20話 レシレイラ城門前

レシレイラ城の城門前を警備していた二人の兵士は信じられない人物を目撃した。



 「城門を開けろ。素直に従うなら見逃してやる」



 何日か前、このレシレイラ城に侵入したレイダークが、突如目の前に現れたのだ。さっきまであくびを噛み殺し、城外に広がる風景を見ながらボーッとしていた二人にとって、それはあまりに衝撃的な来訪者だった。



 「おい、まさかコイツよ……」



 「間違いねぇぞ! 本物のレイダークだ!」



 二人は即座に懐から手配書を取り出しレイダークの顔と何度も見比べた。その後、首から下げていた笛を空に向かって吹き鳴らし、レイダークが現れた事を城内に知らせる。


 耳をつんざくような音が城中に響き渡ったが、レイダークは微動だにしない。笛の音を止めようともしなかった。蝉の鳴き声でも聞いているようにその場に立っている。



 「ひゃっひゃっひゃっひゃっ! バカが! カモがネギしょってやってきたぜ!」



 「バカすぎんだろお前! どうしてこんな所に来ちまうかなぁ!」



 兵士達は腹を抱えて笑い始めた。



 「今のお前はなぁ。生死問わずのとんでもねぇ懸賞金がかけられた犯罪者なんだよ。お前を俺達が殺せば大金が転がってくるんだわ。つまり、この城にいる兵士は全員お前を殺したくてしかたがねぇってこと。当然俺達もな! 例外はいねぇ!」



 「シュルーク様の言った通りだな。城に侵入した時と違って、ヤツはもう分身は使えない、たった一人でこの城にやってくる。だから簡単にブッ殺せるってな!」



 二人は素早く剣を抜くと、その剣先をレイダークへと向けた。二本の剣がレイダークの喉元にピタリと止まっている。ほんの少し剣を押すだけでレイダークの喉を抉れる状態だ。


 剣を構えたまま二人の兵士はニヤニヤ笑っている。獲物を前に舌なめずりをしており、自分たちの優位を確信していた。



 「ブッ殺す? 何を言っているんだ?」



 命を握られている状況だが、レイダークは全く表情を変えていなかった。むしろ、兵士の正気を疑うように首を傾げている。



 「しっかり聞いとけや! 何人がお前の命を狙ってると思ってんだ! たった一人で勝てるワケねーだろ!」



 「兵士の数は秩序警(イールミリ)の時と比較にならんぜ? さっきの笛で全兵士が臨戦態勢だ間抜け! もうすぐそこの城門が開いて、とんでもない数の兵士がお前を殺しに来る。八つ裂きだよ! ひゃひゃひゃひゃひゃ!」



 勝利を確認している二人には余裕しかない。獲物を前に舌なめずりだ。いつでも殺れると、完全に勝ち誇っている。



 「まあ、いいか。オレがやってきた事が派手に伝わるならなんでもよかったからな」



 レイダークはバカにしたようなため息を兵士達に見せつける。



 「あん?」



 「何言ってやがる?」



 兵士達の剣に力が入る。



 「どうして大怪盗であるオレがわざわざ城門(こんな所)から入ろうとしていると思う? どうして以前のように侵入しないと思う? どうしてオレが来た事を城内に知らせたと思う?」



 ギイッと鈍い音がなった。城門が開こうとしているのだ。僅かな隙間からでもわかる。武器を手にした大量の兵士がレイダークを殺すために突撃しようとしていた。



 「それはな」



 門だけでなく、城内にも大量の兵士がいる。ここにいる兵士がいくら大人数でも、それが城にいる全兵士なワケがない。ここ(城門前)は始まりにすぎないのだ。


 城門から先は熾烈な戦場となるだろう。たった一人を駆るため、レイシレイラ城の全勢力がレイダークに向かってくる。



 「大怪盗が来た恐怖をクソ野郎(シユルーク)に実感させるためだ」



 だが、それがどうしたとでも言うようにレイダークは啖呵をきる。


 その態度は全兵士達に対するゴングだった。



 「ほざけぇぇぇぇ!」



 「死ねぇぇぇぇぇ!」



 城門が開いたと同時に、レイダークの喉元へ二本の剣が思い切り押し込まれた。


 二人は最低でゲスの極みのような表情をしてレイダークにとどめを刺す。


 そう、レイダークにとどめを――――



 「は?」



 「へ?」



 だが、レイダークにトドメはさせなかった。レイダークの喉を貫こうとした時、剣が喉の硬さに耐えきれず砕けてしまったのだ。


 レイダークはその場から全く動いていない。何の防御もしていない。



 「な、何が……?」



 「起こっ……た?」



 ワケがわからなかった。ただ、二人が喉を貫こうとした時、伝わった手応えは鋼鉄と変わらない感覚だった。肉感など全くない。人間の身にあるワケがない硬さだった。



 「お前らごときがこの大怪盗を傷つけられるかぁッ!」



 レイダークは狼狽している二人を容赦無く蹴りつけ、その身体を城門へ吹き飛ばした。



 「がぶふっ!」



 「ぐぎゃあっ!」



 二人の兵士は開いた城門から出てこようとしていた大人数の兵士達にブチ当たり、そのまま動かなくなる。死んではいないが、再起不能になったのは間違いなかった。



 「そこの有象無象。お前達も気をつけたほうがいい」



 吹き飛ばされた二人のせいで勢いが弱まった。冷や水をかけられたように城門にいる兵士達が動揺し、大量の視線がレイダークへ向く。



 「今のオレは見た目から想像もつかない程イラついている。そこの二人と同じ目にあいたくなければ、さっさと家に帰って自分の息子でもシゴいてろ」



 動揺していたが、そう言われて(挑発されて)大人しくする兵士はいない。レイダークを絶対悪と認識し、大勢の兵士はたった一人の人間に向かっていく。


 レイダークは兵士達の真正面へ突っ込んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る