ガラじゃない

 ガラじゃない、私が恋に苦しんでる図なんて。いつも他の男子とも冗談を言って笑い飛ばして、女らしさの欠片も無いやつって言われてて、だけどそれでも良くて、髪の毛だって長くするとクセっ毛だから大変でいつもショートカットにしてる私の、全然ガラじゃない。

 だけど……

『花火大会、アンタも行くのか』

 だったら…だったら。

 私はカレンダーを見上げて決心した。あと三日。


 そして当日。海辺の花火大会会場まで行ったら、なんだか周りは浴衣で着飾ったヤツらであふれてた。

 何度か同じ学校の子たちともすれちがったけど、どうやら私とは気づかないらしい。

 私も済ました顔でその子たちとすれ違ったりして。

 この日のために、それこそガラじゃない浴衣で、髪の毛だっていつもはあまり手入れしないのを綺麗にセットして飾りだってお母さんにつけてもらって…当の私でさえ別人かと思って苦笑した。

 夜店の入口から中へ入ったら、もっとたくさん同じ学校の子がいたけれど、やっぱり誰も私だって気づかない。ちょっとアンタら、普段私をなんだと思ってんのよ全く。

 だけど…だけどさ。

「あ、大橋!」

 貴方は…秋山にはすぐに分かったんだよね。

「アンタだあれ? 私は大橋じゃないわ、なーんて」

 いつもみたいに軽口を叩きながら、入口近くの金魚すくいの屋台で、彼女を連れてる貴方に私は手を振る。

 …何で。

 何で分かってしまうんだろう、そして、どうして会ってしまったんだろう…悔しいなあ。

 嬉しさと、すぐにその場で泣きたくなってしまうような悲しさで、私の心はなんだかぐちゃぐちゃになってる。会えたらな、会いたいな、なんて思いながら

 ここに来たはずなのに。

「すぐ分かるよ、あはは。だっていつも一緒にいるじゃんか」

「そう…そうか。はは、やっぱり分かっちゃうんだ?」

 だけど私は、そんな心を抑えて笑うんだ。

「あ、大橋さん…よね? 綺麗じゃない!」

 茶道部の彼女…貴方が好きな女の子で、彼女だって貴方が大好きなんだって、見ればすぐに分かる…も、

 私を見てびっくりした声を上げた。

「ねえ、びっくりしたよね。綺麗だもん」

「本当ね」

 …私の目の前で、二人して仲良さそうに笑わないでよ…ねえ。

「あの、ね」

 私はだけど、そこで気を取り直して、ぐっと腹を据えて、彼女を見る。


「秋山を、ね…一時間だけでいいんだ。私に貸してくれない、かな…?」



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