第5話

「稜ちゃん先輩って、好きな人いるの?」


それは環くんを好きになってから、1ヶ月が経過した頃だった。昼の放送を終えた私たちは、それぞれの持参したお弁当を食べていた。そこであの質問。ウインナーを持ち上げたまま、箸が宙で止まる。ただの世間話。自分に言い聞かせながらも、どこかで期待という名の芽が顔をのぞかせる。


「……どうして?」


聞き返してからハッとする。これじゃあ、好きな人がいるって答えたようなものだ。案の定、環くんは気がついて、身を乗り出してきた。口の端に卵焼きのカケラをつけたまま。


「いるんだね、好きな人。誰かなぁ」

「いるなんて言ってない」

「でも、いないとも言ってない。でしょ?」

「言い忘れただけ。そんなことより、卵焼きついてるよ」


話をそらすべく、彼の口元を指差す。右側についているのに、さっきから左側ばかり擦っている。


「ああもう、そっちじゃない。逆だってば」

「分かってる分かってる。可愛いさアピってただけ」


ペロッと舌を出して、彼は卵焼きをとる。よし、話は流れた。お弁当食べよう。


「で、誰なの?」


箸を持ち直したところで、またまた彼が尋ねる。


「いないって」

「嘘だね。明らかにいるって顔してたもん」

「仮にいたとしても、誰にも話す気ないから」


突き放すように強く言えば、さすがの環くんも踏み込めやしない。そんな思いから冷たく答えたのに、彼は諦めない。


「なんで? 僕が言いふらしたりするように見える?」

「そういうわけじゃ」

「単に恥ずかしいからってわけでもなさそうだし、他に理由があるの?」


彼の声音は真剣そのもので、決して面白半分で聞いているわけじゃなさそうだった。話す気はこれっぽっちもなかったはずなのに、言葉がスルスルと口をついて出た。


「言われたくないから。「叶わない恋してる」って」



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