⑧
「良かったのか…?」
あれから、和樹もなんとか納得して。
実際はまだ、やり切れない部分はあったと思うけど。
オレには智久さんという恋人がいる、その事実を受け止めてくれて。勘違いにも、いきなり手を出そうとした事をオレと智久さんに謝罪すると…。
和樹は静かに部屋を出て行った。
その背中を見送ってから。
程なくして、智久さんがオレにそう問い掛けてきて。
見上げると、思いのほか真剣な眼差しに射抜かれ…
ドキリとさせられた。
「なんで…」
そんなこと聞くのって、目で問い返せば。
智久さんはバツが悪そうに大きな溜め息を漏らした。
「…好き、だったんだろう?」
アイツのこと…恋人なんだから、聞かなくても解ってるハズなのに。
敢えて聞くのは、まだ和樹を想ってた頃のオレを、
智久さんは知っているからで…
「好き、だったよ…そりゃもう死にたくなるぐらい、にね。」
もしかしたら、まだ未練があるんじゃないかって。
心配してるんだろうけど…でもね、
「でも今は、智久さんだけだから…」
あんなに好きだった相手のことを、すんなり忘れさせて。こんなにもオレのことを、愛してくれる貴方がいるから。
「…んなコト言っていいのか?」
自分はすぐ真に受けてしまうから。
どうなっても知らないぞって、苦笑する愛しい人に。
オレはぎゅって抱き付いて…逞しいその胸に、これでもかって擦り寄る。
「いいって言ったじゃんか…智久さんになら束縛されたいって…」
貴方がオレを愛してくれるなら。
傍にいて、甘やかしてくれるなら。
「言ったろ…?」
俺も。一生掛けて愛してやるって。
耳元で熱く、宣言されちゃったから…。
後はもう、誓いのキスでもするしかないよね?
「どうする…雪緒?」
誓いのキスとか言いながら、淫らで濃厚な口付けを交わし…火照る身体を持て余す。
智久さんは触れたままの唇から、わざと舌を出してきて。悪戯するみたくオレの唇をチロチロと撫でてきた。
もう…ホントエロいなぁ、スーツ姿の智久さん。
分かってるクセに、オレに言わせたいなんてズルいんだから…
けど、智久さんには一生敵わないから。
オレも負けじと首に腕を回し。彼の耳元でヤらしく、
「ちょーだい…智久さんの、全部…」
甘ったるく、おねだりをしてみせるんだ。
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