第六話 白百合の姫、狩りに出る

 こうして私はドワーフたちの地龍討伐隊に加わった。

 その日は何者かに無残に破壊された壁の修復を皆で行い、ついでに私用の寝台と椅子まで作ってもらってそのまま就寝した。


 翌日、私に最初に割り当てられた任務は食料の調達だった。

 この任務を申し渡す際に、イェラナイフは私にこう言っていた。


「リリー。さっそくお前の力を見せてもらうぞ。

 俺たちはどうしても肉が喰いたい。

 そこで、お前には狩りの手伝いをしてもらう。

 現在の食料調達担当はそこの二人、イェンコとディケルフだ。

 イェンコは腕のいい料理人だが、狩りの方はさっぱりだ。

 ディケルフは一流の罠技師だが……まあ、見た方が早かろう。

 頼みの綱はお前だけだ。くれぐれも頼んだぞ」


 料理人が狩りは不得手だというのはまあわかるとして、罠技師が使い物にならないとはどういう意味だろう。

 疑問に思いつつも、朝食代わりの山リンゴを口の中に押し込んで、私は二人の下へ向かった。



「まずは昨日仕掛けた罠を見て回りましょう。

 なにか獲物がかかっているかもしれません」


 そういって先頭に立った眼鏡のディケルフの後について私たちは森に入った。


「いや、お嬢さんが加わってくれて本当に助かるよ」


 太っちょドワーフのイェンコは、ふうふうと荒い息をつきながらも山リンゴを片手に上機嫌だ。

 反対側の肩には見事な装飾が施された大きな戦斧を担いでいる。


「隊長には猟師もつれていくように進言したんだが、なんせ危険な旅だからの。

 誰もついてきてくれなんだのよ。

 おかげで、わしらは狩りについては素人ばかりだ」


 それはもう彼らの恰好を見れば一目で分かる。

 得物が戦斧なのはまあいい。

 弓か、せめて槍を持ってきて欲しいところではあるけれど、なんだかんだ言って手になじんだ武器が一番だ。

 だけど身に着けている防具ときたら。

 頭にはとんがり兜、背負った大きな丸盾は鉄張りで、鎖帷子の上から鋼鉄製の胸甲、肩までカバーできる腕当てに脛当てまでつけて一分の隙も無く武装している。

 まるで戦支度だ。

 ついでに言えば、彼らの具足はうちの騎士たちのそれよりも三倍は厚い。

 馬に乗って戦う騎士よりも分厚い装甲をまとって、彼らは一体何と戦おうとしているんだろうか?


