第22話 天才少女襲来

 ゆっくりと門が開く。開いた門から次々と荷物が運び込まれる。

 運ぶのはホッファたち行商人。

 今日は月に一度の定期便がくる日だった。

 荷物は主に布や香辛料、日持ちする食料など。金属類もある。

 そして奴隷と傭兵といった新しい戦力となる人材。

 いずれもこの砦では手に入らないものを彼らは運んでくる。

 スノウ達は彼らが来る知らせを受けて門前広場に見学にきていた。

 目的はなんといっても新しく肩を並べるであろう仲間。

 どんな奴が来るのかの確認は恒例の行事。


 荷を引く馬はスノウが知る馬とは違いかなり大きい。

 なんでも生まれた時から砦で育てられた馬で、ここで育てられたということは魔力があるということで、つまるところ魔物の一種だ。

 これらの馬は非常に賢く、強靭で、勾配のある山道をものともせず、荷を運ぶことができる。

 ではこの素晴らしい馬を他所でも育てればいいじゃないか、と考えがちだが、そううまくはいかないものだ。


 こんな話がある。

 昔この砦の素晴らしい馬を見た貴族が、ぜひうちにも欲しいと言い出した。

 当時の砦の指揮官はその言葉に仕方なく馬を献上した。

 大層喜んだ貴族だったが、貴族の元へ送られた馬は誰の命令にも従わず、何も食べることもなく、次第に痩せ細り衰弱していく。

 どうすることもできなかった貴族はこの馬を砦に返した。

 すると馬はみるみる元の姿へ戻っていった。

 貴族が指揮官へどうなっているのか問いただすと、指揮官はこう言った。


 「あなたはこの馬に認められなかった」


 馬が命令に従わなかったのは貴族が従うに値しないと判断されたから。

 何も食べなかったのは死ぬことを選んだから。

 魔馬は自らより下の存在には決して従わない、誇りある生き物だった。

 現在、この馬達は砦と麓にある街を往復するのみとなっている。

 離れすぎると魔力がなくなっていき、生きていけないためだ。

 そんな彼らをホッファは大切にしている。


 スノウの目線の先にそのホッファがいた。

 相変わらず元気そうだ。

 その時、兵士たちにどよめきが走る。

 何事かとスノウが目を走らせると、その原因はすぐにわかった。


 少女だ。それもかなりの美少女といってもいい。


 その少女は荷馬車に腰掛けこちらを見ている。

 浮いていた。この場所においてあまりにも。

 周囲にはみすぼらしい格好をした奴隷と、見るだけでも汗臭い傭兵、それと行商達、ほとんどが男だ。

 その中においてこの少女はあまりにも異質。

 しかし腰には刀だろうか、武器を差していることから傭兵としてきたのか。

 少女は突然ピョンと荷馬車から降りると、こちらに歩いてきた。

 唖然とする兵士たちの前に立った少女は浴びせられる視線を意に介さず兵士たちを見渡す。

 自信ありげな表情が印象的だった。


 「さすが、噂通りの場所」


 少女はそう言うと鞘ごと刀を掴みビシッとこちらに向けて叫ぶ。


 「我こそはというもの!勝負しなさい!」


 まさかの挑戦状にどよめきが走った。

 突然の事態に呆けた面を慌てて戻し、その場にいた兵士たちは一言少女に断りを入れ、離れた場所で顔を付き合わせて集まる。


 「お、おいどうするよ……」

 「結構強そうだぞ」

 「うっひゃっひゃっひゃっひゃ、イキのいいのがきたな!!」

 「んで、誰がいく?」


 戸惑う兵士たち。ここで負けるのは後々のことを考えると非常にまずい。

 ちなみに喜んでいるのはハイネだった。実力的に高みの見物をするつもりだろう。


 「ハ、ハイネ姐さんいけないのか!?」

 「別にいいぜ〜」

 「えっ」


 驚く兵士たちをよそにハイネはそう言うと少女の前に。


 「俺が相手してやろうか〜?」


 まるで散歩をしようと言うかのようにに申し出る。

 しかし少女はじっとハイネを見て首を振る。


 「遠慮しておきます。あんなことを言っておいてなんですが、……私は勝てないとわかってる相手に挑むほど愚か者ではないつもりです」

 「だってよー」


 ハイネはニヤニヤしながらこちらへ戻ってきた。

 これに慌てたのは兵士たち。どうするどうすると再び作戦会議。

 

