第23話

 「何も聴かないでくれてありがとう」


自分達の部屋に入り、もう寝る段になって、先程の遣り取りを後ろで黙って見ていてくれたリーシャに対してお礼を言う。


「どういたしまして」


彼女のこういうところは、さすが元王族って感じだ。


興味本位であれこれ聴いてこないから、こちらも余計な気遣いをしないで済む。


彼女を抱き枕の代わりにするのは明日にして、その日は直ぐに眠った。



 朝6時。


迷宮の入り口にある魔法陣で12階層まで跳び、13階層の入り口までは、自身のスキルで跳んでくる。


階段を上ると、少し離れた所に、生理的に受け付けづらい魔物がいた。


<特殊鑑定>に『ポイズンスネーク。個人推奨ジョブレベル23。弱点属性は火と雷。牙に毒あり。ドロップ品はノーマルが毒消し、レアは蛇槍』と表示される。


「ごめんリーシャ。

この階層は、私が魔法で倒していく。

耐性があるから相手の毒は心配してないけど、蛇は生理的に苦手なの」


「分った。

因みに私は、蛇より蜘蛛の方が苦手。

小さいやつなら平気なんだけどね」


「私も蜘蛛は嫌い。

なんだかグロテスクだし、まだら模様が気持ち悪いから」


念のため、火魔法のレベルを4にして、遠距離から攻撃していく。


過剰攻撃っぽいが、くねくね近寄って来られるよりましだ。


歩いて時間を稼ぎ、MPをどんどん回復させながら、6時間で4、500匹を倒し切る。


トイレ休憩以外は歩きっぱなし。


水分補給も歩きながら。


なるべく早く、この階層を出たかった。


さすがに食事までは歩き食いできないので、安全そうな壁際で、言葉少なく昼食を取った。


30分後、再度歩き出し、更に2時間進んだ所で14階層への階段を見つける。


「やっと見つけた」


ほっとして、言葉が口に出る。


「次はリーシャに頑張って貰うから」


「任せて。

今日はほとんど何もしてないし」


階段を上がる。


14階層には所々に木が生えていた。


『エルダートレント。個人推奨ジョブレベル24。弱点属性は火。魔法耐性高し。ドロップ品はノーマルがティッシュ箱、レアはMP回復薬』


<特殊鑑定>で確かめた内容に狂喜する。


「ここは今日と明日を使って攻略しよう。

ドロップ品が幾らでも欲しい」


「MP回復薬は是非欲しいものね。

・・でもまた火魔法が弱点なのね。

私は剣で攻撃かしらね」


「・・ちょっとジョブを増やす努力をしてみようか。

オークが落とした鉄の斧で攻撃してくれる?

アイテム狙いだから、リーシャはじっくり戦ってくれれば良いから」


「そうね。

折角だからきこりになったつもりで頑張ってみるわ」


アイテムボックスから鉄の斧を1本出して、彼女に渡す。


「援護は任せて。

周囲の敵は私が一掃するから」


「お願いね」


それから約3時間、ひたすら魔物を狩った。



 次の日も、朝1番で14階層まで跳び、歩きながらどんどん魔物を倒す。


リーシャは不慣れな斧で戦っているので、1体を倒すのに10分近くかかるが、相手の攻撃を盾で受けもするから、そちらのスキルも上がる見込みが生じる。


私は周囲の敵を火魔法の連打で一掃したら、少し先まで進んで、そこに涌いている魔物まで倒し、そしてまたリーシャの側に戻るの繰り返し。


お昼までの6時間で昨日の倍は進み、昼食を取るために休憩する。


「フフッ、既にMP回復薬が300もある。

ティッシュ箱は400以上」


お弁当を取り出す序でに、昨日からのドロップ品の数を確認し、ほくそ笑む。


「そりゃあねえ、あれだけ嬉々として倒していれば、そうなるでしょうよ」


リーシャが少し呆れている。


「あれ、おかしいな」


「どうしたの?」


「もしかして、ハイエーテルとMP回復薬って同じじゃないの?」


「・・全然違うわよ」


「え?

じゃあ回復量がかなり違う?」


「特殊鑑定S持ちなんだから、説明くらいちゃんと読みなさいよ。

MP回復薬で回復できるのは500まで。

それに比べてハイエーテルは1万よ?