 案の定、いくらも歩かないうちに彼らはバテてしまった。


 ドワーフだから長く歩くのが苦手とかそういう問題じゃない。

 どう見てもこの無駄な重装備のせいだ。

 平地を歩くならいざ知らず、起伏にとんだ森の中を歩くには全く向いていない。

 倒木一つまたぎ越すだけでもヒイヒイ言いながらの大仕事だ。

 何より甲冑というのは熱がこもりやすい。

 比較的涼しい森の中とはいえ、激しい運動を続ければどうなるかなんてわかりきったことだ。 


「……皆さん。そろそろ休憩にしましょう」


 ディケルフが息も絶え絶えにそう提案してきた。


「別にいいけど……あなた達、なんでそんなに重装備なの?」


「なぜって……なあ?」


 私の指摘に二人のドワーフが顔を見合わせた。


「この森にはとてもとても恐ろしい怪物がいるんだとか。

 森に入る前に、親切な地上人が教えてくれたんですよ。

 あなたもこの森に詳しいなら一度ぐらいは聞いたことがあるんじゃないですか?」


「心当たりがないわねえ……」


 確かに不気味な噂話の絶えない森ではあるけれど、私が聞いたことがあるのはどれもお伽話や怪談の類だ。

 現実的な脅威かといわれるとずいぶん怪しい。

 実際にこの森にいるのはせいぜい狼や熊、あるいは無法者たちだ。

 油断できない相手ではあっても、決して怪物と呼ばれるような存在ではない。


「あなたたち、いったいどんな話を聞いてきたの?」


「なんでも、この森には人喰い鬼が棲んでいるそうです」


「人食い鬼」


「森に足を踏み入れた者をことごとく殺しちまうらしい」


「邪智奸計に長け、亡者の軍勢を率いて奇襲伏撃の類を好み、

 数々の怪しい妖術を使った卑劣な戦い方で屈強な騎士すら討ち取ってしまうそうです」


「見た目からしてこの世の者とは思えないほど恐ろしく、幽霊みたいに全身真っ白なのに眼だけが爛々と赤く輝いて、赤ん坊を攫って喰っちまうとか何とか――」


「でたらめよ!」


 あんまりにもひどい言われようなので思わず彼らの話をさえぎってしまった。

 その怪物とやらはどう考えても私のことだ。

 いったい誰がこんな悪意のある噂を流しているのやら。

 

「私、この森には何度も出入りしているけど、そんな奴は見かけたことすらないわ」


「だけど、この話をしてくれたお爺さんは嘘をつくような方には見えませんでしたよ」


「なんでも、その爺さんは実際にその化け物に一人息子を殺されたそうでな。

 わしらが森に入るつもりだと言ったら、それはもう心配そうに引き留められたよ。

 やっぱり、いるんじゃないかのう」


 なるほど。事情は分かった。


「いいえ、いないわ。

 少なくともあなたたちが襲われることはないわね」


「どうして断言できるんですか」


「だって多分、その森の怪物って私のことだもの」


 そう言ったとたん、ディケルフがギョッとした表情を浮かべて私から距離をとった。


「全身真っ白で、目が真っ赤……言われてみれば確かにその通りですね……」


「お、お嬢さん、本当に赤ん坊を攫って喰うのかい?」


「食べるわけないでしょ!」


 ひどい誤解だ。

 私は一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。


「あなた達、西の方からこの森に入ったでしょう?」


「おお、よくわかったな。

 ワシらの〈はがね山〉はずっと北西に行ったところにあってな。

 ここから行くには、大きな山を三つ、大河を二つ、狭い海を一つ越え、

 それからゴブリンとトロルどもが巣食う黒い森と火吹き竜の谷――」


 話が長くなりそうだ。


「そんなことはどうでもいいの。

 ともかく、この森の西に住む人達が私のことを何と言ってても信じちゃだめ。

 あの人たちはみんな私のことが嫌いなのよ。

 だからそんな風に私のことをひどく言うの」


「どうしてですか?

 あ、さてはあの魔法の力でイタズラを――」


「違う!」


 ディケルフはいったい私を何だと思ってるのかしら?

 まあ、まったく心当たりがないと言えば嘘になるけど。

 でも直接の原因は別なところにある。


「……戦争をしてたのよ。

 だから、お爺さんの息子が私に殺されたっていうのは、たぶん本当。

 でも、戦争中のことはお互い様よ。

 私だって、殺されてあげるわけにはいかないもの」


 戦争と聞いて彼らもおおよその事情を察してくれたらしい。


「なんともまあ、お嬢さんのようなかわいらしい子が戦とは……痛ましいことだ」


 太っちょのイェンコが悲しげにため息をついた。


「すると、やっぱりこのクソ重たい防具は無駄だったということかのう……」


「そういうことになるわね。

 それでどうするの?

