傲慢

土管の中から、氷雨の降る曇り空を見上げながら、

(ああ…オレって、やっぱり傲慢やったんかな…)

ヒキガエルの世界にも仁義があるらしく、あちらこちらの縄張りから追い出され、今ではどこぞの学校の塀の側で、ひっそりと暮らしている王子は、なんとも情けない思いでため息をついていました。

…ぴちゃん、ぴちゃん…。

(5年後のクリスマス、いうたかてお前。5年やなんてあって間やんけ)

どうやら雨が降っているようです。教会の裏に積んである土管の中にも、その雨は冷たく沁みこんでくるようで、

『ひっきし!』

思わず王子はクシャミをしていました。

今年も間もなくクリスマス。他のヒキガエル達はとっくの昔に冬眠に入っていますが、

『冬眠やなんて、けったくそ悪いことでけるかい。オレは人間じゃ』

王子は呟きました。

『ああ、誰でもええ。そこらへんで遊んでる、スカートからパンツはみでとるガキでもええから、オレにチッスしてくれへんかなー』

そして淡い淡い期待を抱いて、今日も寒さを堪えつつ、優しい女の子がいないかと辺りをうろついたりしているのです。

「あ、ヒキガエルだ~」

「今ごろいるなんて、間抜けなヤツだなあ」

王子がのそのそと這い出すと、子供の声がしました。

『げ、やばい!』

自分もそうだったので、子供がどれだけ残酷かを知っている王子は、慌てて逃げ出そうとしましたが、そこは悲しいかな、やはりカエル。半冬眠状態に入っているためか体の動きが鈍く、

「つっかまえた!」

「ケツから石入れてみようぜ、石!」

『ひええええ、やめてくれええ!』

哀れ、あっという間に捕まってしまったのです。もちろん王子の悲鳴は「げこげこ」としか子供たちには聞こえません。

ですがそこへ、

「やめなさいよアンタ達。可哀相じゃない」

新たな声が響き、王子はそちらへ顔を向けました。

「先生が言ってたよ、アンタ達、いっつもゴミ当番さぼるから、私に連れてきてくれって」

傘を差して、肩までの髪の毛をさらさらと揺らしながら、その女の子は怒って言っています。

「ちえー、分かったよ」

「んじゃ行くか」

男の子達はしぶしぶ王子を放りだし、これもまた傘を振り回しながら教室のほうへと去っていったのでした。

「大丈夫だった?」

そして女の子はしゃがみこんで、呆然としている王子へ優しく声をかけました。

「げこげこ(可愛いねーちゃん、ありがとうな。助かったわ)」

「うん、良かったねえ。それじゃ、私も行くね。ばいばい」

『ああー、行かんといて。もう一声! オレにもっと優しく~』


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