第29話 予想外のプレゼント…嬉しく無い訳が無い。

翌朝、俺達はアッシュ氏や別荘のメイドさん達にお礼を言っては、クラーク家の「ガスパール」を後にした。


 駅迄送ってくれる。と言うアッシュ氏の申し出を、丁寧に断り俺達は駅迄の道なりを、観光がてらに楽しむ事にしたんだ。


 駅迄は歩くのには、無理が有るから途中、辻馬車を捕まえ気になる場所、店が有れば其処で降りては買い物の繰り返し。


 お陰で、駅に着くには少しばかり時間が掛かったが…其れはそれで楽しかったから結果オーライだな。


 其々、土産を手に汽車へと乗り込んだ。


「あー…なんだかんだで楽しい旅行になって良かったな」


 イーソンが席に着くと、何処かの親父の様な台詞を吐く。


「本当に楽しかったですっ昨日のパーティーも夢の様なひと時でした!」


「本当にねっシーア嬢があそこまでダンスが上手いなんてビックリ」


「あっ!いえっそんなっベル様とエース様のダンスもとてもお似合いでしたわっねぇ?イーソン様」


「ああっ側から見たらまるで許婚同士に見えたぜ」


「なっ!?何っ言ってんだよっ!イーソンッ」


「はははっ照れんなって!」


「そうですわっバカも休み休みにおっしゃい」


 あはははっと焦る俺達にイーソンは揶揄うのが楽しいのか、腹を抱えては笑っていた。


 其れに釣られシーア嬢もクスクスと笑っている。って意味分かって笑ってんのか?シーア嬢は。


 そうなのだ…実は昨日あれから、ディナーや飲み物に屋敷の豪華さに堪能していたら、急にダンスが始まり出したんだ。


 次々と曲に合わせて、踊り出す客人達に、その雰囲気に飲まれたのか…シーア嬢も踊りたいと言って来た。


 最初、俺の方を見ていたシーア嬢だったんだけど…何故かイーソンが彼女を誘った。


 シーア嬢もイーソンならと満更でも無い感じで二人腕を組みダンスを始めたんだ。


 其れを見ていたベル様は、チラチラと横目で俺を見て来る…。しまいには軽く咳払い迄…はあー…分かったよっ分かりました!エスコートさせて頂きます。


(…どうか兄さんにはバレません様に)


 俺の頭の中は、ベル嬢と踊る事で兎に角兄さんにバレ無い事ばかり考えていた。


「如月 尊」だった俺は当然ダンスなんぞやった事がねぇっつうかこう言うダンスする機会なんか有るわけ無かったし?


 でも、ところがどっこい!エースくんは流石公爵家のお坊ちゃまっ身体が覚えていると言うか…ダンス慣れしてる?


 ベル嬢をちゃんとエスコート出来るか内心不安だったけど…何の事は無い無事エスコートが出来ていた。


 彼女も、何処と無く安心した様な顔だった。

 でも、ここでちょっとしたハプニングが起きたんだ…ターンをする際、彼女のヒールが軽く捻った瞬間身体がよろめいたんだ。


 咄嗟に出た行動とは…言え。つい自分の胸元まで抱き寄せてしまった。


 本の一瞬だったけど…その時、時間が止まった感覚に陥ってしまった。


 彼女の華奢きやしゃな身体に、甘くとろける様な髪の良い匂い。


 ……って何言って…思ってんだっ俺!こんなの単なる変態じゃんかっ!?


「ンンッンンッ」


「…どうかしたか?エースくん顔が赤いぞ?風邪でも引いたか?」


「へっ…?あっいや?」


 何て事があったのよって、こんな事本人の前で言える訳ねぇだろっ。


 ガコンッと汽車の車体が揺れたと思ったら、俺達の街に向かう為汽車はゆっくりと走り出した。


 暫く、流れる風景を楽しんでいた。俺達だったけど…気が付けば俺以外皆汽車の揺れが心地が良いのか、眠ってしまっていた。


 俺は、そんな皆を横目に一人窓際で頬杖をついては窓の景色を眺めて居たけど…場所を移る事にした。


 車両と車両の間に、小さな小窓を見つけたんだ。其処なら俺が伸びをしても誰も起こさないで静かに景色を眺めていられるのもあったのよ。


 其れからどれ位の時間が経ったんだろ。正確には10分も経って居ないんだろけど…ね。


「…エース様ここにいらしたんですか?」


 ふっと、声のする方に振り向くとベル嬢がコーヒーをわざわざ持って来てくれたのか、両手には二つの紙コップを持っていた。


「ああ…ベル嬢起きたのですか?」


「はい。イーソンも起きてますわ。彼がコーヒーを持って行ってあげてと…如何ですか」


「ありがとうございますっ頂きます」


 丁度、コーヒーを飲みたかったのも有ってタイムリーで持って来てくれた、ベル嬢に感謝だわ。


 ゴクッと一口二口飲んでは「ほう…」と一息ついた。


 ベル嬢も、コクッと飲んでは俺同様「ほう…」と一息ついたみたいだ。


「ベル嬢。兄さんの手土産結局買えたんですか?」


 そんな他愛の無い会話をしては…ベル嬢は赤く頬を染め「はいっ私なりに決めちゃいました」と何処と無く気恥ずかしそうに俺に答えたんだ…少し焼けるかも。


「其れなら良かったです」


 …何てつい社交辞令を口走った。反面…大丈夫か?俺っと言う気持ちも有った。


(いやいやっ一体何考えてんだっつーのっ!)


 そりゃそうだよっだって…ベル嬢は兄さんの許婚なんだぜ?


 俺がもう一口コーヒーを口に含んでゴクッと飲んだ時に、ベル嬢が少し照れながら俺に掌サイズの小包を渡して来た。


 余りの突然な出来事に、俺の頭が着いて行けて無い。


「…あのこれ気に入らないのは分かっているのですが…」


「…これは?」手渡された小包を開け見ると、それは綺麗な牛革で出来た「アンクレット」だった。


「その…エース様には色々とカリム様の事で相談に乗って頂いた…本のお礼です」


 少し照れ隠しかの様に「早くしまって」とギュッギュッと胸元に押し付けてくる。


「あ…ありがとうございます」


 ぶっちゃけめちゃくちゃ嬉しかった!


「アンクレット」は普段「如月 尊」の時も付けていたから…尚更嬉しかった。


「喜んで頂けて良かったです。ではっ私は先に席に戻ってますね…其れとこれはあの二人には内緒ですよ」


 そそくさと、その場を小走りに去って行く彼女を、追いかけお礼を言いた気持ちを抑えては、彼女の後ろ姿を見つめる事しか出来無かった。


(…ヤベぇってマジで…ヤベわ)


 気がつくと、ついニヤけてしまう。


 この嬉しくも歯痒い気持ちは、きっと思わぬプレゼントを貰ったからに違い無い。



  ♦︎♢♦︎♢♦︎後書き♢♦︎♢♦︎♢


ここ迄お付き合い頂き本当にありがとうございますっ(*´꒳`*)ノ


いつもありがとうございますぞ^_^

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