第2話

母も父も、きっと少年たちも

一斉にこちらを見たと思う。

さっきより空気が重い気がした。

白髪の少年はまた俯いた。

その様子に小さいながら少し良心を刺激されたと思う。

弱々しいその様子になんだか同情の気持ちすら湧いてくるようだった。

後戻りのできないことを言ってしまった以上はどうしようもない。

こちらを見つめる針のような視線を振り払いたくて、必死に下を向いた。

茶髪の少年の方は怖くて見れない。

多分絶対さっきより睨まれてると思ったから。

どうしようも無くなって必死で床と睨み合っているうちに視界が霞んできた。

気がついたら私は、涙を流していた。

さっきの視線が物体のないものへと変わっていくのが分かった。

緊張が解けてしまったのと自分の感情の変化に着いていけなかったのとで、私は膝から地面に崩れ落ちた。


ーその後はよく覚えていない。

父が私を抱き抱えてどこかに連れていったような気がするし、そうじゃない気もする。

見渡す限り見覚えのある天井。

ゆっくり体を起こすと、私はまた、誰も居ないリビングのソファーで横たわっていた。

もうテレビは付いていない。

ふとさっき見せようと思ってテーブルの上に広げておいた家族絵が気になった。

クレヨンの荒く太い線、紫、赤、青、水色、ピンク、色んな線で表現される私の中にある暖かな家族の風景。

これからも続く現実で、未来でも過去でもあるものを描いたつもりだった。

突如として現れた邪魔者によって、私の家族が壊れてしまいそうだ。

ふと絵を見渡してみる。

明らかにクレヨンではない滑らかな黒い線が混じっていた。

まるで画力のある大人が小さい子の絵柄を真似たような、やり切れない絵がそこにはあった。

2人の人、一人は髪の毛に色がない、もう一人は目に色がない。

夢だと思っていたかった光景が、残酷にも広がっていた。

おかしい、おかしい、おかしい。

私の家族にこんな人は居ない。

(消さなきゃ)

私は筆箱に入っていた丸い消しゴムを取り出して力いっぱい絵を擦った。

黒い線は少し滲むだけで消えなかった。

何度も何度も何度も試した。でも結果は同じだった。

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