異世界という名の遊び場

下手の横好き

第一章 異世界での暮らしに慣れる

第1話

 「旦那様、わたくしの為に新しい星を創ってくださいな」


「ん、既存の星では駄目なのか?」


「駄目です」


「何故だ?」


「レベルやスキルといった概念がないからです」


「それは当たり前だ。

何かをしたからといって、その分が全て身に付くものではない。

弱者が運だけで強者を倒しても、いきなり強くなれるなんて馬鹿げている」


「仰る通りです」


「スキルにしても、一度覚えたら以後は絶対に失敗しないなど、有り得ない。

怠けていれば、腕はおのずと落ちるものだし、それを得たからといって、子供がいきなり何十年も修行してきた大人と対等になるなんて、自分は認めん」


「至極ごもっともです」


「分っていて、何故それを求める?」


「そこが一種の遊び場となるからです」


「遊び場?」


「旦那様は、レベルやスキルの概念を批判しながらも、ゲームでは嬉々として遊んでいらっしゃいますよね?」


「現実とは違う、あくまで遊びだからな」


「わたくしは、旦那様がしているようなゲームにはさほど興味がありません。

ですから、わたくしでも楽しめる、生きた遊び場をお与えくださいな」


「お前のことだから、人を玩具おもちゃの駒として扱うという意味ではないよな?」


「少し言い方が悪かったようですね。

専用の星を創っていただいたからといって、わたくし自身がそこに頻繁に介入する訳ではございません。

最初に幾つか大事なルールを設定したら、あとはほとんどそこに住む者達に委ねます」


「なら何でそんなものを欲しがる?」


「旦那様がそばはべらせる女性の数を、こちらである程度管理するためです」


「はあ?」


「放っておくと、これからも旦那様はあちこちで何人もの新たな女性を魅了して、眷族に加えてしまいます。

このままではいずれ、わたくし達が予約権を行使する際に支障をきたします」


「異議あり」


「なので、その増加速度と数を抑えるためにも、予め旦那様が好みそうな世界をご自身でご用意していただき、わたくしがそこに手を加えることによって眷族化が危ぶまれる女性達を事前に排除できれば、旦那様はそこで楽しく遊べ、わたくし達は安心してそれを見ていられる」


「・・・」


「ご自分のお好みに創った遊び場ですから、当然そこに入り浸ることになるでしょうし、既に旦那様に惚れてしまった女性達を排除するのは気が引けますが、そうなる前であれば、彼女達の心も痛まないでしょう。

『器』であれば、こちらが何をしても妨害は不可能ですし、わたくしとて、あまり酷いことまではしたくありません。

対策を施して、それでも旦那様に惹かれるというのであれば、わたくしも諦めます」


「・・・」


「お創りいただく世界では、わたくしがそこに住む女性達に対して、神殿でのとある儀式を通して、旦那様に心を奪われないよう働きかけます。

但し、たった1つの例外を設けて、旦那様がその世界で女性から孤立しないよう配慮致します。

その周囲に全く女性の姿が見当たらないような世界では、幾ら遊びの内容が面白いといっても、華に欠けますから」


「自分はその世界で、例外とやらを除き、女性全員から嫌われるのか?」


「そうではありません!

そんなことになれば、かの娘達が黙っていないでしょう?

わたくしだって、旦那様が理由なく他から虐げられれば、怒りしか湧いてきません。

あくまで、恋愛対象としては見られない、そういう意味です」


「何だかよく分らん」


「実際に体験なさってみた方が早いと思います」


「話を先に進めてくれ」


「たった1つの例外とは、異世界からの転入者を意味します」


「現地人で設けては駄目なのか?」


「そこはゲームや小説にあるような設定を用いた方が面白いでしょう」


「ふむ」


「その転入者も、わたくしが自ら選びます。

トラックにねられたり、好きなゲームをやり込んだからといって、決して転入などさせません」


「誰かをかばって死んだり、お前が手違いで殺してしまった場合もか?」


「前者は考慮の余地がありますが、後者は有り得ません。

わたくしはそれほど愚かではありませんし、仮にそうしてしまった場合、旦那様にお願いして、また同じ星で生まれ変わらせれば良いだけです」


「そうだな」


「基本的に、転入させる人間は、1期間に1人だけです。

なので、『他にも異世界人がいたら、最強とかどうやって判断するの?』とか、『安心して無双できないのでは?』などという疑問は生じません。

今の所、無双させるつもりもありませんし」


「確かに、始めて直ぐに無双では、ゲームとして面白くはないわな。

1期間とはどういう意味なんだ?」


「転入者には、迷宮攻略をメインにさせるつもりなので、何処かの迷宮を1つ、最深部まで攻略したことを以って、1期間と致します。

そしてそこで報酬を選ばせ、旦那様を選ばなかった場合には、元居た場所に、転入前と同じ年齢で帰します」


「それまでに得た力や道具、記憶の類はどうするのだ?

