「雪緒ッ…雪緒…」


耳元にかかる生ぬるい息と熱っぽい声音に、身体が震える。


そこには気持ちも快感なんてもんも無くて。

ただ、このままだと自分は気持ちの向かない相手に襲われちゃうのかなって考えが頭を過り…


恐怖みたいなものに駆られ、うち震える。






(智久さん…)


愛しい人を思い浮かべ、胸が痛むのは。

状況は一方的ではあるけどさ…やっぱ操は立てたいじゃん?智久さん、あれで結構ヤキモチ妬きだし。


オレこんなだけど、そゆとこは守りたいしさ…。






(バレたら、)


悲しむかな?それとも、怒っちゃうかな?

真面目な性格だから、最悪嫌われちゃうのかも───…






「ッ…雪緒、暴れんなよ…」


「はな、せっ…てば、和樹…!!」


やだよ…オレもう失くしたくないもん。

こんな好きなのに耐えらんないじゃん、そんなの。





「雪緒…なんでっ…」


「なんでじゃない!オレはっ…オレは!」


お前のことは、ずっと好きだったよ?

去年のクリスマスまでは…ね。


初対面の男にすがり付くくらいに、

あの時は本当にいっぱいいっぱいだったんだ。



けど、今は違う。

オレは出会っちゃったから…だからもう─────







「なんでっ…俺が好きだって、だから今もこの部屋で待ってたんだろッ…」


「あっ…!!」


力任せに腕を拘束され、走る痛みに呻き声を上げる。

温厚で好青年だった和樹は、何処に行っちゃったんだろう?


目の前の元恋人は、まるで別人のように豹変して。

獣みたくオレを見下ろしてくる。






「怒ってるなら、謝るから…」


「和、樹…話、聞けってば…ああッ!」


オレが必死に懇願しても、和樹には届きそうになく。火が点いた和樹は、急くようにベルトにまで手を掛けてきて…





(やだっ…智久さん智久さんッ…!)



助けてよ…じゃないとオレ、和樹に─────






「──────雪緒に触んじゃねぇ!!」


「ぐあッ…!!」



万事休すと目を閉じた瞬間、

部屋に誰かが勢い良く入ってきて。


ほぼ同時に、オレにのし掛かっていた和樹が、

視界から消える。






「ぁ……」


「雪緒ッ…大丈夫か!?」


次に映るのは、待ち焦がれた愛しい人の姿で。

願ってもない状況に感極まったオレは、思わず目頭を熱くさせた。


だってこんなの、マジヤバいっしょ…






「うぅ…」


「和樹…」


一瞬の出来事で、なかなか頭が追い付かなかったけど。

どうやら丁度帰ってきた智久さんが、オレを襲ってた和樹を引き剥がしてくれたみたいで…。



不意討ちに首根っこを掴まれた和樹は、思い切り床に投げ出されてしまったみたいだ。

苦痛に顔を歪めるも、和樹はよろりと手をつき起き上がった。

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