第4話

あんなことがあっても、人は恋に落ちる。私は懲りずに色々な人を好きになった。惚れやすい性格なんだろう。優しくしてくれた人、笑わせてくれた人、そばにいてくれた人に好意を抱いては、それ以上進むことを恐れた。私にかかった呪いは臆病を呼び寄せ、「好き」と言葉にすることを禁じた。誰にも言えない恋は、いつしか霞のように消えてしまうばかりだった。

今回もきっと、例外はない。


中2の春、引き続き放送委員として活動していた私に後輩ができた。ペアとして1年一緒にやっていくことになったのは、新入生の一路環いちろたまきくんだった。ふわふわの癖っ毛にラウンドメガネ、茶色がかった瞳は海外の少年のよう。決して目立つようなタイプじゃなかったけど、その美しい容姿は人目を引いた。並んで歩くのが恥ずかしくなるくらい。だから距離をとって、さも無関係ですって顔で歩くのが常だ。そのくらい綺麗な子。


「だからごめん。私のことは気にせず、先を歩いてちょうだい」


この微妙な距離感は、彼にとって居心地が悪いものだったと思う。もしかしたら、傷ついていたのかも。それでも、どうしても隣には立てなかった。


「なんだ。そんなことか」


誰もを夢中にさせるような笑顔で、環くんは言った。それから、なんてことないって顔で私の肩を抱き寄せる。


「行こう、稜ちゃん先輩!」

「ちょ、ちょっと、これじゃ歩きにくいって」

「じゃあ走ろ! ダッシュダッシュ!」


それはもっと大変だよ。言うより先に、彼は走り出す。


「二人三脚してるみたいだねっ」


ビュンビュン風の音がする中で、楽しげな声がかろうじて聞こえてくる。


「肩組んでるだけだけどね」


バラバラに動く2人の足を見ながら、小声で呟く。風にさらわれるくらいの声だったのに、彼の耳には届いたらしい。


「そんなこと、気にしなくっていいんだよ!」


その瞬間、パッと世界が広がった。開けたホールに出たから。それだけじゃない、きっと。そう思わせるくらいの眩しい光に、目を何度も瞬かせる。このとき、私は恋に落ちたのだ。新しい景色を見せてくれた彼に。

何度目かになる、叶わない恋の始まりだった。

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