持ち帰らせるのか?」


「ご冗談を。

報酬を与える以上、それ以外のものを持ち帰らせは致しません。

ゲームで遊んだからといって、現実の世界でも強くなれるなんて考えは、ある種の逃避でしょう?

まあ、それまでに培った思考能力くらいは認めても良いですが」


「その転入者が報酬に自分を選んでしまったら、お前の危惧する状況に近付くのではないか?」


「全てを排除してしまっては、お遊びとしての意外性や面白さに欠けるので、転入者だけには、自身の感情に身を委ねる自由を許します」


「・・遊びであるなら、その世界で転入者が死んだとしても、元の世界に無事に帰れるのだな?」


「ええ。

ただし、そのことは転入者には伝えません。

遊びと雖も、緊張感は持っていただきたいので。

望む報酬を得たいのなら、己の命を賭けて戦えと言うつもりです」


「途中で死んで戻ったら、何も報酬を与えないのか?」


「さすがにそれは少しかわいそうですね。

・・では、それまでに彼女が貯めた現地通貨の1割を、当該国の通貨に変換して与えると致しましょう」


「それだと、人によっては正規の報酬より高くなる場合があるのではないか?」


「そのくらいは良しとしましょう。

それに、お創りいただく世界では、様々な人種の他に、貴族制や奴隷制も存続させるつもりでおります。

旦那様同様、わたくしも、人を物のように扱う、かの制度に反対ではおりますが、遊びとしての面白さを演出するために、今回は敢えて導入致します。

そしてその奴隷の相場を高めに設定することで、あまりお金を残せないようにすれば問題ありません」


「奴隷を買う必要が出てくると?」


「戦闘に直結するようなチートを与えないので、最初はかなり弱いですからね」


「全く与えずに素人を戦わせるのか?」


「幾つかの有利な道具や、最高位の補助スキルくらいは与えるつもりでおります。

戦い方を工夫すれば、奴隷なしでも大丈夫かもしれません。

買う買わないの判断も、その転入者に任せます」


「レベルアップの条件はどうしたい?」


「人や魔物を倒した際に、その相手から当人が吸収する魔力の蓄積量が一定ラインを超えた時に、上がるようにしてください」


「人を殺した際も上がるようにするのか?」


「魔法が使えるなら、人にも魔力があることになりますし、魔物だけに限定すると、国同士の戦争で戦う兵士や騎士達が、いつまでもレベルアップしない可能性が生まれます。

この設定では、練習や訓練を幾ら行ったところで、相手を殺さない限りはレベルアップに必要なものは何1つ手に入りませんから」


「ふむ、確かに」


「それから、人や魔物を倒した際の、個々人が吸収する魔力量、それを便宜上『経験値』と呼ぶことに致しますが、複数で敵を倒した場合、その得方えかたにはこだわりを持たせます」


「どんな?」


「基本的には均等に配分致しますが、ただ同じパーティーや集団に入っていたという理由だけでは経験値を与えません。

それを許してしまうと、自分は何もしないで強い者に寄生して、他者に対して大きな顔をするような者が必ず出ますので、その相手からの経験値を得るためには、必ず当人も同じ場所に居て、何らかの攻撃、或いは補助的行為を行って、相手にダメージを与えるか、真に仲間の役に立ったことを要求致します。

少数で多数の相手を倒す場合にだけ、同時に同場所で戦うことを条件に、他のメンバーが倒した分も算入致します」


「当然だな。

しかし、お前もなかなかに手厳しいな」


「わたくしは一応、『神の法を司る審判』らしいので」


「・・・」


「その代わり、どんなにレベルが上がろうとも、相手を倒せば最低限の経験値は与えます。

レベル99の者が、スライムを倒しても1は得られるように」


「まあ、強くなったから弱い相手では経験値が全く稼げないというのは、ある意味人を死へと急がせるようなものだしな」


「大まかなお話はこんなところでしょうか。

他の細かい部分はわたくしが設定致しますので、旦那様は先ずは新しい星をお創りください。

転入者が一体何年、何十年かかってその迷宮を攻略するかは分りませんが、少なくともその間は、旦那様の眷族がその星で新たに増えることはないはずですから」


「・・分った。

そうしよう」

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