第3話 やり残したこと

――あいつに初めてあったのは中学校2年の春。

ひょろっとしていて肩までつく長髪。

尖った鼻に薄い唇、目付きが悪く不健康そうな風貌。

20歳の浪人生で一日中家にいるらしい。

借りていたミステリー小説を返そうと家に行きインターホンを押し、出てきたのがあいつだった。

僕が事情を話すと「あぁ…。」とだけ言うと僕の手から本を引ったくるようにとるとすごい勢いでドアを閉められた。

あいつはりんのお母さんが再婚した相手の連れ子。

りんの様子が変になったのはその頃からで夏でも常に長袖で陸上部も辞めていた。


りんを苦しめていたのはあいつと、義理の父親だ。


…約束していた。

夏休み最終日に自転車で遠くの町に来た。

河原でアイスを食べながら2人で夕日を眺めていた。


「ねぇすぐる!」

「ん?なに?」

「高校生になったらさ、一緒に青春を謳歌しよう。」

「ふふっ、何それ笑」

「だって高校生ってさ、人生で一番楽しい時なんだよ!」

「みんなで馬鹿なことして盛りたがったり、いっぱい写真撮って思い出にしたり!」

「夏は海ではしゃいだり花火みたり、冬はスキーとか滑ったりして!」


そして照れながら彼女は言った。

「…恋人と一緒に、クリスマスを過ごしたり。」

「恋人かぁ~。僕にも出きるかな~。」

「すぐるはあんぽんたんだから、一生彼女は出来ないよ~っ!」

そう言うと彼女はしかめっ面をして舌をだしてベーっとしてきた。

「なに怒ってるんだよ~。」

「ほんとすぐるって女心わかってないよね!」

彼女は少し怒っていたがクスっと笑うと

「まあ浮気もできなさそうだし、いっか笑」

「ん、どういう意味??」

「しらな~い。」

いたずらっぽい笑顔で僕を見た。

そして夕日を見つめながら力強く言った。


「それまでわたし、逃げない!未来は楽しいことがたくさん待ってる!」

彼女の顔は希望に満ちていた。

「すぐるも絶対錦山高校受かってよね!」

「うん、わかった。」


彼女は真剣な顔で。

「…約束。」

「絶対一緒の高校、行こうね。」

「うん、約束。」

ゆびきりをしてお互いの顔を見合って笑った。

笑顔が愛おしかった。

叶うならもう一度あの笑顔が見たい。


「僕も約束するよ。」


彼女は不思議そうな顔をして言った。

「なにを?」


僕は彼女の目を見ていった。

「りんを守る。」


力になりたかった。

「だから僕を頼ってほしい。」

「りんが望むなら、あいつらを殺したっていい。」


「…ばか。」

「それじゃあ一緒に高校行けなくなっちゃうじゃん笑」


「あ、そっか…。」


りんはクスッと笑うと僕を見た。

「…でも、ありがとう。」

「本当に辛くなったら頼るね!」

「だから絶対、同じ高校に行こう!」

彼女は手を差し出してニコッと笑った。

想いを伝えるのは一緒の高校に行ってからにしよう。

僕も大きく頷くと手を差しだし握手を交わした。




はると握手を交わしたときにこの時のことを思い出した。

あの時した約束は守れなかった。

彼女を助けられなかった、守れなかった。


でももし殺されたのなら、りんは生きようとしていたのなら…彼女が約束を守ろうとしていたのなら…。



…殺されたのなら…。


絶対に見つける。

りんを殺した犯人を見つけてやる。

僕の心の中に決意と復讐にも似た炎が灯った。


「よし!じゃあまずあたしの知ってる事を話すね!」

触れない握手を交わしたあとはるの知っている情報を聞いた。


「まず、あたしとりんの関係について!」

「あたしとりんは小学校の同級生で親友!」

「すぐるは中学の時に転校してきたからしらないかもしれないけど、小学生まで旭町に住んでたの!」


旭町は僕とりんの中学校がある町で小学校もち近くにある。

今の僕の高校のある錦町やはるの高校のある柏木町からは電車で20分くらい。


そいえばはるは中学1年生の時にたまに柏木町のはるの家に遊びに行っていたらしい。

