第6話

それだけ言って、私はお弁当に視線を戻す。これで話は終わり。一方的に切り上げて、ウインナーを口に運ぶ。今度こそ食べられると思ったのに、またしても環くんの呟きによって止まる。


「叶わない恋って何?」

「無謀な恋ってこと」


受け売りの言葉を返しても、彼は納得いかないようだ。


「稜ちゃん先輩の好きな人って、彼女持ちなの?」

「どうしてそうなるの。彼女がいる人に手を出すわけないでしょ」

「なら、すごく歳が離れてるとか」

「ううん」


1個下の子だよ。言えないけど。


「じゃあどうして、「叶わない」って言われなきゃいけないんだろうね?」

「……え?」


環くんは心底不思議そうだ。


「そりゃあさ、最終的に叶わないことはあると思うよ。じゃなきゃ、片思いなんて存在しないし。だけど、何かする前に決めつけられるのってイヤじゃない?」


ずっと思っていたことだ。思っていて、言えなかったこと。それをすんなりと彼は口にした。


「僕は言わない。「叶わない恋」なんて」


優しく微笑む環くんは、とても歳下とは思えない大人びた表情をしていた。


「だから、稜ちゃん先輩もちゃんと言いましょう! 「叶わない恋なんて言わないで」って」


好きな人と両思いになりたい。

恋人になる未来を、叶えたい。

そんな思いを邪魔しちゃいけない。


彼はそう続けて、「カッコつけすぎました」とおちゃらけた。


「……敵わないなぁ」

「稜ちゃん先輩、話聞いてた? 「叶わない」って、自分で言ってどうするの」

「そっちの「叶わない」じゃないから」


ふてくされる環くんを見つめながら、私は小さく笑った。今度こそ、叶わない恋の呪いから解き放たれたような気がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Don't say 叶わない恋 砥石 莞次 @or0ka_i6ion__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