第2話 レッドホッパー

【ワース】の馬泥棒と勘違いされてから二日が経つ。

若しくは、この変な世界に来てから二日とも言える。


俺を落馬から助け、すぐ殺そうとしてきた女性が言うには、ここはロルバン大陸最西部にあるアルバス王国という所らしい。

そんなもん見たことも聞いたこともない。狐につままれたような気分である。

俺は普通に残業して気持ちよくバイクで帰宅していただけなのに・・・。

しかも死んでもいない筈なので、転生したとも思えない。

ちゃんと死んで転生したら、いきなり原始人みたいな恰好して馬に乗っているなんて事はないはず。

多分。


あの馬泥棒の悶着の後、俺は【ワース】から【記憶のない元奴隷】に格上げしてもらい、彼女の保護下に入ることになった。

因みにワースとは、ごく一部の生活必需スキルの欠如した、社会不適合者の総称であるらしく、そのスキルの無い種族はワース等と呼ばれ差別されているらしい。このアルバス王国以外の国でもワースと呼ばれなくとも奴隷になるらしい。ハッキリ言って「人種差別」というやつだ。酷い話だ。

しかし、ごく一部の奴隷はその様な人種ではなく、山賊や海賊に攫われ金目の物をむしり取られて人身オーディションに投げ入れられる、いわゆる普通の人間もいるらしい。

俺はそれである可能性が高いのだとか。



彼女はこの辺りではその名も知れた冒険者であるらしく、身元不明者としてとりあえず安全な場所まで連れて行ってくれるとの事だ。何ともありがたい。

そして彼女の今の目的地であるアルバス王国首都・イムアルバスという所に向かっている。


俺がこちらに来た時に跨っていた馬は可哀そうだという事で野に放し、彼女の馬は一人乗り用らしく、二人は乗れない。

なので馬を引いて歩いて向かうことになっている。

徒歩で四日かかるらしく、俺のいた世界では考えられない所業だ。

こんな広大な大地を徒歩で渡る世界とは・・・。


そして彼女の名前はレッドホッパーというらしい。

勿論本名ではない、冒険者につく名前だという。

俺の名前はと聞かれた時に返答に困った。

素直に川崎祐司かわさきゆうじと答えるべきか一瞬迷ったのだ。



その時に不思議と頭に呼びかけてくる様に声が聞こえたような気がした。

その声が言うままに声に出す。

「俺の名は、オリオトライ。今はそれしか分からない。」

自分の意識の中の声なのか?

どうやら俺はこちらではオリオトライという名前らしい。


レッドホッパーは狩りでウサギや鳥を仕留めて食事の世話までしてくれた。狩りの腕、とりわけ弓の腕前が半端ではなく百発百中であった。

身体は小さいのに剣の腕前も凄まじい。

俺は何も出来なかった、ウサギを追いかけては転び、イノシシには身体をなぎ倒され、散々だ。

レッドホッパーもここまで弱い男はみたことないのだそう。

申し訳なさすぎる。

元いた世界でこんな事が得意な男性なんて極々僅かだと思うんだが・・・。それは言うまい。


川沿いに歩いているので、水にも困らない。

何でも今歩いているこのルートは冒険初心者用に作られた安全路らしく、人の往来も多い。

そうして二日目の夜となった。


今日もレッドホッパーが射止めてくれた鳥を豪快に焼いて食べる。

とても美味しい。これにビールがあったら尚良いのだが、今は奴隷上がりの腰巾着なので贅沢は言わない。

「なぁオリオトライ。あんた記憶喪失とか言ってたけど。随分落ち着いとんな?」

唐突にレッドホッパーは聞いてくる。

「もし人売りに出されてたんなら、さぞかし羽振りの良い格好でアホな顔して歩いとったんやろなぁ。」

鳥を漫画の様に口で引きちぎりながら話す様はまるで豪快な海賊の様だ。


「いやぁ・・・全く思い出せないんです。狩りにも協力出来ていないし、何やってた者だったのか。見当も着きません。」


もし俺がその様な人攫いに合っていたとしたならば、どこかに自分の拠点、つまり生活があったはずだ。

そして知人や友人、家族はどうなのだろうか。

しかし、俺は何故オリオトライなのだ?

