(ヤバいヤバい…)


静まれオレの煩悩~とかいいながら、智久さんに抱き付いてみたり。


だってしょーがないじゃんね?

片想いだし、叶う見込みだって智久さんノンケだから、まず無いだろうし…。



遊び人だった頃は、とりあえずセックスから…が基本だったオレが自制して。

相手が寝てる隙に、スキンシップ計るくらいは許して欲しいってもんだよ。



…とか言いながら、本命相手だと変に意識しちゃって。何も出来ないかんね…オレ。








「智久さん…」


好きだよって呟いて、もっかいチューを奪う。





(オレを好きになってよ…)


トラウマのせいで恋に臆病になっちゃったオレじゃ、これ以上前に進めそうにないからさ。


無理矢理にでも奪ってよ…オレの全部。





(智久さんじゃなきゃ、オレ…)


あんな苦しかった初めての大失恋は。

貴方に出会った瞬間、すっかり癒えてしまったんだよ?


こうしてあの頃を振り返り、反省して。

オレから離れていった和樹ばかりを、責める事もなくなったんだからさ…。






(智久さん…)


勝手に大好きな人の胸板に擦り寄って、甘える。


そしたら心臓がバカみたいに高鳴って。

込み上げてくる感情に、押し潰されそうになった。



ダメだって解ってんのに、相変わらず重たいなぁ…。








(もう、捨てられたくないよ…)


散々女の子を弄んだ癖にと自嘲すっけど。

一方通行ほど、辛いもんて無いよね…だから────…







(あっ…)


泣きそうになってたら、ギュッて抱き締められて。







「ゆき、お…」


名前を呼ばれ、起きてたの!?…ってビクビクしながら見上げたら、そうじゃなかったみたいで。

内心ホッと胸を撫で下ろしながら、実はガッカリもしてたり。






「…智、さん…?」


「ん…」


寝惚けてるのか、夢の中と混同してるのか…。


オレの呼び掛けに返事する智久さんは。

去年のクリスマスみたく、あやすようにオレの身体を包み込んでくれる。





「ゆき…」


「ふは…オレの夢、見てんのかな?」


だったら良いのになって、寝言でオレの名前を呼んでくれる智久さんにおずおずと抱き付けば。


この人は寝てる時でさえ、ちゃんと応えて────…







「泣くな…雪緒…」


「ッ……!!」


オレの心ごと、全てを鷲掴んでしまうんだね。






(あの時の、夢かな…)


オレが未練たらしく、元恋人と住んでたこの部屋を訪れた、あの日。


アイツはもうとっくに引っ越してて…

代わりに、智久さんがいた。



優しかった。赤の他人の…しかも男同士の恋愛話にも、ちゃんと向き合って聞いてくれた。

下手な慰めはせず、黙って今みたいに抱き締めてくれたっけ…。







(ムリだよ…)


泣くな、だなんて…智久さんの所為なんだからさ?


好きな人に、こんな甘やかされ方されたら。

誰だって、期待しちゃうじゃんか…






(オレを見てよ…)


ヘタな女の子よか、美味いご飯作るし。

掃除洗濯、何でも器用にこなしちゃうよ?


なんだったら夜の方だって…。


まあ、最終的にはナニをお尻に突っ込んじゃうワケだけど。フェラでも何でも、気持ち良くさせられる自信だって、あんだからさ…。






(こんな完璧なの、いないっしょ…)


男だけどさ、だから苦労してんだけどさ。

オレだって、元からゲイだったワケじゃなかったし…。


男を好きになるなんて、アイツだけだと思ってたけども。まさか二度目の恋も、こんな形で男の人相手に迎えるだなんて…


自分でも、思いもよらなかったよ。







(でも、好きなんだもんなぁ…)



もうオレ、ホモでいいや。

智久さんみたいに魅力的な人だったらさ。





「好きだよ…智さん…」


いつか奇跡でも起こって叶えばと、願いを込めて愛を囁く。


それは本人が寝てる時だけの、儚い独り言…

だったんだけど。






「………も、だよ…」


「え…?」



まさかねって…智久さんは眠っていたから。

あり得ないんだけどさ。





(その夢が、本物なら良いのにね…)



一時の偶然に、自ら振り回されつつも。

オレは仮初めに浸りながら、智久さんの腕の中で眠りに落ちていった。

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