 「ダメかっ、ちくしょう」

 「見にくるんじゃなかった……」

 「しゃあねえ、俺がいくか!」

 「お前がこの中で一番弱いのにいけるわけねえだろ!」

 「よし、俺が決めてやんよ」


 この場で最も影響力のあるハイネの言葉に静まり返る兵士たち。

 ゴクリと息を飲む音が聞こえた。


 「スノウ、お前いけ」


 近くで座ってそれを眺めていたスノウは突然の指名に驚く。


 「俺かよっ。やだよ!」

 「姐さんの命令だぞ!!さっさといけ!!」

 「そうだそうだ!!」


 無理矢理引っ張られ、前に蹴り出されるスノウ。

 スノウは少女と目が合う。

 ぱっちりしたお目々に透き通った黒い瞳。ツンと筋の通った鼻。長い黒髪は後ろで結われ、尻尾のように揺れている。

 端正な顔立ちは若さと自信に溢れ、生き生きとしている。

 細身だがしなやかで鍛えられてそうな身体。歳は十五、六といったところか、非常に若い。

 だとすれば年相応の体格に見える。

 旅装を見ると安物ではない、仕立ての良さそうな軽装。

 貴族的な気品は感じないが、言葉遣いや振る舞いには生まれの良さを感じる。

 腰にはおそらく刀。見るのは初めてだ。

 意匠のない白鞘、かなりいいものに見える。少なくとも量産型ではない。となれば刀自体も相当のものだろう。

 すぐに使い物にならなくなるだろうからかわいそうだ。


 「……あなたが私の相手ですか?」

 「……まぁ」


 いいでしょう、と少女が刀を抜こうと手をかけた。

 スノウの中のスイッチがスッと切り替わる。

 相手を倒すために思考が加速する……。


 「おい、先に集合だ。……それともお前だけ歩いて帰るか?」

 「うっ」


 少女の背後からジェイルが声をかけ割って入る。

 ジェイルに出鼻を挫かれた少女はそちらを向いてバツの悪い顔をした。

 おそらくジェイルが自分よりも強いこともわかっているのだろう、素直に従う。


 「ふんっ、助かりましたね」


 捨て台詞を吐いて走っていく。

 見た目は良いがなんという生意気なガキだろうか!!

