「どしたの、急に…」


智久さんの許可も無しに、中へ入れちゃってもいいのかなと迷ったけど…。玄関先で出来るような話じゃないかもだしと、仕方なく和樹を部屋へと招いて。


何処か居心地の悪さに、オレは自ら切り出す。




や、和樹とはちゃんと話したいとは思ってたよ?

散々苦しめちゃったし、謝んなきゃって…。


けど、いきなりだったしさ。

黙って逃げてったコイツが今更なんでって、ちょっと気持ち追い付かなくて。



なんだか混乱してるみたいだ、オレ…。







「もしかしたらと思って…さ。そしたら、お前を見つけたから…」


答える和樹は懐かしそうに部屋を見渡す。


なんでもクリスマス後に一度、このアパートに来たらしくて。その時偶然にも、オレがこの部屋に入ってくのを見かけたのだと。


その時は声を掛ける勇気が、なかったらしいけど…。







「あんな風に、お前を傷つけちゃったからさ…」


ゴメンと頭を下げる和樹に。

オレはなんて応えたらいいか判らず、言葉に詰まる。





「雪緒はずっと、俺を信じて待っててくれたのにな…」


「和樹…」


憔悴する和樹は、なんだか知らないヤツみたいで。

妙にざわつく胸を、オレはこっそり抑えつける。






「俺、ほんとバカだよな…」


オレが実家に帰ってからしばらくして、和樹はその時良くしてくれた女の子と、浮気したのだと打ち明けた。


原因は勿論、オレが追い詰めちゃったから…だけど。


それからは、オレが連絡する度に罪悪感が募り。

精神的にも限界だった和樹は、逃げるようにしてアパートを引き払ったんだそうだ。







「まさか雪緒が、まだここにいてくれたなんて…」


「それはっ────…」



確かに、あのクリスマスの夜。

このアパートに来た時はまだ、和樹に未練があったから…だけど。


今ここにいる理由は、既に変わってて。

言い淀むオレはキョロキョロと視線をさ迷わせる。


だって和樹の物言いだと、勘違いしてるっていうか。まるでまだオレが…





「なのに俺は…ほんと、ゴメン…」


「和樹…」


違うよ和樹、あれはお互いに弱かっただけで。

お前だけが悪いんじゃない。


結局こんなになっちゃったけどさ?

だからこそ得られたものがあるし、今は────…






「ゆきお…」


「…和樹?」


そう伝えようと口を開きかけたけど。

和樹の目が、オレをじっと射抜いてきて止まる。


その視線がやけに熱っぽい気がして…。

あり得ないと思いつつも、オレは嫌な予感がして。

身動きが取れなくなってしまった。

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