この世界に生きていた俺が本物で、文具店で働いていた俺が夢だったのか?


しかし、実際はどうか分からない。一度この大陸地図と世界地図を見せてもらったが、まったく理解が出来なかった。何一つ一致していないからだ。自分が知っている世界地図と・・・。


おまけにその世界地図の両端、海の果ては滝になっており、そこが世界の果てであると記してある。地動説、つまり大地は星であり、球体であるという認識はないという事だ。因みにこっちにも空には太陽と星があり、月に関しては三つもある。宇宙が存在する事は確かだ。この大地も俺が間違っていなければ惑星であり、球体のはず。自転も公転もしているだろう。

太陽系かどうかは分からないが。


とにかく元居た世界のタイムスリップでもなければ時代も古い。これはちょっと分からない事だらけで困る。

なので、当分記憶喪失のふりをして余計なことは言わないようにした。

この2日で結構この世界の事は分かったような気がするが、ほんの僅かだろう。首都に着けばもっとカルチャーショックに見舞われるに違いない。




「あと二日もすれば首都に着くさかい。そうしたらあんたを国が管理する保護施設に預ける事にするわ。まぁ国がやってる施設やし、怖がらんでええよ。」

レッドホッパーは優しく微笑んでくれる。うっすらと緑色に光る瞳に吸い込まれそうになる。

夜のとばりに、焚火でうっすら浮かぶ彼女の顔は息をのむほど美しかった。


つい見とれてしまいそうになるも、誤魔化しながら聞く。

「その前にさ。首都についたら観光だけ一緒にしてほしい。町で色々な物を見れば何か思い出せるかもしれない。」


施設に入るのも良いが、恐らくその手の施設は一度入ったら中々自由が利きにくくなるのは目に見えている。戸籍証明も存在しない上に得体のしれない人間を管理するのだ。自由なはずがない。

そうなる前に首都についたら街を見て回り、限界までこの世界の基本を目と体に焼き付けなくては。今いるこの広大な自然の中とは違い、首都と言うからにはこの世界の社会がそこかしこに見えてくるはずだ。


そこで何とか知恵を得て、今後の方針を決めなくては。


「確かにそやな。んじゃ、ウチがお世話になっているギルドや宿に寄って、首都をグルっと一回りでもしよかー。あ、そやそや。酒のうまい店も知ってんで?酒豪のウチに付き合えるんやったら奢ったるで。」


酒豪なのか。でも酒か、全然飲めるぞ。


「是非お供したいですね。酒は好きなので。」

割と間を空けず即答した。


「何や、記憶ない癖に酒は好きなんか?都合のええ話やな。あんたおもろいなぁ。」

レッドホッパーは軽く笑う。



「さて、明日はちょっと沢山歩く予定やからな。今夜はもうそろそろ寝るんやで。焚火はいつも通り、朝まで消えない特別な薪を使っておくから。安心してええで。」


「はい。ありがとうございます。」

この世界には俺の知っている世界にはない特殊な物体がある。この薪もそうだ。朝まで消えない薪。しかも何回か使用できる超優れものだ。

俺のいた世界にこれが売り出されたら、アウトドア業界がひっくり返る事だろう。

そのほかにも、まだ見たこともないが魔法もあるらしい。

まるでアニメやゲームの世界にでてきそうな世界だ。


まずは基礎からこの世界の事を学ぶしかない。今の俺は赤子同然なのだから・・・・・・。


昨日に引き続き、今夜もよく眠れそうだ・・・・・・・・。


明日こそ、狩りを手伝うぞ・・・・・。





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「・・・てくれ・・・」

「すけ・・・・・れ・・・・・!!」



眠りから覚める。もう朝か。

しかし身体が重い。あまり深く眠れなかったのか?