 嵐が去っていくと兵士たちが騒ぎ出す。


 「おいおいおい!イキのいい奴が来たなおい!」


 兵士たちはワイワイとはしゃぐ。

 彼らは揉め事が大好物。自分が当事者でない時に限るが。


 「狙われてんぞぉ、スノゥ」


 いいなーいいなーとハイネが羨ましがる。


 こいつら、他人事だからって好き勝手言いやがって……。

 なんかめんどくさいことになりそうだ……。


 当事者のスノウはいい迷惑だ。

 絶対にあのままでは終わらないだろうと、スノウは身体を暖めておくことにした。



 新顔達の集会が終わると、例の少女は真っ直ぐとスノウに向かってくる。

 噂を聞きつけた兵士たちがワラワラと後ろに続く。

 おまけにわざわざスノウの居るところへ案内するという世話のやきっぷり。


 「お待たせしました。始めましょうか」


 再び少女がスノウの前に立つ。


 「なんで俺なんだ?他のやつにしろよ……」


 当然の疑問だ。周りを見れば相手はいくらでもいる。


 「ここは本当にすごい所ですね。強い人がたくさん。私なんてまだまだなんだってわかったわ」


 ハイネにジェイル、そしてシア。

 砦に来た途端に出会った強者。

 ただの熟練の戦士ではない。魔力を宿した熟練の戦士たち。

 きっと更なる出会いが待っている。

 それを乗り越えた時、自分はより高みへ至ることができる、そう確信した少女。


 「……でも、あなたには負けない」


 その一歩への足掛かりとしてスノウを選んだ。要するに踏み台。

 少女は暗にそう告げる。

 スノウは考える。そんなことは知ったこっちゃない。

 他のやつになすりつけたい。誰かいないか。


 「こいつはどうだ?」


 グレイグを引っ張る。

 グレイグは突然の指名に黙って笑みを張り付ける。


 「……手強そうね。こっちも無傷とはいかないかも……」


 少女は冷静にグレイグを分析する。

 凶悪な見た目だが、奥の手を隠しているように感じる。癖技の気配。

 少女の言葉にグレイグは顔を赤らめ、少年の様に「へへっ」と指で鼻を擦る。

 照れている気持ちの悪いおっさんを押し込み、その横にいた司祭の腕を引っ張るスノウ。


 「んじゃあこいつは?」


 司祭は上目遣いにニヤ〜と笑みを浮かべ少女を見る。

 外套を頭から被っているため、非常に不気味だ。


 「ん、んん……。ちょっと遠慮しておこうかな……」


 得体の知れない相手だ。なんとなく関わり合いにならない方が良いかも……。

 引き気味にそう言う。

 スノウはそれなら、と他を探す。

 周りの兵士たちはスノウが顔を向けると目を背け、急に隣と会話したり明後日の方を向いて視線を合わそうとしない。

 彼らはスノウと少女がやりあうのを見に来たのであって自分が戦いに来たわけではなかった。


 こ、こいつら……、見損なったぞ……。


 勇ましい頼れる戦士たちはどこへ行った。

 スノウも見物側にまわりたかった。


 「最初はあなたでなくともよかったのですけれど、今は違います。あなたに私の実力を見せつけてやります」


 自信に満ち溢れた瞳。自分が勝つことを疑っていない。

 その根拠は一体どこからやってくるのか。


 「生意気な野郎……、じゃなくてガキだ……」


 ここまで言われては流石に引き下がれない。

 それにこの少女、才能がある者特有の言動をしている。

 ナチュラルな見下し。おそらく本人は気づいていない。

 他人の気持ちがわからないのか、それとも理解できないのか。

 敗者の気持ちを、惨めさを知らない。


 目に物見せてやる。


 スノウがやる気になったのを見て少女は微笑みを浮かべる。


 「おい嬢ちゃん」


 ハイネがニヤニヤと笑いながら少女に話しかける。


 「何か?」

 「嬢ちゃんじゃこいつには勝てねえぞ」


 スノウの方を向いていた少女だったが、この言葉に頭だけをハイネの方へ向け見つめる。

 視線をスノウへ戻し「ふーん」と呟くが明らかに納得していない。

 無視もできず、その真意を図ろうとしてるのがわかる。


 「おい、焚き付けるな」

 「何回やっても勝てねえだろうなぁ」


 ハイネの煽りに注意するが彼女はやめようとしない。

 周りも盛り上がってきたとニヤニヤしだす。


 「……いずれにせよ、やればわかること」


 距離をとって向き直る。二人の間が広がる。


