「誰だ、お前…」



普段は優しくて、怒ることなんてないのに。

オレの前で庇うように立つ智久さんの表情は、冷たく和樹へと注がれる。


なまじガタイも良い智久さんに睨まれたもんだから。和樹は青い顔で肩をすくませ、固まってしまった。






「カズキ…」


なんとなく察した智久さんが、「元カレか…」と低い声で呟く。


その表情はなんだか怒ってるみたい…。

不安に駆られたオレは、思わず肩を震わせて。無意識に伸ばした手が、智久さんのコートを握り締めていた。


そんなオレを、智久さんは一瞬だけ振り返る。







「今更…何しに来たんだ?」


あくまで感情を抑え告げる智久さんは。

和樹に対し、酷く冷淡な口調で問い掛ける。


突然現れた第三者に、和樹は戸惑いを露にしたけど…。こっちも何かを察したのか、ちらりとオレに視線を寄越した。







「雪緒…この人、は…」


「…この人は─────」


察してるはずだろうに、受け入れ難いのか。

和樹が直接オレに答えを求めてきて。


オレはまっすぐ目を見て、答えようと口を開くけど…






「恋人だ。」


「え…」


先に智久さんが宣言してしまった。


その声音にも表情にも、迷いなんか微塵もなくって。

さっきまで抱いてたオレの不安は、今の台詞で一瞬にして…全て吹き飛ばされてしまう。







「ゆき、」


「恋人だっつってんだろ。」


困惑する和樹が、縋るようオレを見るけど。

智久さんが、ぴしゃりと一蹴して。


不意討ちとはいえ、思い切り投げ飛ばされちゃったからか…。敵意を剥き出す智久さんに対し、和樹は怯えるよう、更に縮こまってしまった。







「この人の、智久さんの、いう通りだよ…和樹。」


なんだか可哀想になって、オレからも静かに答えれば。和樹は動揺し項垂れる。




「そん…じゃあ、なんでお前は、ここにっ…」


「…偶然、だよ。」


そう、偶然。

オレと和樹が同棲してたアパートの部屋に、智久さんがたまたま住んでただけで。

彼に出会わなければ、今もオレは未練を抱えたまま。

ずっとウジウジしてたかもしんないけども。





「オレが好きなのは、智久さんだよ…」


ごめんって…ホントは謝るべきじゃないかもしんないけど。和樹をここまで追い詰めてしまった責任は、オレにもあると思うから…。







「そん、な…」


全ては早とちりだった事を悟り、和樹は茫然として言葉を失う。何か言わなきゃと、オレが頭を巡らせてると…





「けど俺は、お前のことがっ…」


やっぱり忘れられないとか、和樹は訴え掛けてきて。よりを戻したいと、泣きそうな顔で告げるのだけど。






「それは…」


ムリだよって、オレには大事な人がいるんだよって。きっぱりはっきり伝えようとしたら。





「やらねぇよ。」


再度、智久さんに先を越され…





「お前には絶対やらねぇ、コイツは俺のだからな。」


そう告げた瞬間、腕の中にオレを収めてきた。

その腕が台詞を物語り…誇示するよう、キツくキツく抱き寄せられる。

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