素敵な笑顔

そして、それから毎日、その女の子はおやつを持って王子を訪ねてくるようになったのです。

学校での出来事、家でのこと、そして友人達のこと。

色んな出来事を話してもらいながら、今更のように王子の胸に、人間だった頃のことが懐かしく思い出されました。

そうしてやっぱりあっという間に時間は過ぎて、

『もうこのままでもええかな』

明日がクリスマスだというのに、王子は今ではそう思い始めています。

こうやって、この女の子が訪ねて来てくれるのだから、寂しくないし、なにより王子は彼女のことが好きになっていたのですから…。

今日も彼女があれやこれやと王子に話していると、

「おーっと、いたいた!」

「よくもチクッて俺らを停学にしやがったな!」

『げげ! こいつら、いつかオレをいじめようとしたヤツらやんけ!』

5年前の出来事がたちまち王子の脳裏にフラッシュバックします。

成長したあの時の子供達が同じように王子の前に再び現れて、

「アンタ達…だって、アレはアンタ達が悪いんじゃない! 高校生の癖に、酔っ払って交番の前で立小便するなんて、さいてー!」

「そ、それを学校中に言い触らしたのはお前じゃねえか!」

「お前こそ、さいてーだあ!」

その会話を聞いていた王子は、思わず眩暈を覚えましたが、

「だいたいよお。お前、昔っから女の癖に生意気だったんだよな」

「むいちまえ!」

少年達が口々にわめきつつ、彼女に襲いかかってきたので、その顔に飛びかかりました。

そして…。

「げ! なんだよこ…れ…わああ!」

「ぎゃああ」

そして顔に飛びかかったままのオナラ攻撃…別のものまで出ました…、泡を食った少年達は、悲鳴を上げながら逃げていったのです。

「うわー。すごいねえ、カエルさん」

『あんなん屁のカッパや。出すモンがモンだけにな』

呆然としていた女の子が、我に帰って王子をそっと抱き上げました。

「ありがとう。ねえ、カエルさん」

『ああ?』

「カエルさん…五年前のあの時のカエルさんなんでしょ? おかしいんだよね。私ったら、ずっと貴方のことが好きだったみたい」

王子は驚いて、女の子の顔を見上げます。女の子は王子を抱き締めて、

「ありがとう。カエルさんなのに、すっごくカッコ良かった…」

その額に、そっとキスを落としました。

すると…。

「あ…オレ…戻れたんや~!」

ぼわん!とまたレトロな音がして、王子の姿は人間に戻っていました。

そして、腰を抜かした女の子に手を差し出して、

「ありがとうな。オレ…オレも多分、ずっと自分のこと、好きやった」

笑って言いました。

その顔は、昔の放蕩な彼からは想像も出来ない素敵な笑顔だったといいます。


…人間に戻った王子様は、親切なその女の子と一緒に、それからずーっと幸せに暮らしましたとさ。




FIN~

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