タイムリミット

何か勘違いされそうな発言をしつつ、王子はその女の子の後姿を見送ったのですが、

『ま、エエか。一個だけ分ったこと、あるし』

しばらくして、ゲフ、などとカエルらしいため息をついて、王子は思いました。どうやらここは、彼の故郷から遠くはなれた「関東圏」らしい。

『エエわいエエわい。東京モンはもともと好かんし。もう期待なんかせえへんもん』

ガッカリして拗ねながら、王子は土管の中へのそのそと戻っていったのです。


…それから5年。

『あー、今年でもうタイムリミットやんけ。もうオレ、ずーっとこのまんまなんかなー…』

あの女の子の姿なりともせめて拝めないかと、王子はあれから毎日学校付近をうろうろしているのですが、どうやらその学校は、小学校から高校までの一貫教育らしく、生徒数が大変多かったのです。

そのせいで、あの女の子がどこにいるのか皆目分からないまま、月日だけが過ぎていき、もうあと一週間でクリスマス。

王子はため息をつきながら、教会裏の薪置き場からのそのそと這い出しました。

すると…。

「げっ! 痛~い!」

がらがらとすさまじい音がして、つい王子はそちらへ目をやりました。

女の子が、どうやら転んでできたらしい擦り傷を見て悲鳴を上げています。

『やれやれ、しゃあないなあ』

王子はのそのそとそちらへ行き、その女の子の顔を見上げました。

『あ、あれ?』

「あ。見られてたんだー。でも珍しいね、カエルさんが今ごろ出てくるなんて。おー痛」

その女の子の顔に見覚えがあって、王子は思わず首を傾げていました。

『ひょっとしたらお前さん、あんときの子ぉとちゃうんけ?』

「やだなあ。ホント、私ったらドジだから。えへへ」

女の子は王子へ笑いかけながら地面に座りこみ、傷にふうふうと息を吹きかけています。

『しゃあないなあ』

王子はその膝に向かってひょいと跳ね上がり、傷の上に座り込みました。

「ぎゃあ! 一体何すんの!」

『黙っとらんかい』

断わっておきますが、もちろん王子の声は「げこげこ」としか聞こえません。

女の子が固まっていると、王子はしばらくしてその膝から降り、

『もうええやろ』

「あ…れ? 傷が消えてる。うわー! ありがとー!」

女の子はいきなり王子を抱き上げ、その頬をすりすりしました…あのー、ヒキガエルなんですけど。

「うわ、いっけない! 次、数学の授業だったよ! じゃあね、カエルさん。また来るね!」

『お、おう…』

…なんとも賑やかな声を残し、その女の子は王子に手を振って駆けて行きました。


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