2.画面やスクリーンの血と、瞼と手
グロテスクなものは苦手だ。ホラーやスプラッタなんて見れやしない。しばらくは『NARUTO疾風伝』みたいなちょっとでも血が出るアニメも怖かったし、時代劇の殺陣や推理ものの被害者が殺されるシーンのときなんかは膝掛けを頭からかぶってブルブル震えていた。
僕が初めて「グロ」に恐怖を感じたときのこともはっきり覚えている。時代劇好きの祖父が僕の習い事の送迎を担当していたのだけど(祖父は当時から僕の自宅から車で五分くらいのところに住んでいる)、彼がうちにやってきて僕の支度を待っている間、いつも決まってリビングで『水戸黄門』や『大岡越前』のような時代劇の再放送を眺めていた。僕は昔からマルチタスクなんて器用な真似はできない人間で、そういうものがあると今やるべきことも忘れて楽しそうな方に没頭してしまう。その日も、僕が学校だか幼稚園だかから帰ってきて日が暮れた頃に祖父はやってきて、やけに白い照明の下でソファにくつろぎながらテレビを見ていたので、僕も傍らで習い事用のバッグを片手にぼうっと画面に見入っていた。
やっていた番組がなんなのかはいまいち理解できなかったけど、暗い山の中を木こりらしい男が逃げ惑っているシーンだった。後ろから羽振りの良い格好の侍がゆっくり追ってきて、次第次第に木こりの男に迫ってくる。男は山の中を逃げ回った挙げ句自宅の小屋に駆け込むのだけど、そこにも例の侍が不敵な笑みを浮かべてぬっと現れた。男は咄嗟に切り株に刺さった小刀へ目をつけ、それを引っこ抜いて侍の喉仏にグサリとやってしまう、という具合だ。
この小刀が喉仏に刺さっている様がとても痛々しくて、僕はそのときわんわん泣いてしまったような気がするけど、それは記憶が定かではない。とにかくそれぐらい怖かった。
この日以来僕は大河ドラマの斬首や切腹のシーンでは目をかたく瞑って耳を塞いで、家族に「終わった?」としきりに叫ぶようになった。一番記憶に残っているのは大河ドラマ『龍馬伝』の武市半平太が切腹するシーンで、大森南朋氏の切実な断末魔が耳を塞ぐ手を貫通して聞こえたので頗る厄介だった。ちなみにある程度は慣れた今でも、夏の映画館に行くとホラー映画の宣伝のときはこれをやる(さすがに叫ぶわけにはいかないので、同行者に事前に申し立てて、終わったら肩をたたいてもらうことにしている)。
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