったら、直兄さんに聞けば……聞けたらこんな事しねぇつーの」


 はあ…寒い独りボケツッコミをしては自己嫌悪に陥ってた。


 確かに…其れを聞いた所でどうすんのよ。



  ♦︎♢♦︎♢♦︎後書き♢♦︎♢♦︎♢


ここ迄お付き合い頂き本当にありがとうございますっ(*´꒳`*)ノ

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