笑い

@kekumie

第1話 笑い

この世には【笑う】という言葉がある。この笑うには様々な意味があり、爆笑だと集団で笑うこと、失笑とは思わず笑ってしまうこと。作り笑い、笑みを作ること。

この世には、たくさんの笑いに満ちているのだ。


学校にたどり着くと、ある一人の女子生徒に話しかけられ、少しの会話を交わす。

その会話によって笑いが生まれた。

私は、その女子生徒たちの横を通って、窓際の席にへと腰を預ける。

私の隣の席は女子生徒三人組で、三人とも一言で言えば「チャラそう」という感じだ。一人は髪色を金髪に染め、指には派手なマニュキュアが施されている。もう一人は朝から鏡を見ながら化粧をしていた。今はつけまつげをしている。そしてもう一人は耳に複数のピアスを開け、後ろに派手な装飾がされているスマホを片手に机に両足を乗せて窓の外を見ているようだった。そしてその女子生徒三人とも、全員が大きな声で笑っていた。にこやかに、楽しそうに。

私は背中にかけていたリュックサックを地面にへと下ろし、中から教科書やら筆箱などを取り出す。

歴史の教科書を開いてみると、いろいろな書き込みが施されていて、教科書はいっぱい使ったのかぼろぼろになっていた。開いているのは明治維新ぐらいのところだろうか。

私が教科書を眺めていると、チャイムが鳴り、ドアが開いて担任の教師が入ってくる。

担任の教師が数秒ほどこちらを見てから、何もなかったように話し始める。

私はたくさん書き込まれている教科書を閉じ、先生の話に耳を傾ける。

昼休みがやってきて、私は購買で焼きそばパンやメロンパンを買ってきて、教室に戻る。

教室には新しく入ってきた私含めて七人しかいなかった。女子生徒三人、男子生徒四人でそれぞれ楽しそうに話をしている。

私は今日誕生日である隣の席の女子生徒にメロンパンをプレゼントする。

女子生徒は笑いながらそのメロンパンを受け取り、何かを言う。私は机の横にかけているリュックサックの中からすでに用意していたプレゼントをその女子生徒にへと上げた。

女子生徒はさっきと変わらない笑顔のままあそのプレゼントを受け取る。

ちなみにそのプレゼントはぴったり一万円する。

私は一言、女子生徒に言葉を告げると私は教室から去った。その女子生徒たちは私からのプレゼントを見て何か話しているようだった。


私が家に帰ってリビングを覗くと母が財布を見て、何か困っているような顔をしていた。金欠なのだろうか。そうだとしたらこれからのご飯は少し質素になりそうだ。

私は「ただいま」とだけ告げ二階にある自分の部屋にへと上がる。そして部屋に入る直前、廊下を歩いていた姉に話しかけられる。

「ねぇ、今回のテストどうだったの?」

そう言われ、私はリュックサックから今日返された定期テストの点数を書かれた紙を姉に渡す。

それを見て姉は満足そうに笑い、そして階段を下りていった。

私は地面に落ちていた紙を拾い、部屋の中にへと入る。

しばらく日記を書いていると、下から「ご飯よ~」

と母から声がかかったため、部屋のドアを開けて、階段で下にへと降りる。

リビングのテーブルではもう父、母、姉が着席していて楽しそうに笑っていた。

夕飯は焼き魚だった。私の苦手な食べ物である。

嫌な気持ちが少し顔に出てしまったが、言葉にはせず、何も言わずに席についた。

そしていただきますという言葉とともに私はご飯を食べ始めた。

私は風呂に入り、部屋のベッドへ寝転がった。

横向きに寝転がったら、怪我をしている右腕に痛みが走った。


===


テレビからは深刻そうな表情をしたアナウンサーがニュースの内容を伝えている。

そしてテレビのスピーカーからはアナウンサーの声が聞こえる。

【本日、女子高生の遺体が部屋の中で発見された模様です。死因は自殺かと見られており、警察が調査を進めています】

その後に、とある家に入り込んでいく警察の姿が映し出され、ニュースは次の内容へと移った。

そんな内容が映っていたテレビが置かれていたリビングでは一人の女子高生がテレビに目線を向けながら、携帯電話を耳元に当て、友達の女子高生とともに笑い声を上げていた。


ある一家が黒い服に身を纏い、車に乗って帰宅の途中だった。

そしてその一家は、この前死んだ娘の話をし、笑っていた。


家宅捜索しているある一人の警察官が様々な数字が書かれたプレートが置かれている部屋の中の机の引き出しから、一冊のノートを見つけた。警察官がそのノートを取ると、ノートの下に一枚の紙が引かれていたことに気が付いた。そしてその紙は裏返えされているようでうっすらと裏の文字や絵が透けている。警察官はその紙を裏返すのを後回しにして、ノートを1ページ開いてみる。

