21話 レイダークとエクスティ

「ま、待ってくださーい!」



 …………何をしにきた。



 「はぁはぁ……お、追いかけてきたんですよ! 間に合ってよかった~。絶対黙って行っちゃうと思ってましたから」



 さっきまで戴冠式だったはずだが。王女が抜け出して来ていいのか?



 「大丈夫です。ちゃんとバレないように抜け出してきましたから」



 今頃城は大騒ぎだろうな。



 「だ、だって! こうでもしないと最後のお別れできないと思いましたから……」



 ワガママなヤツが国を治めていけると思うのか?



 「うっ……が、がんばりますッ!」



 ふん。



 「あの……全部の神魔宝貴(ファウリス)返却はどのくらいかかりそうなんですか?」



 …………………………



 「に、二十年くらいとか?」



 百年はかかるな。



 「そ、そうですよね。そのくらいかかりますよね。アハハハ」



 何度もお前に言ったはずだぞ。



 「だってもしかしたら縮まってるかもしれないし……レイダークさんが計算違いしてたかもですし……」



 ありえんな。オレがそんなミスをするわけがない。



 「ハハハ、そうですね」



 ……………………



 「……私、レイダークさんの事が好きです」



 王女が大怪盗に言っていい言葉じゃないな。



 「はい、そうですね」



 なら何故言った?



 「だって大好きですから」



 ……ふん。



 「………………」



 ………………お前は幸せになる道を選ぶべきだ。オレなんかよりもっと相応しい相手はいる。不老不死の相手に好意なんて持つもんじゃない。



 「ハハハ、やっぱフラれちゃいました。まあ、わかってましたけどね」



 ……………………



 「私、レイダークさんを後悔させてみせますから。こんな可愛い王女を振ったの失敗だったって。いつか結婚したら、その夫に言うんです。私を振った大怪盗がいてさぁ、きっと未練タラタラで私を忘れられず悔やんでるって。生まれた子供にもレイダークさんが悔しがってるって言って、それで…………ええと、それで――――」



 ………………



 「それでそれで……それから……それ……から……ふぐっ」



 泣くな。王女が情けない。



 「だって……だってだってだってだってぇ……もう私は生きてる間にレイダークさんと会えない」



 …………………………



 「会えないよぉ……レイダークさんともう会えないよぉ……うわーん!」



 …………………………



 「うっうっうっうっ……ひっく……ひっく……」



 …………やめてもいいか。神魔宝貴(ファウリス)の返却をやめれば、オレはお前といられる。



 「ダメです~。うわーん! レイダークさんは不老不死のせいで苦しんでたんですから~。自分を不幸にする真似はしなちゃダメです~。うわーん!」



 なら、どうしろってんだ。



 「神魔宝貴(ファウリス)を返却するんですー! 不老不死の呪いを解くんですー! うわーん!」



 言ってる事と感情があべこべだぞ。



 「ごめんなさい~。うわーん! うわーん! ひぐっひぐっ」



 ……ちっ、仕方ない。お前ともう一つ約束してやる。



 「うっうっうっ……はい?」



 お前との最後が泣き顔なのは気に入らん。お前が生きている間にまた来てやる。その時は笑顔にしておけ。



 「私、またレイダークさんに会えるんですか? ほんとですか?」



 ふん、お前ごときが心配するな。



 「あ、そうです。これ渡さないと」



 魔法杖?



 「そうです。これから私は王女になりますから。魔法使いの道具はいらないんです~。だからレイダークさんに渡したくて。魔法を教えてくれてありがとうございました」



 オレは大怪盗だ。こんなモノを渡されても困るんだがな。



 「だってだって、これぐらいしかあげられる物が思いつかなくて……」



 ふん、まあいいだろう。このくらい受け取ってやるのが大怪盗の器というものだ。



 「ありがとうございます! 受け取ってくれて嬉しいです」



 薪がなかったらコレを燃やせばいいしな。無駄にならん。



 「よかった~。私の魔法杖がレイダークさんの役に立つよ~」



 餞別を渡したお前が燃やす事を推奨するんじゃない。



 「神魔宝貴(ファウリス)の返却をやめて戻って来るのは絶対ダメですからね」



 わかっている。



 「じゃあ待ってます。私、またレイダークさんと会えるの楽しみにしてますから」



 ああ。



 「その時は私の孫とかいるのかなぁ。子供でも全然想像できません」



 そうだな。



 「楽しみです。お婆ちゃんの私と子供と孫と一緒にレイダークさんと会えるの」



 しわくちゃのババアになったお前か。



 「はい、私しわくちゃのお婆ちゃんです」



 楽しみにしといてやる。光栄に思え。



 「うわーん。レイダークさんとまた会えるよー! 嬉しいよー! ふええええ~」



 泣くか喜ぶがどっちかにしろ。



 「はい。うわーん!」



 約束……必ず守る。



 「うわーん!」



 お前と子供と孫と会う約束……絶対に守るよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る