眉間に指をあて、目を覚まそうと試みる。


「たすけてくれーーーー!!!」

「誰か!誰かいるのか!?」




テントの外で数人の男女が叫んでいる。

跳ねるようにテントから出た。

そこには血まみれの男が一人、それを支える男が一人。

二人とも武器防具に身を固めた屈強な戦士の格好だ。

その後ろには女性が二人、見たところ普通の服を着ている。

相変わらず西洋風である。


隣のテントからはレッドホッパーも出てきた。

「どないしたん!?何があった!?」


怪我した男を支えていた男が悲痛な声で叫ぶ。

「俺たちはここから三百メートル程あちらで野営していた者です!テントで寝ていたら魔物の集団がやってきて襲われてしまって・・・!」


レッドホッパーからここら辺には魔物がいる事も聞いていた。通常の野生動物よりも段違いに凶暴で、その堅さや強さは小型犬サイズの魔物でも訓練を受けていないと成人男性でも太刀打ちできないという。

その群れが来たというだけで恐ろしいではないか。


「その中にグームベアーがいたのよ!しかも成獣よ!」

後ろの女性が叫ぶ。



レッドホッパーの顔色が変わった。

「うそやろ!?こんな所にグームベアー?A級の魔物やんけ!ここは初心者用の冒険路のはずやで!?」


「俺たちもそう思っていたんですが、本当にいます。こいつはそいつの一撃でやられたんです。」

怪我人を支える男は泣きそうな声で言った。


怪我人をよく見てみると、まぁひどい。

左腕がぷらーんとぶら下がっているだけではないか。皮一枚繋がっているだけだ。

いや、これでは繋がっているとは言えない。

確かにベアーというからには熊なのだろう。俺の知っている熊もそれくらい恐ろしい。



「血が垂れてるな。辿ってくるに違いない。間もなくその群れはこっちに来るやろ。オリオトライ!」

レッドホッパーが勢い良く俺を呼ぶ。

「この四人を連れてあの岩陰に隠れるんや。ウチはその群れを迎え撃つ。」



すかさず男が口を挟む。

「いくら何でも無理です!群れである事ですら恐ろしいのに、グームベアーの成獣が二体混じっているんですよ!?」


どうやら二体凄い熊がいるらしい。


「え?ホンマかいな?A級が二体!?こんな場所で?信じられへん・・・。」

レッドホッパーは少し考える。


「まぁしゃーないな。あれを使うか。」つぶやいた後に、

「おい。ウチは大丈夫やで。ウチの名はレッドホッパー。今はこの名だけで信じてほしい。」

レッドホッパーは軽く微笑む。


すると怯えていた四人の顔色が変わった。

「レッドホッパーって、まさかあのレッドホッパー?」


絵にかいたような驚き方をする。『え!?あのキリン首長くない!?』『あの象鼻長くない?』みたいな驚き方だ。

しかし、レッドーホッパーとはそこまで名が知れ渡っているのか?


「気配がする。あと三十秒位で奴ら来るで、はよ隠れな!」

そう言うレッドホッパーに言われるがまま、彼女の背後20メートル程の岩陰に隠れる。

それぞれが隙間から彼女を見守るようにする。




しばし静かな時が流れる。見えるのはレッドホッパー彼女の背中のみ。

しかしおかしい。彼女は武器を所持していない。

本当に大丈夫なのか?

すると横にいた怪我人支え男が囁くように話す。

「まさか、見れるのか?翼刃よくじんが・・・・・。」

唾を飲み込む音が聞こえた。様な気がした。


翼刃??なんだそれは。


横にいる女性が目を輝かせている様にも感じた。

「レッドホッパーの心機召喚しんきしょうかんが見れるなんて!」


心機召喚とは?

