「オレ、桜井さくらい 雪緒ゆきお。」



春と冬をごちゃ混ぜにしたようなソイツ…ユキオが、へらりと笑う。


派手な顔立ちをしてはいるものの、悪そうなヤツではなさそうだが…内心、家なんか入れてどうすんのって。自分でも持て余していたのが現状だった。







「お兄さん、恋人いないんだよね?」


「……見りゃ判んだろ。」


「あはは!なら、オレとおんなじじゃんね~。」


からかうよう見上げてきた雪緒に対し、ムスッとして返す。


おんなじと言っても、ただデカイだけが取り柄の俺とコイツとじゃ、雲泥の差があるってもんだろう。

顔とかアイドル並みに綺麗だし。今から街に繰り出せば、何人でも女が釣れそうじゃねーか。



なのになんで、俺ん家の前に…







「お兄さんさ~、ここいつから住んでんの?」


「あ?あ────…確か1年近くは住んでっけど…」


聞かれて答えたら、そっかとまた笑う雪緒。

パッと見じゃあ判りにくいけど…やっぱりなんか引っかかんだよなぁ。







「実はさ~、前ここに住んでたんだよね…オレ。」


「そーなのか?」


「ん~…まあ、ひとりじゃなかったんだけどねぇ。」


聞いてくれる~?と…軽い口調とは裏腹に、縋るみたく問う雪緒。


やけに綺麗な目に圧倒された俺は…

考えもなしに、何故かウンと頷いてしまった。








「2年前にさ、恋人と一緒に住んでたんだけどね…」


あ、恋人って言っても相手男だから~とか…さらっと言われると、意外と違和感ないから不思議。

コイツの顔がムダに整ってっから、抵抗がないってのが強いんだろうけど。


雪緒は構わず続ける。





「んで…ラブラブ同棲してたとこで、うちの母ちゃんがぶっ倒れちゃってさ…」


母子家庭で、まだ中学生の弟がいたため雪緒は、

やむなく大学を中退。


恋人を残し、ひとり故郷へと帰ったのだという。






「そっから母ちゃんが入院して、弟の世話もしてさ。家計まで賄わなきゃなんなくなって、夜はバイトって毎日大変だったんだ~。」


それでも折れずに頑張れたのは、恋人がいたから。





「アイツがさ、言ってくれたんだ~…」


待ってるから、何かあったら支えてやるからって…


真面目で一途で、バカみたいにお人好しだった恋人。それだけを支えに、自分は頑張ってきた。


漸く母親も元気になり、生活も安定して。

会いに行くからと彼に連絡したのだけど…

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