3.単細胞に日光浴
テラスの机に腰掛け、日の光を浴びながら読書をすることがある。日光は紙の本に良くないというが、ものの扱いが結構粗雑なタチなのでそれが気になることもなく、服と体が光線に当てられて熱を帯びていくのを感じながら大抵十数分ほどはそうしている。
二年前、コロナによる外出自粛の規制や意識が厳しく、外に出れずすっかり精神をやられてしまった(今も時折その名残を感じる瞬間はある)。まるで物事に対するやる気が湧かず、部屋の布団をしきっぱなしにして、片付ける気も起きない部屋の中でするということは何もせず、天井やその手前にある虚空を見つめて昼夜を過ごしていた。
そのとき真っ先に自前で考えた療養方法が日光浴だった。今になって思い返せば精神的な問題は様々な事情や経験が複雑に絡まってできあがっているのであって、たかだか日光に身を焼かせたところで人間の生焼けができあがるに過ぎないのだが、その当時の僕がやけに自然信仰気味の人間だったことと、やはり外出自粛のせいでできることが限られていたことも手伝ったのだろう。僕はその頃からテラスの机に腰を委ねる機会を増やしていった。
実際、日光の力というものは目を見張るものがあって、元気のないときに部屋のカーテンを目一杯広げ、体温をあげるとその後の気分は若干ばかり健やかなものになる。若干、という程度ではあるものの、ロジックや言葉によるものより直接的なアプローチで心を癒やしてもらうとちょっとしたスピリチュアルな体験にも思えてしまう。過信はしていないつもりだが、そこそこに信頼している。
エッセイ・短編集 辻井紀代彦 @seed-strike923
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