雪解けに舞う恋桜



side.Yukio





『一緒に暮らそう』



当たり前のように告げられた台詞が、嬉しかった。

ずっとそうなったらいいなって…思ってたから。


いざ付き合うってなっても、オレは地元でバイトしてたし。母ちゃんや弟の事も心配だっから。

結局は今までと変わらず、遠距離…ってほどじゃないから中距離恋愛かな?


そんな感じで月に数回、オレが智久さんの家に泊まりに行く形が続いてたんだ。






正直、恋しかったよ。

オレこんなだけどチョー独占欲強いし…。


元恋人の事もあったからさ。

会えないのと距離感への不安で本音は、いっぱいいっぱいだったかんね…。



けど智久さんは、ちゃんと察してくれるから。

会えば必ず、甘えさせてくれたけども。


欲張ればもっと傍にいられたらなって…思ってたんだ。






だからさ、智久さんが一緒に住もうって…

このアパートから引っ越しして、新しい部屋を借りようって言ってくれた時はさ。

オレ嬉しすぎて、メチャクチャ泣いちゃったっけ…。



だって智久さんも、おんなじコト考えてくれてたんだなって。寂しいのはオレだけじゃないだって思ったらさ。

スゴく充たされるっていうか、片想いじゃないんだって実感出来たから。


もう幸せ過ぎてヤバいくらいだよ…。







「意外と物件のチラシってあるんだな…」


買い出しついでに、店頭なんかに置いてあった賃貸物件の小冊子を、目についたヤツ片っ端から全部手にして。ほくほく顔で帰路を行く。


一緒に住むと決めてから、程なくして地元を出てきたオレは。智久さんのアパートに同棲…って言っていいのかな?

まあ、そういう事になってて。

今は新妻みたいに家事をしながら引っ越し先と、仕事を探してんだよね。




リクルート雑誌見てたら、智久さんが『俺の嫁になればいいだろ』って冗談じゃなく、割りと本気で言ってくれたのはチョー嬉しかったけど…。


それはさすがに甘え過ぎだしと、気持ちだけ受け取っておいた。







「あ…ここいいなぁ~。」


通りすがりの、不動産に貼り出してあった物件のチラシも携帯で撮ったりして。

ニヤついてしまうほっぺたを、グリグリと伸ばす。


だってさ~ホント結婚するみたいだろ?

新居で暮らすだなんてさ~。なんか色々想像しちゃうから、つい顔に出ちゃうんだよねぇ。







(智久さんのベッドでかいし、寝室は広めで…)


お風呂も広くてトイレと別々じゃなきゃなって、智久さん言ってたっけ。


今住んでるアパートは、広めのワンルームだけど。

ユニットバスだから、お風呂エッチしにくいんだもんね…智久さんガタイ良いし。


それでもエッチの後は絶対一緒に入って、イチャイチャしちゃうからなぁ…って、あ~…想像してたらヘンな気分になってきちゃったじゃんね!






(はふ~…幸せ過ぎて怖いぜ~)


買い出しで寄った八百屋のオバチャンにも、ニヤニヤしてて突っ込まれたし。あんまノロケてると後が怖いんだよね。



智久さんは、オレのことスッゴク大事にしてくれてる。オレが前の恋愛でトラウマになってんのを知ってるから。

智久さんの男前な性格もあるけども。あの人にはホント、救われてんだよね…。







(だから、あのアパートは特別なんだよな…)


初めて本気で好きになった相手…元恋人の和樹が住んでた部屋であり。アイツに散々抱かれもした場所では、あったけども…。


アイツがオレから逃げるよう引っ越してしまった後に、偶然住んでた智久さん。

出会えた理由も、オレが未練たらしくアパート前に居座ってたからであって…。情けない話なんだけどね。



それでも、智久さんが行きずりのオレを見捨てず受け入れてくれたおかげだから…。

今は和樹との思い出じゃなくて。智久さんありきでの“特別”に変わってるんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る