 「模擬戦用の木刀はどこですか?」

 「そんなものはない」


 可愛らしく周囲を探す少女にスノウは即答。


 「怪我しても知らないですよ」

 「……」


 返事は返さない。

 黙って腰から剣を抜く。

 怪我?そんなもの、どうとでもなる。

 臨戦体制のスノウを見て、少女もそれに応え刀を抜いた。

 白鞘から美しい刀身が覗く。

 少女の体格に見合った長さ。


 「崩月流、マナ・アートレア」


 誰かが口笛を吹いた。有名なのだろうか。


 「……」

 「名乗りなさい!……それとも怖気付きましたか?」


 そうではない。黙っているのはその必要を感じなかったから。

 口を開かないスノウにもう言葉は不要と感じたのか、刀を構えるマナ。

 中段、左足を引き半身、切っ先はスノウの喉。基本的な正眼の構え。

 これだけでも洗練された美しい動作。

 対するスノウは構えない。腰を落とし、剣をだらりと下げる。

 結局出たとこ勝負、そう考えてのこと。

 マナがすり足で移動。流れるように静かで速い。

 スノウも身体は彼女に向けたままゆっくりと足を動かす。こちらは獣の様。

 間合いはこちらの方が有利。

 先にスノウの間合いにマナが近づく。

 向こうから仕掛けてくると予測。

 もう少しというところでいきなりマナが前に出る。

 いつの間にか片手で持っていた突き出した刀は蛇のようにと軌道を変え伸びてくる。

 心臓を狙ったそれを半身になって避けると、今度は素早く身を引いて突きから横一閃に繋げてくる。

 下から上に剣を構えそれを受け流す。

 マナは身体の流れそのままに回転、肩から袈裟斬り。

 力の入った一撃を剣で受ける。

 追撃を仕掛けようとすると、機先を制するように刃が伸びてくる。

 伸びてくる位置がまたいやらしくスノウの目線に合わせるように刃を置いているので点にしか見えない。気付くのが遅れる。

 やむを得ず二の足を踏むスノウ。


 凄まじい技だ。今の一連の流れの中にいくつもの技が散りばめられていた。

 まず独特の歩法に軽い身のこなし。溜めのない動きはその後の動きを予測しづらい。

 繰り出される斬撃は生き物の様にうねり、流れるように牙を剥く。

 魔力も感じた。身体の動きを補助するように使っているのか、隙がない。

 口だけではない。この若さで、この技術。

 素人のスノウでもわかる。これはちょっとやそっとのことで到達できるものではないはずだ。

 技への理解と気の遠くなるような修練の果てに得られるものだろう。


 天才ってやつか……。


 マナはスノウを圧倒する。

 こちらの動きを読んだかのようなカウンターが抜群にうまい。

 正確で鋭い斬撃に、目の前にいるはずなのに意識外から繰り出される様な攻撃。

 いつもこちらの嫌なところを狙ってくる。

 なんとか粘っているがこちらの攻撃はまるで当たらない。


 マナはやりずらさを感じていた。

 相手の男、確かに力と速さはそこそこ、だがそれだけだ。素人に毛が生えた程度。

 こちらの技に対応しきれていないし、誘いにも簡単に引っかかる。対人経験は少ないと見た。

 それならば、負けるはずがない。

 しかし勝負を決めるような一撃が入らない。

 いけそうにはなるのだが、そこだけは驚異的な勘か何かで回避している。


 少し狙いを変える。


 派手な勝ち方をしたかったが、それは甘い考えだった。

 素人と言っても雑魚ではない。

 長引けばこちらが不利。

 確実に相手の戦力を削いで勝つ。

 そう決めたマナはスノウの胴を薙ぐ攻撃を屈んで避ける。お互い至近距離。

 避けられるが、強力な攻撃。

 まともに受けるのはまずい。

 それにしてもこれが模擬戦だとわかっているのだろうか。

 当たれば危険な攻撃ばかり。まるで実戦。

 気圧されるな、マナは自分にそう言い聞かせるが、心に死の恐怖が忍び寄っているのに気づいていない。


 スノウはマナの攻撃を防ぎながら考えていた。

 それはつまり「どうやったら勝てるか」ということ。

 こちらの攻撃が当たらず、加えてまともに剣を合わせてもらえない。力押しを避けた戦い方。

 近づいて胴を薙ぐ。適当だが、当たればラッキー程度。相手がどう反応するかを見るためのもの。

 身を屈めて避けられる。そのまま反撃がくる。

 足元を狙っていると見て距離を取ろうとステップを踏む。

