Only an hour

いつの間にかこんなにも

 気がついた時にはいつも側にいて,

「これ、やっといてよ。今年の部活動収支決算」

「またかよ」

「いいじゃん、アンタのほうがアタマがいいんだからさ」

「しょうがないなあ」

 私が押し付けた雑用に、貴方はいつも苦笑した。

 私は生徒会長で、貴方は副会長。

 だからいつも私達は一緒にいるのが当たり前で。

 だから私は気づかなかったんだ…私自身の気持ちに。貴方と一緒にじゃれあっていられる…

 それは知り合った一年の時からずっと変わらなくて、三年に進級しても、それだけで本当に楽しかったから。それだけで十分だと思っていたから。


 そして三年目の春。

 もうすぐ私達の高校で催される新入生歓迎祭がやってくる。その打ち合わせで生徒会は大忙しで、

「あ、秋山!」

「おお、大橋か。何?」

 昼休み。クラブ室のあるプレハブへ続く渡り廊下で、私も知っているけれど、直接話したことは無いある女の子と何かをしゃべってた貴方に、

「運動部でトラブル。クラブ紹介の時間が合わないんだって」

 私はいつものように声をかける。

「分かった。じゃあ」

 後の言葉は、私じゃない彼女にかける言葉。

「じゃあ、また」

「うん、いいわよ」

『へえ…』

 貴方と彼女の会話と、貴方が彼女へ向ける優しい目に、その時初めて気づいた。

『こんな目も、するんだ』

 そして、柄にもなくドキドキした。

「仲よさそうじゃん、ええ?」

「よせよ」

 生徒会室へ一緒に戻りながら、冗談のつもりで私が冷やかすと、貴方は赤くなりながら

「ま、お前になら話しても大丈夫かな。アイツのこと、大事にしたいと思ってるけど」

 嬉しそうに言った。

 途端に、胸がずきりと痛んだ…貴方はそんな目をして彼女のことを話すんだ。

「へえ…」

 聞いちゃいけないような気がしたけれど、やっぱり聞きたい。胸の鼓動は何故か一気に早くなって、私は震えそうな声をなるだけ普通になるように努力しながら、

「彼女のこと、好きなんだ?」

 …貴方はただ、黙って頷く。

「そっかそっか。大事にしなよ? ほら、急いで! それとこっちの用事とは別だからね!」

「はいはい」

 いつもみたいに…うん、「友達」みたいにざれ口を叩きながら、涙が出そうになって私はやっと気づいた。

『迂闊だったなあ』

 こんなにも貴方のことが好きになっていたんだ…涙が出るくらい。


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