「お、今日は鍋か~寒くなってきたもんなぁ。」


「熱燗も用意するからね~。」


オレがエプロン付けてキッチンで夕食の仕度をしてるのを、智久さんがネクタイを緩めながら覗き込んでくる。


オレがその何気ない仕草や近い距離感に、内心ドキドキしてる…だなんて。

知らない智久さんは嬉しそうに笑いながら、シャワーを浴びに行ってしまった。



それにもよからぬ妄想をしたのは、言うまでもないよね…






「もうすぐ1年だなぁ~、」


お前と出会って。ほろ酔い気分で染々と語る智久さんの声に、耳を傾ける。





「ひとり暮らしなんてホント味気なかったけどな…」


お前がこうして来てくれて、美味い飯まで作ってくれて。感謝してるんだとはにかむ智久さんは、やっぱりちょっと酔ってるのかな。





「やや…ご飯代とか、全部出してもらってっからね…」


時間が合う日は、オレの地元まで車で迎えに来てくれるし。ご飯の材料費だってしっかりもらってる。


手料理なんてさ、女子が男を餌付けする格好の常套句であって。オレが智久さんに下心バリバリで、勝手にしてることなのになぁ。


さらっとそういうコト、やってのけちゃうだなんて。も~ズルくない?





「いいんだよ、俺がお前に甘えてんだから。」


お前にもバイトや家族の事があるのに悪いなって、赤い顔して苦笑する智久さんに。オレは思わず胸が締め付けられる。


いつから、なんて知らないけど…。

多分、出会った時からオレはこの人に、惹かれてたんだと思うよ。


失恋で傷付いた、行きずりのオレなのに。

この人は隔てなく優しくしてくれたからさ…。








「帰るのか?雨、酷いだろ?」


夕食の後片付けを終え、終電ギリギリに帰る素振りを見せたら。案の定、智久さんから呼び止められて。





「いつも言ってんだろ~」


遠慮せず泊まってけって、それは片想い中のオレにとっては願ってもない申し出なんだが。


同時に複雑なもんでも、あるんだよねぇ…

本人無自覚だから余計にだし。






「どうせ明日も休みだろ?」


「まあ、そだけどさ…」


食事代に交通費、加えて泊まりまでなんて悪いじゃん?…って、毎回同じ言い訳でスルーしようとするけども。





「俺も明日休みだし…。なんだったらドライブがてら何処かに遊びに行かないか?」


好きな人にそんな甘言で誘惑されちゃったらさ…





「なら、泊まっちゃおうかな~…」


我慢なんてまず出来るわけが────…ないじゃんね?

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