 だがマナの本命はスノウの右手。

 剣を振った右手が取り残されている。

 スノウはマナを上から見下ろしている状況。マナの狙いにまだ気づいていない。

 マナの身体に隠れた刀が下から掬い上げる様にしてスノウの未だ突き出されている右手を狙う。

 ようやくマナの狙いに気付いたスノウはその攻撃に剣を引き寄せるのではなく、片手で迎え撃つことを選ぶ。

 ギリギリのところで腕を引き右手で持った剣で防ぐ。

 だがマナの力の入った一撃に剣を持った右手は弾かれ、浮いた。

 すかさずマナはスノウの首を狙う。


 完璧に決まった。


 そう思ったマナだが、その身体に衝撃。両手で地面に手をつく。

 スノウはまずいと見るや否や迫るマナを左足で蹴った。

 無理な体勢から飛ぶ様にして蹴り込んだので、スノウも尻をつく。

 なんとも諦めの悪い男。


 すかさず起き上がりながら相手に襲いかかる両者。

 だが、何が起こったのか気づくのが遅れたマナは少し遅い。

 マナの頭の中で選択肢が明滅する。

 すなわち斬るか突くか。

 マナは突きを選ぶ。

 動くのが遅れた。相手はすでに剣を振り上げていることから上段からの斬撃。ならばこちらは力も動きも少ない突きにすれば速く攻撃できるし、速く届く。

 合理的な判断。だが相手が悪かった。


 スノウは突き出される刀を左手で逸らし、無理矢理軌道を変える。左手はそのまま右手に添えるように。

 刀はスノウの肩を抉る。

 スノウは振り下ろした剣がマナに当たる直前で止める。

 剣はなんとかマナの首元で止まった。


 「あっ」

 「俺の勝ちだな」


 立ち上がり平静を装って言うスノウ。実際は心臓がバクバクだった。


 あ、あぶね〜。寸止めとか慣れてないから殺すとこだったよ……。


 周囲の兵士たちは歓声をあげるが、座り込んだマナがワナワナと震えているのに遠慮してかかなり控えめだ。


 「ひ、卑怯だ。私の方が先に入ってたし……、ほんとは何回も勝てた時があったんだ……!大体これは模擬戦っていったじゃないか……!なのにこいつときたらアホみたいにブンブン振り回して……!」


 悲しいほどの負け犬の遠吠え。ただ一理あることも確かだ。

 実際本当に命を賭けていたならマナに分があったかもしれない。

 だがそれにスノウは何も言うつもりはない。この少女の弱いところに気づいていた。

 殺意が感じられない。相手にしていて命の危険をあまり感じない。

 いくら技術や力が優れていても、死の予感を感じないのならばスノウからすれば楽な相手。


 「もう一度やれば勝てる!」

 「でもよお、嬢ちゃん、お前はもう死んでんだぜ」


 再試合を望むマナにハイネが語りかける。


 「死んだらそのもう一回はねえ」


 非情に思える言葉だが、事実だ。死んだらそう思うことすらもできない。

 非情な闘いの世界の現実。


 「くっ、ぐぬぬ……」


 わかりやすく悔しがるマナ。これが素の性格なのだろう。

 大人びた言葉遣いや強気な発言は大人の世界で侮られないためか。

 本当は負けず嫌いで、生意気な、子供だ。


 「いいよ、来い、もう一回やろう」


 なぜ彼女がこんなところに来たのかわからないが、スノウは彼女を歓迎する。

 優しくするスノウだったが、もちろん打算あってのことだ。

 マナが持っている技術をもっと見たい。美しく、洗練されたその技はお手本にするには丁度いい。

 傭兵達の持つ技術ももちろんすごいところはあるが、かなり独特だったり、アレンジされていたりと、様々だ。

 一度、穢れのない、真っ直ぐな技を習いたかった。

 傭兵達からマナに同情の声が出る。


 「あ〜あ、かわいそうに。ありゃ長くなるぞ……」


 スノウはいつも傭兵達を訓練に付き合わせていた。

 もう一回、もう一回となかなか離してくれない。

 ここの兵士たちは体力もあるものだから当然長くなる。

 そんなことを知らないマナは悔しさから誘いに乗ってしまった。


 「……名前」

 「……?」

 「名前は!!」

 「……ああ、言ってなかったっけか、スノウだ」


 スノウ、とつぶやいてその名前を頭に刻んだマナはリベンジに燃える。


 二人の模擬戦はマナが疲れ果てて、泣いて嫌がるまで続いた……。

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