そこにはゴシック体のような文字で、一文字ずつ丁寧に書かれてた日記のような内容が書いてあった。


5月12日

今日は〇〇ちゃんの誕生日だった。私はプレゼントがしたら〇〇ちゃんは楽しそうに笑ってくれて本当に良かった。

5月13日

今日は〇〇ちゃんと一緒に遊んだ。体をぶつけあったりして小学生に戻ったような気分になって楽しかった。

5月14日

今日はクラスのみんなが私の反応を見て笑ってた。

他の人を楽しませたようでうれしかった。

5月15日

今日は私の渾身の一発芸をした。クラスのみんなは笑ってくれたし、アンコールも来てとてもうれしかった。

5月16日

今日は友達の〇〇ちゃんが私のためにネタを考えてきてくれた。私はちょっと嫌だったけどやったら全員じゃないけど、半分くらいの人にはとっても笑ってくれて嬉しかった。

5月17日

今日は少し嫌なことがあった。昨日寝る前に必死に考えてきたネタを披露しても全然受けなくて悪口を言われちゃった。でも〇〇ちゃんが考えてきてくれた体芸を披露したらみんな笑ってくれて良かった。あんまり体芸をやりたくないけど、こんなに笑ってくれるならやってもいいかなと思い始めてきた。

5月18日

今日は好きな芸人のコント番組があってとても面白かった。思わず何回も観てしまった。

5月19日

今日は町にやって来た芸人さんの漫才を見に行った。熱が籠ってて私も他の人たちもみんな超笑ってた。

5月20日

今日も〇〇ちゃんがネタを考えてきてくれたらしい。いつもよりも激しめの体芸だが、昨日の芸人さんの漫才を見て私も他の人を笑わせたいと思い体を張ってその芸をした。クラスのみんな笑ってくれたけど、昨日の芸人さんの漫才を見た人たちとの笑いと少し違うような気がした。


警察官は1ページずつ丁寧に読み進めていく、最初は無表情に読み進めていた警察官の表情がだんだん曇っていく。手汗が出てくる。表情が青ざめていく。ページをめくる手が震えてくる。書かれている文字数は同じはずなのに、だんだんと読むスピードが落ちていく。それに関係してページをめくる手の頻度も少なくなっていく。

ゴシック体みたいな丁寧な文字だったものが、だんだんとその文字のきれいさが失われていくような文字になっていく。

時には斜めっていて、時には字がぐちゃぐちゃになっていて、時には丸く皺がついているところもある。


10月18日

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

人を笑わせるのが嫌いになってきた。

10月19日

これまで自殺する人の気持ちが全く分からなかったけど、ようやく理解することができた。

そして私も明日。そんな人たちと同じ道をたどる。

10月20日

もう残したことはない。最後の日記だ。

でも一つやりたいことがあるとすれば、あの大好きな芸人のコンサートは行ってみたかった。話してみたかった。同じ舞台に立ってみたかった。認知されてみたかった。同じ土俵に立ってみたかった。

やりたかったことが溢れてきてしまいそうで嫌になってきた。

私はずっと人を笑わせたかった。笑って楽しそうな顔をしてほしかった。

でも私がやってたのは確かに人を笑わせることだった。でも私がしたかったのはこういうことじゃないんだ。純粋に、人を笑わせること。

でも私がしていたのは、されていたのは。生み出していたものは純粋な笑いではなく、”嘲笑”だったんだ。


警察官が次のページをめくったが、そこには何も書かれていなかった。

パサッ、とノートを机の上に置き、引き出しの中に残っていた一枚の紙を取り出して裏返してみる。そこには幼い子供が書いたであろう絵が描かれていて、その上に大きく文字が書かれていた。

【わたしは、芸人さんになる!】


嘲笑 意味 嘲(あざけ)り、人を笑いものにする。

嘲る 人を見下すこと




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