 私としては、防具を置きに戻って身軽になることをお勧めするけど」


 どうせまだ大した距離は歩いてはいないのだ。

 ディケルフもがっくりと肩を落としながら言う。


「そうさせてもらいましょう。

 罠のあるところはまだ先ですからね。

 正直、戻るだけでもしんどいですけど……」



 余計な防具を小屋に置いて再出発。

 今度は戦斧と盾だけを背負い、投擲用の手斧を二本ずつ腰に吊るした格好だ。

 身軽になったドワーフたちは足取りも軽く、程なくして罠を仕掛けた地点にたどり着いた。

 

「おや、獲物がかかったようですね。

 どうです、すごいでしょう」


 そういって眼鏡のディケルフが自慢げに指した先に獲物はいない。

 あるのは凄惨な血しぶきの跡と、肉塊と呼ぶのもはばかられるような断片だけ。

 それらが辺り一面にまき散らされていて、とんでもなく酷い臭いがただよっている。

 ボロボロにちぎれた毛皮の破片から、かろうじて獲物が鹿だったらしいことだけは分かった。


「たしかにすごい威力ね」


 その点は同意せざるをえない。


「だけど、私たちのお肉はどこに消えてしまったのかしら?」


「森の動物たちが持って行ってしまったんじゃないですかね」


 なるほど。


「わざわざ小分けに切り刻んでくれてあったんだから、動物たちもさぞ持ち帰りやすかったことでしょうね」


 私が皮肉を言ってみても、眼鏡のディケルフはまるで動じた様子がない。


「フフン、計算通りです。

 あ、お二人はそれ以上近づかないでください」


 言われなくても、あんな汚い場所にわざわざ近づきたいとは思わない。

 だけど、彼の言葉は思っていた以上に実際的なものだった。


「見ててください、ほら」


 彼が足元の小枝を拾って投げると、ドワーフ達が使う大きな戦斧がどこからか回転しながら飛んできて、反対側の木を七本ばかりなぎ倒して止まった。

 いったいあれは何を狩るための罠だったのだろう?

 鹿や猪じゃないのは確かだ。

 熊を狩るにしたって過剰な威力だろう。

 そんな罠が、他にもまだいくつか仕掛けられているらしい。

 喜々として罠の解除作業をはじめたディケルフを横目に、太っちょのイェンコにきいてみた。


「あなたたちの国では、狩りってああいうモノなの?」


「いいや、お嬢さん。

 猟師連中は、くくり罠や落とし穴を使うことが多いよ。

 あとはまあ、トラバサミやカゴ罠かのう。

 うちの罠技師殿も腕はいいんだが、まあ、見ての通りの奴でなあ……」


 確かに罠技師としての腕は本物に違いない。

 あれだけ大掛かりな仕掛けなのに、私も罠の存在にまったく気づけなかった程だ。

 だけど、どうしてこうなるのかしら?

 私たちの会話が耳に入ってしまったのだろう。

 罠の解除にいそしんでいたディケルフが会話に加わってきた。 


「一つ言い訳させてくださいよ。

 私の本業は、狩猟用ではなく戦争時の防衛用の罠なんです。

 捕獲ではなく殺傷が主目的なんですね。

 誰だって手負いのトロルなんて相手にしたくないでしょう?

 だから、タフな怪物を確実に殺しきるだけの威力が必要なんです」


 トロル。これも今となってはお伽話にしか出てこない名前だ。

 はるか西には、今でもそういう不思議な生き物がたくさん生き残っているのだろうか。


「だからって限度っちゅうものがある。

 何年か前の戦の後だったか、お前さんの担当場所を戦場掃除しに行った奴らが

 げっそりやつれて戻ってきたうえ、わしが用意した晩飯を全部吐き戻した事があっただろう。

 全員がだぞ!

 いったい何をしたらあんなことになるんだ」


「あれは貴方にも責任があると思いますよ。

 よりによって晩の献立にモツ煮込みを選ぶなんて。

 あとはまあ、相手がエルフだったのも関係してたんじゃないかと」


「他の場所を担当しとった奴らは平気だったぞ!

