第4話
あんなことがあっても、人は恋に落ちる。私は懲りずに色々な人を好きになった。惚れやすい性格なんだろう。優しくしてくれた人、笑わせてくれた人、そばにいてくれた人に好意を抱いては、それ以上進むことを恐れた。私にかかった呪いは臆病を呼び寄せ、「好き」と言葉にすることを禁じた。誰にも言えない恋は、いつしか霞のように消えてしまうばかりだった。
今回もきっと、例外はない。
中2の春、引き続き放送委員として活動していた私に後輩ができた。ペアとして1年一緒にやっていくことになったのは、新入生の
「だからごめん。私のことは気にせず、先を歩いてちょうだい」
この微妙な距離感は、彼にとって居心地が悪いものだったと思う。もしかしたら、傷ついていたのかも。それでも、どうしても隣には立てなかった。
「なんだ。そんなことか」
誰もを夢中にさせるような笑顔で、環くんは言った。それから、なんてことないって顔で私の肩を抱き寄せる。
「行こう、稜ちゃん先輩!」
「ちょ、ちょっと、これじゃ歩きにくいって」
「じゃあ走ろ! ダッシュダッシュ!」
それはもっと大変だよ。言うより先に、彼は走り出す。
「二人三脚してるみたいだねっ」
ビュンビュン風の音がする中で、楽しげな声がかろうじて聞こえてくる。
「肩組んでるだけだけどね」
バラバラに動く2人の足を見ながら、小声で呟く。風にさらわれるくらいの声だったのに、彼の耳には届いたらしい。
「そんなこと、気にしなくっていいんだよ!」
その瞬間、パッと世界が広がった。開けたホールに出たから。それだけじゃない、きっと。そう思わせるくらいの眩しい光に、目を何度も瞬かせる。このとき、私は恋に落ちたのだ。新しい景色を見せてくれた彼に。
何度目かになる、叶わない恋の始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます