バレンタインチョコ売り場

し、しかしっ!

当日、とりあえず高級っぽいデパートの、バレンタインチョコ売り場へやってきた私は、バーゲンセールにむらがるオバタリアンなみのヤツらにもまれて、息をパクパクさせている。

『く、苦しい…。で、でもなんとかアイツへプレゼントするチョコレートを!』

だけど、自慢じゃ全然無かった女の子らしからぬ肩幅も、ここじゃ全然役に立ってないってどうよ?信じられないけど、人だかりに揉まれて、両手を一杯伸ばしてみたって売り台には届かない! くっそぅぅ! 

くきー、とか思いながらチョコレートへ手を伸ばすアタシの目の前で、女どもがとっとと良さそうなチョコレートをさらっていく。

そして…、

『あ、あんなとこに残ってる!』

あらかた売り払われちまって、台のすみにぽつんと一つ、ラッピングのくちゃくちゃになった小さなチョコレートが残っていた。

それに手を伸ばそうとして…。

「うふふ、私の勝ちですね。これだってラッピングしなおせば十分…ふふふふ」

「ま、前田さん!?」

「黒井さんは私がもらいましたよ、あははははっ!」

まさに『突然』現れて、そのチョコレートをかっさらっていった前田さんは、それを片手に高らかに笑いながら、

売り場へ去っていった。

…力が抜けた…。

家に帰る気にもなれずに、私はそのまま、とぼとぼと売り場を歩く。

で、目に入ってきたのは、

『あの人へ作って見ませんか? 貴女からの愛をこめて』

なーんていう幕の下に置いてある、手作り用チョコの材料だった。


ああ、ほんっとガラじゃない。なんて私らしくないんだろう。

そんでもって月曜日、私はまがりなりにも作ったチョコレートを握り締め、彼の教室へ向かってる。

ロボットみたいに手足をぎくしゃくさせながら…いつも気安く行ってたのに、なんでこういう時に限って動かないんだろ。

彼…優しいから人気があるらしいし。

教室の窓から覗いたら、黒井君の机には、

『…やっぱり』

周りに2,3人の女が群がって、彼にチョコレートを押しつけてる。

なんだか昨日、デパートで見たような高級そうなチョコばっかりで…。

私は思わず持ってた自分のチョコを後ろに隠してた。

「あ、南さん!」

そのままこっそり自分の教室に帰ろうとしたら、彼の方が私に気づいて近づいて来るんだもん。

「よっ、その…もててんだね」

「いやあ」

私がなんだか泣きそうになるのを堪えて言ったら、黒井君は照れたように笑う。

「だけどさ、ホントに欲しいチョコレートは、まだもらってないんだ」

「そ、か」

私のアタマに、前田さんのチョコレートが浮かぶ。昨日、綺麗にラッピングしなおすって言ってたし、だから、多分そっちのが彼には嬉しいんだろうな。

そこへ、

「せーんぱい! 後ろ手にもってるチョコは何ですか~?」

「う…」


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