僕がりんと一緒に通いたかった、今僕が通っている錦山高校もその時に見つけたってりんが言ってたっけ。


「中学2年になってから全然りんと会えなくてさ、夏におばあちゃんの家のある旭町行った時、りんの家にも行こうと思って連絡したんだけど全然返信がなくて。」

「もう行っちゃえ~って思ってりんの家まで行ったんだけど。」

「玄関からは見覚えのない背が高くて目付きの悪い男が出てきた。」

「なめ回すように見てきて気持ち悪いって思った。」


「あの、りんは…いますか?」

「りん…あー…寝てるな、具合悪いって。」

「まあ入りなよ。」

「いえ…また来ます…それじゃあ失礼します。」


気味が悪くて逃げるようにりんの家を跡にした。

しばらく走って後ろを振り向くとあいつはまだこっちを見ていた、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら。


…変な人だな。

りんにまたメッセージを送った。


『大丈夫?具合悪いって聞いたけど…なんかあったらすぐあたしに言ってね!』


りんからのメッセージが来ることはなかった。

おかしいと思って2人の共通の友達数名に連絡を取ってみてもみんな返事はないようだった。

夏休みが明けた後に友達がりんに聞いてみると


「夏休みが終わるまで携帯封印することにしたの、ごめん!」

と手を合わせて謝っていたらしい。

その後どうしても夏休みが終わるとりんの中学校の校門で待ち伏せしていて彼女と会った。

メールの返事は来ていたがどうしても会いたかった。


「よ!」

「あ、はる~!!」

りんはこちらに気付くとまっすぐ走ってきて抱きついてきた。

いつもと変わらぬ様子ですごく安心した。


はるとりんと友達数人で公園に行きひとしきりガールズトークした。

同級生の話しや今みているドラマの話、くだらない話で笑い合う時間はあっという間だった。

すっかり暗くなり友達は帰路に着いた。

はるとりん2人が残り、ブランコに乗っていた。夜の公園はとても星が綺麗に見えた。

一見すると全くわからない。

でもはるはなんとなく勘づいた。

笑顔の中の影に。

意を決して聞いてみることにした。


「…陸上部辞めたんだね。」

「…うん。」

「あたしがりんの家に行ったときに出てきた人は、義理のお兄さんなの?」

「…そう、なるかな…。」


りんの父親はりんが赤ちゃんのときに他所で女をつくって蒸発した。

女でひとつで育ててきてくれたお母さんはパートを掛け持ちしながら昼夜問わず働いてくれた。


中学2年の時に再婚した相手の旦那さんは高校教師で人当たりも良く最初はいい人だと思った。

金銭的にもかなり助かっておりお母さんはパートを減らして楽をすることができた。

ただ連れ子の兄は最初から様子がおかしく、浪人生と言うこともあり常に部屋に籠っていて、時折奇声が聞こえてきた。


良い人だった父親も次第に態度が変わっていった。

お母さんやりんに手を上げるようになり、お前らは俺が養っている。女は男の言うことを聞いていれば良い。

典型的なモラハラ男だった。


次第にそれは洗脳に変わり、お母さんは父親の言いなりになってしまった。


「優しかったお母さんがおかしくなっている、あの人が来てから。」

「優しくていつも笑顔だったお母さんが。」

りんの目からぽろぽろと涙が溢れ出てきた。

すごく悲しい気持ちになった。

きっと取り繕って心はもう限界なんだ。


「りんの脛にある痣、暴力…振られてるんだよね。」

りんは小さな身体をビクッと震わせた。

「りん、それ児童相談所に行った方がいいよ。それか警察。その痣見せたら絶対動いてくれるよ。」


「駄目だよ、お母さん体調崩して前みたいに働けないし。家から通わないなら学校入るお金は出さないって言われてるの。だからもし話が大きくなって奨学金もらえなかったりや特待生になれなくなったら、それこそ本当にあの家から逃げられない!」