 あの日のスープはわしの人生でも五本の指に入る出来だったというのに

 まったくもったいないことをしてくれたものだわい」


 二人は私を置いてけぼりで昔話に興じているけれど、何が起きたかは大体わかった。


「それで〈挽肉製造機〉ってわけね」


「そうなんですよ。

 私の戦区の掃除担当たちが罠の威力にちなんでつけてくれたんです。

 ひどい綽名のようにも聞こえるでしょうが、誉ある名だと私は思っています」


 経緯を聞く限り、かなり怨みのこもった二つ名にしか思えないけれど……。

 まあ、本人が満足しているならいいのかしら。


「皆さん口をそろえて無駄な威力だといいますけどね、

 それでも、もし私がもっと威力のある罠の開発に成功していたら

 あるいは地龍の襲撃ももっと少ない犠牲で撃退できたんじゃないかと思うんですよ」


「それはどうだろうなあ……」


 首をひねるイェンコに対してディケルフは自信満々だ。


「間違いありません。

 だから隊長も私に声をかけたのでしょうしね」


「あら、罠を使って倒すつもりなの?」


「この人数であれを倒そうと思ったら、他に手段はありません。

 もっとも、どんな罠で倒すつもりかまでは知らないですが」


「そんなんで大丈夫なの?

 そもそも、どうやって罠におびき寄せるつもりなのかしら」


「地龍は古代の遺跡に眠る霊気結晶に惹きつけられると言われておっての。

 地龍の次の目標がこのあたりの地下遺跡ではないかと隊長はにらんでおる。

 そこでこうして先回りをして、準備を整えたうえで地龍を迎え撃とうとしとるわけだ」


「でも、肝心の遺跡がまだ見つかってないんです。

 戦い方は、遺跡の地形と状況次第といったところですね」


 なるほど。


「あなたたち、結構行き当たりばったりなのね」


「無茶は最初から承知ですよ。でもまあ、普通なら分の悪い賭けでも、

 私たちのように失うものが少ない身からすれば割のいい賭けになるわけです。

 うまくいけば『歴史の間』に私たちの像が建ちますよ!」


 行き当たりばったりどころか破れかぶれだった。


「それでも、たった一つの命でしょう?」


 私がそう言うとイェンコの目がスッと細まった。


「そう、たった一つだ。

 だからこそ、その使い道が重要なのだよ」


 普段の好々爺然としたそれとはまるで違う、抑制され覚悟の決まった声だった。


「わしは飯を作る以外に能がない。今更ほかの技能を学べるほど若くもない。

 厨房を追い出された以上、〈はがね山〉には無駄飯喰らいとしての余生しか残っとらん。

 だが、ここでは違う。

 英雄たちのために飯を作り、英雄たちと共に戦うことができる。

 たとえ地龍相手に命を落とすことになるとても、ただただ余命を持てあますよりよほどましな使い道だろうて」


「死に場所を求めているってこと?

 私にはわからない考え方ね」


 なにせ、命大事で恥も外聞もなく逃げ出してきた身だ。

 戦場に出たこともあるけれど、あれは自分と家族の命を守るための戦いだった。


「死に方の話なんぞしとらん。

 生き方の話をしとるんだ」


「違いがわからないわ」


 死地に赴くことを良しとするなら、それは死に方を選んでいるのと同じなんじゃないかしら。


「そんなに深刻な話でもないですけどね。

 勝算は意外と高いんじゃないかと私は踏んでいます。

 なんといっても、我らを率いるはあの〈間違い種のイェラナイフ〉なんですから」


「間違い種?」


 いったい何のことかしら?


「お嬢さんは知らんでええ。

 おい、ディケルフ。お前さんもその名をだすな。

 隊長がその二つ名を嫌がってるのは知っとろうが」


「すみません、軽率でした。

 リリーさん、この件はどうか忘れてください。

 それじゃあ私は罠を片付ける作業に戻りますね」


 そういってディケルフは気まずそうに藪の中に戻っていった。


「お嬢さんや」


 ディケルフが消えていった先をぼんやりと見つめているとイェンコが話しかけてきた。


「なあに?」


「お嬢さんこそ、なんでこの戦いに加わったのかね。

 ディケルフはああいったが、やはり勝算の低い危険な戦いだ。

 わざわざ関わる必要もなかったろう」


 話の流れ的に、なんだか面白そうだったから、とは言いにくい。


「生き残るためよ。

 あのままじゃ、お城に送り返されそうだったんだもの」


「さすがにそんなことはせんよ」


 イェンコは苦笑しながらそう言うけれど、さてどうだろう?

