「…………」


「あのっ、さ…!」



ざわざわする胸を抑え、オレは口を開く。


ちゃんと言わなきゃ、オレがここにいる本当の理由を…。今は別に…心寄せる人の存在があることを。


けれど焦るあまり放った声音は、緊張で上擦ってしまっていたから…





「雪緒…もう二度と裏切ったりしないから…」


「ッ……!」


急に抱き寄せられ、固まる。

思いもよらなかった展開に、オレの思考は完全にフリーズ。


無抵抗にも、和樹の腕の中に収められてしまう。






「ちょ、まっ…」


「雪緒…お前が好きだ…」


「な…!?」


「やっと目が覚めたんだ…」


ギュッと力強く抱き締めてくる和樹の腕が、決意の強さを物語り。オレは誰へとも知れぬ、罪悪感みたいなものに駆られてしまう。


なんとかそれを押し退けようとするんだけど。

反して全く腕に力が入らないし…。


その間にも、感極まる和樹の告白は続く。






「やっぱ、お前だけだ…雪緒…」


酔いしれたよう、耳元で語る和樹は…

こんな喋るヤツだっけかと思わせるほど饒舌で。


結局、浮気した女の子との関係が続けられなくなっただとか、聞いてもいないことをペラペラと話し出す。


その原因のひとつが、オレに対する未練だったってことも…。






「ずっと気になってたんだ。あんな逃げるような真似で、お前を捨てたこと…」


女の子と付き合っても、何処かでオレを忘れられなかったらしく。

逃げた事への罪悪感で、今まで会うのが怖かったという和樹は。彼女と別れたのをきっかけに、改めてオレへの想いを再認識したんだと語る。






「もう、離さないからさ…」


やり直そうだなんて、甘ったるい声で告げてくるけど…。





「雪緒…雪緒っ…」


「あっ…ま、和樹…!」


もしこれが、と出会う前だったら…?

単純に真に受けて、心も揺らいだかもしんないけど。






「待って…和樹、ちょ…冷静に…」


「良いだろ…お前だって、俺を待っててくれたんだから…」


「ちがっ、から…も、触ん―――」


冷静でいられるのは、オレの心に一切の揺るぎが無いからで。目の前に映る和樹にはもう、あの頃のような輝きなんて全く感じられやしない。



それはなんとも弱々しく、儚げで。

オレが好きだった和樹とは、かけ離れてて。


正直、惨めだな…とさえ思えてしまった。






「和樹ッ…!いい加減にしろっ…」


変なスイッチの入った和樹の行為が、更に危なくなってきて。オレは必死で抵抗を試みる。




「…んだよ、恥じらうような関係でもないだろ…」


けど非力なオレじゃ力で敵うわけないし…。

すっかり勘違いしてる和樹は逆に鼻息を荒くして。


力任せにオレをソファへと押し倒してきやがった。

反動で床がギシリと音を立てる。







「違うっ、て…話聞けよッ…!」


さすがにコレはヤバくね?…ってなり。オレもキレ気味に叫ぶけども。

それすら焦らしプレイかなんかだと勘違いしてんのか、興奮を見せる和樹は…。上着を捲し上げ、脇腹からするりと手を這わせてくる。



別れてだいぶ経ってっけど…。和樹は初めて本気で好きになった相手。男を知った、最初のオトコでもあるし…こういうコトには慣れてたオレだけど。


なんだろ…和樹の手が触れた途端に。

全身がゾワリとして、嫌悪感に苛まれた。

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