「…でも、そんなのって。」


彼女は涙を拭うと笑顔を見せて言った。


「でも、大丈夫。」

「約束したんだ、友達と!」

「錦山高校に行って青春を謳歌するって!」

「だからなんにも、辛くない。」

はるの方を向き満面の笑みを浮かべながら

「だからね、すごく楽しみなの、先のことを考えるだけですごく幸せ。」

「はるももうちょっと頭良かったら一緒の高校行けたのになぁ~」

「ちょっと~それ言わない約束でしょ~。」

「いいの、あたしには剣道があるんだから!」

「ふふっ、そうだったね夏の大会はどうだったの?」

「団体は3回戦で負けちゃったけど個人では優勝したよ!」

「すごいじゃん!!」

「去年は全国二回戦で負けちゃったけど、今年は最後だし、絶対優勝するよ!」

「はるはすごいな~。高校も推薦で行くの?」

「う~ん、迷ってるんだけど今のところ地元の柏木高校に行く予定!先生結構有名な人だし、家から近いし笑」


「ところでさ、その約束した友達ってどんな子なの?」


その時に僕のことを聞いたらしい。

「う~ん。本が好きで優しくて、少し抜けてる所もあるけど肝心な時には守ってくれる人、かな。」

「もしかして、その子の事好き…とか?」

「ないない!!そう言うんじゃなくて、ただの友達だよ!」

「もー!帰るよー!」

「恥ずかしがっちゃって~。可愛いやつだな~笑」

「うるさいな~。」

赤らめた頬を膨らますとるとりんはそっぽを向いて少し拗ねていた。

大会が終わったら勉強を教えてもらう約束をして別れた。



だがこの約束は果たされることはなかった。

痣の事が心配でずっと連絡は取り合ってい会えなかったけど電話で勉強は教えてもらった。

亡くなった前日も連絡していた。


りんは自殺しようなんて絶対考えていなかった。



「…だから分かるの、りんは絶対、自殺じゃない。」


こちらに向き直して重ねるように言った。

「りんが亡くなったあと、あたしは他殺や虐待の証拠となるものを集めていた。」

首のロープ以外に外傷がないか、見つかれば虐待の証明になる。


「りんと話したあの日の夜、りんは気付いていなかったけどブランコに乗っているときにズボンの裾が上がって脛のところに痣が見えた。

それで、日常的に虐待があったなら自殺したときにも傷があったり遺書などにも書いていてもおかしくない。

でもりんが亡くなった時にはそれがなかった。」


そうか!僕彼女の言葉に同調した。

「りんは陸上部も辞めて夏でも長袖でいた。それは身体にある虐待のあとを隠すため。」

「逆に亡くなった時に身体に何も外傷がなかったのは遺体が発見されたときに虐待を疑われないようにするため。」

「遺体に外傷がないのが他殺であること、そして計画的な犯行のなによりの証拠でもあるってことだね!」

「殺したのは虐待をしていた義理の兄と父親、そしてお母さんの中の誰か。」

そうだ…りんが自殺な訳がない。

あんなに楽しそうに将来について話していたのに…自ら命を絶つ筈がないんだ!


「そういうこと!」

彼女は顎をてでさすると名探偵かのような雰囲気で部屋の中をぐるりと回った。


「後は虐待の証拠を集めることとどうやって自殺に見せかけたかだね。」


難しい。例えば食事に睡眠薬を混ぜてそのまま首を吊った小屋まで連れていき自殺に見せかけ殺すこともおそらく可能だと思う。


「今は圧倒的に情報と証拠不足で憶測の域を出ない。」

「そうだね、すぐるの言う通りだよ。」


そう言うと彼女はクルッと回り僕の目の前に立った。

「すぐるにはあたしと一緒にそれを追ってほしい。あたしとりんを殺した犯人を見つけて真相を暴いてほしいの。」


「りんとはるを殺した犯人が同一人物っていう根拠はあるの?」

「うん、あたしが殺される数週間前、学校の下駄箱に手紙が入っていた。中身は脅迫でその手紙もあたしの部屋に残ってる。」

「同一犯、もしくは共犯の可能性が高いと思う。」


自殺に見せかけようとしてりんを殺し、真相を暴かれるのを恐れてはるを殺したのか?