 少なくとも〈酔っ払い〉のイェルフは本気で私を酒樽と交換しそうに見えた。


「それに、この森で暮らすならあなた達と一緒のほうが安全だし、

 いざとなったら逃げればいいんだから」


「ハッハッハッ!

 お嬢さんはなかなか狡猾だな。

 だがまあ、土壇場で逃げるのはなしにしてもらいたいのう。

 怖くなったなら戦いが始まる前に言っておくれ。

 そうしてくれれば、まだやりようはある。

 それにお嬢さんには義のない戦だ。誰も咎めはせんだろうて」


 こんな風に言われてしまうと、私のように善良な人間はかえって逃げづらくなってしまう。

 でもきっと、この年かさのドワーフはそんなことまでは考えていないだろう。

 純粋に親切心からこう言ってくれているのだ。

 うちの宮廷もこんな人たちばかりだったらよかったのに。


「それに、痛快じゃないかと思ったのよ」


「なにがかね」


「私たち魔女はおとぎ話ではいつも悪役じゃない?

 それが今度は、竜を退治する側になるのよ。

 英雄みたいに!」


 これを聞いてイェンコの眉尻が少し下がった。


「お嬢さんの国では精霊憑きの扱いはそんなにひどいかの」


「精霊憑きって、この前もそう呼ばれたけどなんのことかしら?」


「お嬢さんのように特別な力を授かった者のことだよ。

 わしらの間では、精霊がその身に宿って力を与えているのだと考えられておる」


「私たちの国では、魔女、あるいは魔法使いと呼ばれているわ」


「あまりいい意味ではなさそうだの」


「まあ、よくはないわね。

 特に西隣の国では悪魔の手先として火炙りにされるみたいよ」


 西のホルニアでは太陽教が盛んだ。

 彼らの教えでは、魔法とは夜の闇から生じる邪悪な力であり、その使い手は焼き滅ぼさねばならないとされている。

 魔法使いたちに何かしら欠けた箇所があるのは、その身が闇に呪われている証拠である、とも。


 その点、この国に王族として生まれた私は非常に幸運だったといえる。

 私が生まれてからこっち、宮廷で大っぴらに魔女の悪口をいう人はいない。

 お兄様が即位してからは特にだ。

 だけど、この国では元から魔女の扱いが良かったのかといえばそうではない。

 大人、特に老人たちの態度を見ていればわかる。

 私とすれ違った後、彼らがこっそり魔よけの印を結んでいるのを見ることが時々あった。

 あちらの国のように即火炙りとまではいかずとも、やはり彼らにとって魔女は不吉な存在なのだ。


「あなたたちの国では違うの?」


「能力と、当人の振る舞い次第じゃな。

 その力を他人のために振るえば尊敬されるし、自分のためにばかり使えば嫌われる。

 とはいえ、何かが欠けている者というのは、それだけで見下されやすい。

 力の方向性によっては危険な存在として忌み嫌われることもある。

 そういう立場の弱さに付け込もうとする輩もおるのだ。嘆かわしいことにな」


 そう言ってイェンコは溜息をついた。

 ようするに私たち異能者の扱いはどこも大きくは変わらないのだろう。


 そんな話をしているとディケルフがひょっこりと戻ってきた。


「お待たせしました。

 罠の解除が終わりましたよ」


 彼は斧やら刺付き鉄球やら円盤鋸やら、物騒なものをどっさりと抱えていた。

 いったいどうやってこんなにたくさんの凶器を仕込んでいたんだろうか?


「残った端肉だけでも集めれば結構な量になるはずです。

 持ち帰って肉団子スープでも作りましょう」


 ディケルフの提案にイェンコが顔をしかめた。


「いやダメだろう。腹壊すぞ」


 私も老ドワーフに賛成だ。

 なにしろ、おなかの中身も一緒にまき散らされているんだもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る