友情

で、それから3ヶ月。私達の「友情」はこうやって続いてるわけだ。

パソコンと試験管ばっかいじってるから、てっきりオタクだと思ってたのに、全然違うんだってことも私はその間に知って、それからどんどん彼を好きになった。

「もうすぐ終わるからさ。一緒に帰ろう」

「うん、そうだね。前みたいに不良に絡まれたら私が守らないと」

「あははは。だから、それは言わないでって」

「ごめんごめん」

こんなじゃれあいが本当に楽しくて、だからそこから一歩踏み出すのが本当に…怖い。だけど、だけどやっぱり私は、

「えとー、あの、だね」

「ん?」

キーボードの上で滑らかに動くコイツの指を見ながら、ちょっとためらった。

だって、声が出てこないんだもん。

「えと、えとだな」

「うん」

にこにこ笑って、コイツは私の言葉を待っている。ああ、いつだってそうだった。

『好き、って言えってば!』

自分で自分を怒って、でもためらって…ってやってたら、

「ここは部員以外立ち入り禁止ですよ?」

中々言葉が出てこない私へ、そんな容赦の無い声が浴びせられた。

「…前田さん…貴女ねえ」

扉のところに、腕組みをしてしかめっツラをした「女の子女の子した」子が立っている。

「そりゃないでしょ、仮にも先輩に向かってぇ」

ムッとしたけれど、そこは抑えて冗談っぽく言うと、

「とにかく立ち入り禁止なんです! 実験の邪魔になりますから、ご遠慮ください」

「こ、こら、引っ張らないでってば! 出て行くからさぁ」

「南さん、またおいでよね?」

私と後輩が小競り合いをしてる側で、なんとものんきにコイツは言う。思わず力が抜けた私の耳元で、

「…先輩には負けませんから」

『…何!?』

ニヤリと笑って前田さんは囁いた。

「先輩が黒井さんを好きなの、バレバレですよ? 気付いてないのは当の黒井さんだけじゃないかなって思っちゃうくらい」

『う…』

「負けない、なんて言ったけど私、先輩になら勝てる自信、あったりして。せいぜい剣道にいそしんでくださいね、それじゃ」

何おううう!? そりゃアンタは確かに華奢で色白で可愛くて…そう言われたって仕方ないかもしれにないと思うけどっ!

ぴしゃりと閉じられた扉の前で、私は拳を握り締める。

『ほえ面かくなよ? 私だって本気になったらなあ、アンタなんぞ』

…女としての自信はちょっと無いけどさ…。

『いかんいかん!』

ちょっとネガティブになりかけて、私は慌てて首を振った。

『とにかく、頑張らなきゃ! 負けてたまるか!』

ともかくこうして私は、月曜日のバレンタインに備えて、戦う決意を新たにしたわけだ。


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