何か凄いことが起きるかもしれない。

不安と期待で胸が高ぶる。



そのときレッドホッパーの右斜め前方の茂みからうめき声が聞こえた。

出てきたのは1メートル程あるであろう巨大芋虫だった。

それに続き出てくるのは、30センチ程度の巨大カブトムシ風の物、巨大なムカデと様々な巨大な昆虫や虫が出てきたではないか。軽く十体はいるだろう。

そして極めつけは3メートル位のどでかい蜘蛛である。

これは恐ろしい。これが魔物か。

怖気が走る。

これは機関銃でもないと勝てる気がしない。


するとレッドホッパーは静かに両手を横に広げた。

するとその両の掌の上に空に浮かぶ魔法陣の様な模様が浮かび出した。

赤い魔法陣からスッと流れるように出てきたのはナイフ。

レッドホッパーの両手には大きめのナイフが納められた。

刀身が薄紅色に輝くナイフ。いやあれは両手剣の様な物か?やや幅広の刃の短剣を逆手に持つその様はまるで小さい翼を腕に仕込ませたようである。


【翼刃】か・・・・。



レッドホッパーは大きく跳躍した。

高く。速く。魔物たちの群れに向かって美しく弧を描き、身体を錐揉み状に回転させながら飛んで行く。

着地した瞬間、そこにいた魔物が二、三体がおもちゃのようにバラバラになる。

紙で出来ているかのようにあっけなく散る。

すかさずレッドホッパーはまた舞う。

そして着地と同時にまた魔物を散らす。

なるほど、赤い刃に跳ね舞うような動き。通り名レッドホッパーとはこれから来ているのか。

恐ろしく速く、強い。あっという間に虫型の魔物はバラバラになった。

しかしまだいる。大型の蜘蛛だ。

蜘蛛は何とも言えない不気味な咆哮を放つ。

弱い物はこの声だけでも身体が動かなくなるだろう。

俺も動けない。ちびりそうだ。

その瞬間、蜘蛛を見据えていた彼女目掛けて巨大蜘蛛は何かを吐き出した。

白い粘液?糸か。

恐らくあの糸に当たってはいけない。きっと動けなくなるだろう。

横に飛びのく。上手くかわせた様だ。

蜘蛛は更にもう一発放ってきた。


いや、三連発だ。横に薙ぎ払うように三連発。これはよけきれないか?


レッドホッパーはその瞬間を読んでいたように、今度は上に飛んだ。

今までで一番高かった。一瞬姿を見失うほどである。


どこにいったのか目で追う。

いた。蜘蛛の上だ。彼女は蜘蛛の頭上にいた。

まるで忍者の様に空中でしゃがんでいる様な姿勢。しかし両手は上に掲げられていた。振り下ろしだ。脳天にぶっさすつもりか!

蜘蛛はその形状からか真上を確認できないでいた。


蜘蛛の頭上に着地した瞬間にその両手剣を深々と脳天に打ち付ける。

蜘蛛はなんとも言えぬ声を発し、地面に伏せる。

しかし蜘蛛はまだわずかに動く。浅かったのか?

レッドホッパーは躊躇うこともなく、剣を差したまま両手を放し、また高く舞った。

すると今度は空中に浮かんだ魔法陣が現れた。

その魔法陣でできた天井の様な壁を下に向かって蹴り、ロスすることなく急降下。自身が刺した二本の剣の柄を目掛けて鋭く着地する、蜘蛛の頭に更に深く突き刺す形で剣が埋まった。

