④
「…………」
「あのっ、さ…!」
ざわざわする胸を抑え、オレは口を開く。
ちゃんと言わなきゃ、オレがここにいる本当の理由を…。今は別に…心寄せる人の存在があることを。
けれど焦るあまり放った声音は、緊張で上擦ってしまっていたから…
「雪緒…もう二度と裏切ったりしないから…」
「ッ……!」
急に抱き寄せられ、固まる。
思いもよらなかった展開に、オレの思考は完全にフリーズ。
無抵抗にも、和樹の腕の中に収められてしまう。
「ちょ、まっ…」
「雪緒…お前が好きだ…」
「な…!?」
「やっと目が覚めたんだ…」
ギュッと力強く抱き締めてくる和樹の腕が、決意の強さを物語り。オレは誰へとも知れぬ、罪悪感みたいなものに駆られてしまう。
なんとかそれを押し退けようとするんだけど。
反して全く腕に力が入らないし…。
その間にも、感極まる和樹の告白は続く。
「やっぱ、お前だけだ…雪緒…」
酔いしれたよう、耳元で語る和樹は…
こんな喋るヤツだっけかと思わせるほど饒舌で。
結局、浮気した女の子との関係が続けられなくなっただとか、聞いてもいないことをペラペラと話し出す。
その原因のひとつが、オレに対する未練だったってことも…。
「ずっと気になってたんだ。あんな逃げるような真似で、お前を捨てたこと…」
女の子と付き合っても、何処かでオレを忘れられなかったらしく。
逃げた事への罪悪感で、今まで会うのが怖かったという和樹は。彼女と別れたのをきっかけに、改めてオレへの想いを再認識したんだと語る。
「もう、離さないからさ…」
やり直そうだなんて、甘ったるい声で告げてくるけど…。
「雪緒…雪緒っ…」
「あっ…ま、和樹…!」
もしこれが、あの人と出会う前だったら…?
単純に真に受けて、心も揺らいだかもしんないけど。
「待って…和樹、ちょ…冷静に…」
「良いだろ…お前だって、俺を待っててくれたんだから…」
「ちがっ、から…も、触ん―――」
冷静でいられるのは、オレの心に一切の揺るぎが無いからで。目の前に映る和樹にはもう、あの頃のような輝きなんて全く感じられやしない。
それはなんとも弱々しく、儚げで。
オレが好きだった和樹とは、かけ離れてて。
正直、惨めだな…とさえ思えてしまった。
「和樹ッ…!いい加減にしろっ…」
変なスイッチの入った和樹の行為が、更に危なくなってきて。オレは必死で抵抗を試みる。
「…んだよ、恥じらうような関係でもないだろ…」
けど非力なオレじゃ力で敵うわけないし…。
すっかり勘違いしてる和樹は逆に鼻息を荒くして。
力任せにオレをソファへと押し倒してきやがった。
反動で床がギシリと音を立てる。
「違うっ、て…話聞けよッ…!」
さすがにコレはヤバくね?…ってなり。オレもキレ気味に叫ぶけども。
それすら焦らしプレイかなんかだと勘違いしてんのか、興奮を見せる和樹は…。上着を捲し上げ、脇腹からするりと手を這わせてくる。
別れてだいぶ経ってっけど…。和樹は初めて本気で好きになった相手。男を知った、最初のオトコでもあるし…こういうコトには慣れてたオレだけど。
なんだろ…和樹の手が触れた途端に。
全身がゾワリとして、嫌悪感に苛まれた。
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