贈り物②
雪緒の事ばかり考えながら、年末の忙しさをなんとか乗り切った─────…クリスマスイブ。
『知らないよ~、今年のクリスマスもぼっちになったってさ?』
アイツの台詞から、きっとそうなるだろうと予想して。俺は浮わついた思いを抱え、自宅へと急ぐ。
「あ……」
自宅前まで来て、人影があったことに安堵して。
にやけそうになるのを堪え、その人物に早足で駆け寄ったのだが…
「田中、さん…」
「君は…」
それは予想とは違う来訪者だった。
「えっと…」
話がしたいからと言われ、寒いだろうと中に招いたまでは良かったが。
「田中さん、クリスマスは独りだって…恋人もいないって聞いて…」
まさかまさかの展開に、俺は目を丸くする。
「私っ…ずっと田中さんの事を──────」
そんな時、本来の待ち人はやってくるわけで…
「雪緒…」
「めりくり~やっぱり今年も寂しいクリスマスしてると思って、慰めに…」
チャイムの音に玄関の戸を開けた瞬間、バツが悪そうにしてしまった俺に。雪緒の表情がピシリと固まった。
更には…
「お客さん、ですか…?」
顔を出してしまった、先の来訪者との鉢合わせに。
雪緒の表情は一気に冷たくなってしまった。
咄嗟に口を開こうとしたら、
「なぁんだ~、ちゃんといたんじゃん彼女…」
邪魔しちゃったじゃーんと、ニコニコしながら告げる雪緒は、勿論笑ってなどいない。
むしろ今にも泣き出しそうな顔で、無理矢理に取り繕おうとしてるし…
「違うんだ、雪────」
「も~いいよ~、隠さなくってもさ~」
聞きたくないとばかりに、言葉は遮られ。
雪緒は先の来訪者に向けゴメンね~と、下手くそに笑ってみせる。と…
「邪魔者は、すぐ退散すっから…」
「おいっ、雪緒…!」
呼び止めてみたものの、雪緒はすぐさま踵を返して。逃げるよう、駆け出してしまう。
「あのっ…」
後ろでは先客の狼狽えた声が、掛けられるも…
俺の耳には既に届かず、無意識にも雪緒の背を追いかけ走り出していた。
「ッ…なせよっ……!」
「落ち着け、雪緒…」
「なにがっ…ど、して…追っかけてくんだよ!」
靴も履かぬまま後を追い、アパートの下で早々捕まえた雪緒は。困惑した様子で、俺から顔を背け抵抗してみせる。
体格差的に力も俺の方が強かった為、それも虚しく空回ってはいたが…。
「彼女、待ってんだろっ…行けよ、バカっ…」
「雪緒…」
あの状況ならば、仕方ないだろうけど。
勘違いしてる雪緒は駄々を捏ねる子どもみたく暴れ、何を言っても聞いてくれなくて。
俺は掴んだ手に、力を込める。
このままじゃ、埒があかないと悟った俺は。
説得を諦め、黙って雪緒の手を引くと…自室へと足を向けた。
「ちょ…痛いって、ばっ…」
「黙ってろ。」
嫌がる雪緒を一蹴して、俺はずるずるとコイツを引き摺り階段を駆け上がる。
そうして部屋まで戻れば、やはり先客が中で待っていたのだが…
「ほら、彼女…困ってんじゃんか…」
今にも泣きそうな顔でぼやく雪緒を一瞥し、
俺は先客へと向きなおる。と…
「悪いが、帰ってくれないか?今日はコイツと約束してたんだ…」
「え…?でもっ…」
俺の放った台詞が信じられないとばかりに驚く雪緒と、同じくらい傷付いた表情を浮かべた彼女。
さすがに良心が痛んだが…
今は非常時、申し訳ないと俺は頭を下げた。
「ごめん、改めてちゃんと話するから…」
今日は帰ってくれと頼めば、彼女は暫し考え込んでいたが…
「解りました…」
そう答えて彼女は、涙目めになりながらも…すんなりと帰って行った。
途端に微妙な沈黙が、俺と雪緒に降りかかる。
「な…」
状況が把握出来ず、茫然と立ち尽くす雪緒の顔を見下ろせば…信じられないとばかりに睨み返されて。
俺は思わず苦笑を浮かべる。
「せっかく、彼女が来てたのに…」
「彼女じゃねえよ。」
「………は?」
「あのコは彼女じゃない、会社の同僚だ。」
仕事を終えて帰ってきたら、玄関前にいて。
実はさっき告白されたんだと、正直に答えると…
雪緒は更に眉を顰めてしまう。
「だったら…尚更、可笑しいでしょ!?」
クリスマスに、あんな可愛いコの告白を無下にして。あっさり帰しちゃうだなんて勿体ない───…雪緒の反応は最もなんだが。
「好きでもないのに、付き合えないだろ?」
即答すれば、あり得ないと雪緒は溜め息を漏らす。
「じゃあお前は、俺が好きでもない女と付き合った方が良かったってのか?」
「それはっ…」
意地悪だと分かってたが…問えば雪緒は、あからさまに動揺してみせて。
そんな姿にさえ俺は、不謹慎だと自覚しつつも。
つい、にやけそうになってしまう。
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