第2話
梶くんとの恋も、やっぱり上手くいかなかった。私が告白しようと呼び出したその日。願いが叶うと噂のベンチのそばにいたのは、彼だけじゃなかった。呼び出していない女の子も一緒だったのだ。名前も知らないその子は、私が来るなり気まずそうに目を逸らす。
「中谷、ごめん」
口を開いた私に被せるように、梶くんが頭を下げる。ごめんって何? まだ何も言っていない。何も伝えられていない。せめて、それくらいは聞いてくれたっていいんじゃない? 頭の中に浮かんだ文句は、言葉にならないまま喉につっかえた。
「俺、コイツが好きなんだ。付き合いたいと思ってる。ほら、3組の
知らない。そんな子、見たこともない。だって、梶くんしか目に映らなかったんだもん。「恋すると視野狭くなるよね。何も見えてない」
いつか友だちに言われたことが、今になって納得いった。本当だね。私、何も見えてなかったよ。梶くんばっかりで、周りの都合の悪い部分にはフィルターをかけていた。目に映りさえしなければ、無いに等しいと思っていた。
「ちょっと、こうちゃん」
「だって、ハッキリしておかなきゃだろ? お互いのためにもさ」
「こうちゃん」と彼女が親しげに呼んで初めて、彼の下の名前を意識した。何度も書いた幸と慈の2つの漢字。
「大丈夫?」
梶くんの未来の彼女は、真っ直ぐに私に駆け寄る。言いたいことは山ほどあった。イヤミの1つくらい吐いて、スッキリしたかった。だけど、口をついて出たのは祝福の言葉だった。1ミリも気持ちのこもっていない、形だけの。それでも、彼女は笑って言うのだ。「ありがとう」と。全てにおいて負けた気がした。
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