普通のエーテルでも3000。

ハイエーテルとハイポーションは、今の所は迷宮の宝箱からしか見つかっていないの。

それも、現存する物は恐らく全世界に100はないとさえ言われている。

迷宮の40階層以降の宝箱からしか出ないからね。

因みに、売れば1本50万ギルくらいよ?」


「50万!?」


「高位の【魔法使い】や【魔導師】が、生死を懸けた戦いで飲む物だから当然ね。

・・もしかして持ってるの?」


「うん。

女神様が最初に10本ずつくれたから」


「・・持っていることは口外しない方が良いわ」


「そうだね。

でも危なかった。

さっきMPが5分の1を切った時、1本開けて飲んじゃうところだった。

我慢して良かったよ」


「夏海のことだから、そうしたら今夜はきっと、後悔して眠れなかったわね」


「そこまでじゃないよ。

その内何処かで手に入るかもしれないし」


お互いに笑い合う。


お弁当を食べ終え、15分ほど食休みしたら、また魔物狩りを始める。


この日も結局18時ぎりぎりまで粘って、15階層への階段を見つけ、そこを上ってから迷宮を後にした。



 「あ、おめでとう。

【斧使い】が取れてるよ」


公衆浴場の湯船の中で、リーシャのステータスウインドウを確認しながらそう告げる。


「ええ。

私もさっき確認した。

やっとだわ。

もう右腕がパンパンよ」


「レベルも上がってる。

ただ、13階層で私が我が儘を言ったせいで、その分上がり方が少ないね。

ごめんね。

【剣士】26、☆【魔法使い】15、【都民】10だね」


「あのねえ、以前の私の話を聴いているでしょ?

週1程度で1回1、2時間だったとはいえ、20にするのに5年もかかったのよ?

それをたった3日くらいで6も上げたんだから、『凄い』を通り越して『異常』よ」


「私はこの世界に来て2週間ちょっとだけど、もう【市民】37、☆【魔法使い】16、【剣士】32、☆【神官】16、★【賢者】8だよ?」


「だから異常だって何度も言ってるじゃない。

夏海はちょっとおかしいのよ。

普通の人は、1日12時間近く、それもほぼ毎日なんて無理よ。

体力は魔法で回復できても、精神が持たないわ」


「カズヤの魔法なら、精神力も回復するよ?」


「!!!

・・本当に、彼に会うのが楽しみで仕方ないわ」


「言っておくけど、寝取りはNGだからね?」


「言っている意味は何となく分かるけど、そもそもその彼は夏海と付き合っているの?

あなたの一方的な恋慕だけなら、それは取ったとは言わないわ。

あなたのものではないのだから」


「・・・」


「心配しなくても大丈夫よ。

私は夏海が好きなのだし、『3つの義務』がある以上、あなたの許可なく手を出せないのだから」


「あ、そうか。

・・まあ、私をけ者にしないなら、リーシャもカズヤとなら仲良くして良いよ」


「それはどうも」


「話を戻すけど、リーシャの3番目のジョブに、【斧使い】を設定しても良いよね?

【都民】よりずっと補助効果が高いし」


「ええ、お願い」


【剣士】や【弓使い】、【斧使い】などの戦闘基本職は、ジョブに設定すると『攻撃力上昇(小)』が付く。


更に、そのレベルが10上昇するごとに、当該武器による1%のクリティカル率が上乗せされる。


『○○力上昇』系の効果は重ね掛けが可能で、【剣士】と【斧使い】を同時に設定すれば、その効果は2倍になるのだ。


因みに、【村人】や【町民】などの身分職は、レベルの上昇による身体機能の強化しか利点がなく、それすら他の全てのジョブで最低ラインだ。


「それとさ、さっき鍛冶屋さんから受け取った剣は、リーシャが使って。

斧の方は、良い物が見つかるまでは鉄の斧で我慢して貰うから」


お風呂に入る前、剣の修復を頼んでいた女性の店に足を運んでいた。


随分と良い仕事をしてくれたらしく、見違えるように剣が輝いていた。


「良いの?」


「ええ。

私には、女神様から頂いた剣があるから」


「明日も14階層でMP回復薬を溜めるの?」


「ううん。

もう600個もあるし、15階層に進もう」


「夏海の1日の稼ぎって、平均的な冒険者の年収以上ね。

でも売り方に気を付けないと、一部の物の相場が下落するかもね。

生活必需品が安くなるのは良いことだけど、装備類なんかを大量に売り続けると、買い取り価格が大幅に落ちる可能性があるわ」


「そうだよね。

9階層の鱗の盾なんか、買い取り価格が1500もするからかなり美味しいアイテムなんだけど、さすがに毎日数百も持って行ったらその内買い取り不可になるだろうしね」


「稼ぐ場所と売る所を考えながらやっていくしかないかな」


「贅沢な悩みだね」


「そうね。

でも楽しそうだわ」


頭に巻いたタオルの隙間から、リーシャの奇麗な髪が一房垂れる。


それを見て、何だかエロさを感じて顔を赤らめる夏海であった。

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