蜘蛛は声も上げずに動かなくなった。


レッドホッパーはもう一度手の上で魔法陣を出し、また両手剣を出し手に収めた。

なるほど、ああやって帰ってくるのか。

あれが心機召喚。凄い。

心機もすごいが、何よりあの物理法則を無視しているかのような身体能力。

一体どうなっているんだ・・・。


横に控えていた者達も絶句している。

口をぽかんとあけたまま固まっている。

こちらの世界の者が見ても凄まじい動きだったということか。


レッドホッパー、彼女は相当凄い人なのだな。初めて会った人間が彼女でよかったのかもしれない・・・。


しかしまだ安心は出来ない。

例のグームベアーが二体いる。相当やばいやつらしい。


レッドホッパーは両手の剣を構え、待ち構える。

茂みがわずかに揺れる、そのとき凄まじい雄たけびを上げる巨大な影が現れた。

「出てきた!やつだ!」

恐ろしいスピードで一直線に突っ込んでくる。まるで戦車の様である。



「ええで、ええで!来いやぁ!!」

彼女は嬉々として両手剣を手前に構える。迎え撃つ体制だ。彼女は笑っていた。


猛烈な勢いでレッドホッパー目掛けて進む重戦車、そして迎え撃つ少女。

現実離れした光景に目が離せない。


衝突するその瞬間、レッドホッパーは両手の剣を振りかぶる。


鈍い金属音。重い金属同士が激しく衝突したような、正に交通事故の時に聞く音だ。

激しい砂埃が舞い散り、どうなっているかが確認できない。

その中から激しい金属音が連続して聞こえてきた。

今度は細かい、何かを連打するような音だ。

砂埃が徐々に晴れてゆく中見えてきたのは驚くべき光景であった。

体長3メートルはあるであろう巨大で身体中の筋肉が異常に隆起し、頭にユニコーンの様な角を生やした熊が腕を高速で動かしている。

そしてそれに正面から向かい合っているレッドホッパーも激しく腕を振り回している。

熊は自らの爪で、レッドホッパーは両手の剣で、目にも止まらぬ速さで刃を交わしている。時には足技も繰り出し、どちらも後ろに引く気配がない。

はっきりと目視できない程に早い。

両者の足元の地面が若干窪んでいた。先程の衝撃波だろうか。

凄まじいパワーと重さの応酬。だが彼女は全然押し負けていない。

「す・・・凄い・・・。」

横にいる男が声を漏らす。

「あぁ・・・・マジですげぇ・・・。」

俺も口から出てしまう。感慨と感動の声だ。


しかし続けて男が不安そうに漏らす。

「でもあの状態でもう一体出てきたらヤバイかもしれません!」


確かにその通りだ、先ほどまでの魔物と違って、攻撃を応酬しあっている。

つまり時間を要すると言う訳だ。拮抗しているように見えるあの状態で、もう一体がかかってきたらひとたまりもないないではないか。

しかし、もう一体はどこに?



彼女の戦いに見とれつつも、もう一体の出現を待つ。

自分が何か出来るわけではないのに、考えてしまう。

もしもう一体が横から襲ってきた場合、彼女はどうするのだろうか?

更に手数を増やし、二体まとめて制圧するのだろうか?

それは可能だろうか?


頭が高速で回転していたその瞬間。背中に悪寒が走った。

何かの予感。直感か?

感じる方向そ確認する。

今俺を含めて5人が岩に隠れているが、そのすぐ左手の茂みから光る何かが見えた。

二つだ。


あぁ、分かる。あれは獣の目だ。

多分あれだ。もう一体だ。

こんな知能があったのか?聞いていないぞ?

熊ってこう、もっと獣らしいというか。

これじゃあまるで連携して狩りをする人間と同じじゃないか。

どこか瞬時に諦めた瞬間、それは茂みからのそりと余裕をもって出てきた。

 「え?グーム・・・ベアー・・なのか?」


レッドホッパーと戦っているグームベアーは体全体が青い体毛で覆われているが、こちらに出てきたグームベアーは全身がマグマのように赤く光っている。

明らかに違う。

隣の男は腰を抜かして動かない。

後ろの女性たちも震えているが動けないようだ。

「こいつはぁ・・・・・・A+級の・・・・」

男は震えている。目に涙を浮かべ、その瞳は絶望に染められている。

A+級?レッドホッパーと戦っているのよりもヤバいやつなのか?


あぁなるほど、詰んだと言う訳か。

負けイベントだったのか・・・。

そうなら一思いに首をすっ飛ばしてほしい。

ここに転がっている男の様に腕だけ千切ってじわじわ苦しむのだけは勘弁だ。



何だったんだこれは。なんだったんだこの世界は。

俺が何したって言うんだ?

ここで死んだら元の世界に戻れるのか?

夢から覚めるのか?

何もわからない。

もはや思考を止めよう。目をつぶった。








・・・・・・その時身体が痺れた。

















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