第13話 誰か俺に女心と言うものを教え下さい。

「…あー…茶がうめぇ。朝食に出たダージリン砂糖無しでも飲めた位、口の中が砂糖塗れだったわ」


 俺は、朝食を終えては敷地内に有る中庭で、一人優雅に茶なんぞ飲んでいた。


 今日は日曜日でも両親や兄さんは仕事、でも学生の俺は今日も休み。なので暫く一人の時間を満喫させても貰おーっと。


 今朝、兄さんとの会話を終え…何か大事な事を思い出したんだけど…。


 姉貴のネームでは、兄さんの許婚が「アリス嬢」…もしこれが本当なら何故ここでは、「ベル嬢」が許婚なんだ?


 もしかして、「如月 尊」つまりが来た事で内容が変わってしまったのだろうか?


 ネームも途中の「未完成」で終わっていたし。走り読みしたから内容は所々しか覚えていねぇ。


 まさか兄さんに「貴方の本当の許婚はアリス嬢ですよ」なんて言える訳も行かないし。


(…これじゃベル嬢が可哀想だよな)


 でも…もし俺が来た事で内容が変わっていたのならば、此れは此れで有り…なのか?


「てか、大体どんな内容だったっけ?あー…モヤッとする!」


「何がモヤッとするんです?」


 空に向かって大声を出していたら、いつの間にか俺の背後にエリンに連れられて、ベル嬢が居た。


「へっ?あれ?ベル嬢…?今日は一体!」


「ふふふっ驚かせてごめんなさい。一応お声を掛けたんですのよ?」


(全っっ然気が付かなかった!良かったぁ。他に変な事口走ら無くて!)


 いきなりベル嬢の登場に焦りはしたものの、なるべく平常心を装っては彼女を招き入れた。


(なんだろ…兄さんに続きベル嬢まで…ハッ!まさかっパーティーでの覗き見を)


 彼女はエリンに用意されたお茶を上品に一口二口と飲んでは一息ついていた。


「ふう…美味しいお茶ですね」


 カチャンとソーサーの上にカップを乗せては、どこと無くいつもの棘の有る雰囲気より穏やかな表情を俺に見せる。


「所でベル嬢…まさかっ兄と約束していたのですか?兄は仕事に行って留守ですが?」


「はい。存じ上げています。今日は貴方に御用が有りましたので」


(俺にっ…だと?やはり昨日のパーティーの件で文句を言いに来たんだなっ)


「僕に用とは珍しい、雨でも降らなければ良いのですがーー」


 ってっ何口走っとんじゃいっ!?折角、穏やかな雰囲気のベル嬢をわざわざ怒らせる言い方するぅ?


 一瞬、カップを持った手がピクッと動いたのが分かった…ですよねぇ。怒りますよねぇ。


「もうっ折角、貴方にお礼を言いに来たと言うのにっ何故、意地悪な言い方をなさるんです?」


「…お礼?」


「はい。イーソンから聞きました。本当はカリム様甘い物が苦手だと言う事や貴方がそれを言いにわざわざ我が屋敷まで来て頂いた事」


(あっ…そっちね?覗いていた文句じゃ無かったのね?)


「イーソンの奴…ベル嬢に話されしまったのですね?お礼だなんて…僕の方が謝罪しなくてはいけないのに、すみませんでした。僕の早とちりで」


 ベル嬢に向かってテーブルに額が付く位頭を下げ謝った。だって…間違えた俺が悪いのは事実だったから。そんな俺を見たベル嬢は慌てた声で庇う様に言ってくれたのだ。


「頭を上げて下さいっエース様っ貴方は何も悪くは有りませんわっ人に頼った私が悪かったのですっ…それにカリム様は甘い物が苦手だと言うのに嫌な顔一つ見せないで受け取って下さいましたし」



 …ごめんベル嬢。茶々を入れる様だけど、アレは嫌な顔と言うより「無」なだけだから。と思いつつも、嬉しそうに話すベル嬢の表情はやはり「恋する乙女」なのだ。


(…かわいいじゃん)


 不覚にも、ベル嬢が可愛いと思ってしまった。パーティーの時にも思ったけど、やはり好きな異性の前だと可愛くなるんだよなぁ。


「…エース様?どうかなさいましたか?」


「あっ…いえっ何も」


(アホッ何見惚れてんだっ!?)


「ふふっ変なエース様」


 クスッと一笑しては中庭に吹き込む風が彼女の綺麗な髪に靡いてはそれを片手でサラッと後ろに持って行く。


 以前、同じ様にこの中庭でベル嬢とお茶をしていた時とは違う。

 あの時は嫌々兄の代行で、彼女の相手をしていたが…今は不思議とそんなに嫌じゃ無い。


(寧ろーー)


「…ース様?エース様ったらっ」


「あっ!すみませんっ」


 寧ろ?何を思ったんだ!普段…苦手意識を持っている人が、少しでも違う雰囲気を見せられたら俺は弱い。


(本当俺はつくづく単純だわ)


「…本当にエース様は私の前だと考え事なさいますのね」


 と、クスと笑みを見せては、また嫌味紛いな事を言う彼女だったが、以前よりは腹が立たない。

 其れは彼女が、前に比べて俺が思っている「嫌な笑い方」をしてはいないからだろか。


(ほーん?ベル嬢ってこんな笑い方も出来るだ)


「すみません…ベル嬢の前で失礼しました」


「いいえ。折角エース様の休日に予約もしてなくて急に押しかけた私が悪いのです。どうかお気を使わないで下さいませ」


 余程兄さんに贈り物を渡せたのが嬉しかったのか。あの「冷たい」イメージしか無いベル嬢は俺の前には居なかった。


(俺は勝手に冷たいと思い込んでいただけなのかも…?)


 それからベル嬢と取り止めも無い会話が弾んだ、以外にベル嬢とは話しが合ったんだ。

 俺の話しにもニコニコと笑顔で聞いてくれて、とても良い雰囲気で話せていたと思った。所がーー。


「え…私がエース様を避けていた理由…ですか?」


「はい…僕。貴方に何か悪い事をしてしまったのだろうかと思ってーー」


 ガタンッと急にベル嬢が席を立ち出した。


 さっき迄の、穏やかな雰囲気はそこには無く。代わりに以前の「冷たい」イメージでしか無かったベル嬢の姿が俺の前に立っていた。


 調子に乗った俺はどうやら彼女の地雷を踏んでしまったみたいだ。


 誰かっ俺に女心ってのを教えて下さいっ!




  ♦︎♢♦︎♢♦︎後書き♢♦︎♢♦︎♢


ここ迄お付き合い頂き本当に本当にありがとうございます(*´꒳`*)ノ

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