「ねぇ、はるは犯人を特定できる何か証拠をもっていたの?」


彼女は小さく首を横に振った。

「全然…証拠はおろか誰が犯人なのかもわからない。」

「ただ、事件の核心に迫れそうな情報があったの!」


もしはるのもっている情報が真相に迫れるものならきっと犯人はそれを隠すためにはるを殺したのか。


「その核心に迫れる情報って?」

「警察は遺書もあったし、自殺ってことになってるからほとんど捜査してなかったでしょ、だからあたしがりんが殺される前の行動を調べてたの。」

「そしたらりんは事件の日の夜ある人物に会っていたことが分かったの。」

「ある人物?」

「会っていたのは水原音弥。りんの担任の先生、すぐるも知ってるよね。」


水原音弥…りんの担任の若い理科の教師…。

僕も授業を受けていた。

あまりいい印象はないし、ほとんど会話をしたことがない。

顔はイマドキの塩顔のイケメンで授業も面白くて他の生徒には人気だったが僕を見るときの眼は冷めていて心の奥では何を考えているかわからない。

正直、苦手だ。


「…うん、授業受けてたよ。」

「はるは自殺する前に水原先生と放課後教室で2人で話していたの。」

「りんの同級生だった子が教室に忘れ物を取りに行こうとしたときにりんが泣きながら教室を出ていったの、その後怖い目をした水原先生が出てきたって。」

「その子の名前は、わかる?」

「藤原花梨、バレー部のキャプテンだった子だよ。」


藤原さんか…あまり話したことは無いけど一年生の時に同じクラスだった。

活発で優しくて少しはるに似てる雰囲気の子だ。


「かりんとは小学校の時に同じクラスで、高校も一緒。あたしがりんの事をりんの同級生やまわりのひとに聞いてまわってた時に教えてくれたの。」

「でもかりんはまだ何か知ってる事があると思うの。」

「…どうしてそう思ったの?」

「後日かりんに忠告された、りんの事はもう調べない方がいいって。人が変わったようだった。」

「…情報を教えてくれたのに、どうして。」

「わからない。でも何かに怯えてる感じだった。」

「…それから水原先生に会おうと思ってたんだけど…殺された。」


そう言うとはるは悔しそうにため息をもらした。

はるはりんの為に色々行動してくれていたんだな。

それなのに自分は力になるどころか忘れようとしていた…。

僕は悔しさで自分の唇を噛みしめていた。


「色々行動してくれていたんだね。ありがとう。」


りんのためにも、はるのためにも絶対に犯人を見つけてやる。

そのためには今あるはるの事件当日の行動と情報の整理をしなくちゃ。


まずははるの事件当日のこと。

彼女の鞄は荒らされた形跡があり持っていたであろう携帯や財布はなくなっていた。

はるの持っていた証拠を隠すために犯人が持ち去ったと思っていた。

だが実際にはりんの義理の父兄にも事件当日に話した水原先生とも直接接触はしていない。

そうなるとなぜ犯人はりんの携帯や財布などを持ち去ったのだろう。


「はるは殺されたとき、どこにいこうとしていたの?」

「待ち合わせをしていたの。お母さんには友達の家に行くって言って。」

「南雲くんに会いに。」

「南雲くん?」

「南雲俊太くん」

「…南雲俊太?同級生?」

「うん、クラスは違うんだけどあたしがりんの事件のこと調べるって知ったみたいで、携帯にメッセージがきたの。」

「6月22日17時00分に柏林橋の下にある公園に来てほしい、三島凛の事件について知ってることがあるって。」

「そこの公園の入り口で後ろから誰かに首を絞められて。」

「意識がなくなって気付いたらここにいたんだよね。」


彼女はそう言うと少し考え込んだ後に、

「でもおかしいよね、同じ学校なら直接会いに来ればいいのに、わざわざ人気の無い公園に呼び出すなんて。」

「たしかにそうだね、はるの鞄は待ち合わせの公園のすぐそばの橋の下に会ったわけだし、誘き出されていたのかも。」


南雲俊太…りんの情報を知っている人物。

もしかしたらはるのことを殺した犯人かもしれない。


「ちなみに、りんは鞄に何を入れていたの?」

僕がそう聞くとりんは驚いた顔をして少し怒った。

「女の子の鞄の中身を聞くなんて、失礼じゃないの!」

「え?ごめん、そんなつもりは…。」

僕は慌てて謝った。

「事件の解決に繋がるかなって。はるの事を殺した理由があるのかなって。」

僕があたふたしているとりんは吹き出すように笑った。

「…うふふ…冗談だよ、怒ってごめんね笑」

「…はあもう、びっくりしたな。」

「すぐるが焦ってるのが面白くてつい笑」


僕はため息をつくと携帯を取り出してグループチャットに載っていた鞄の中身の詳細をはるにみせた。


「鞄の中には筆記用具と化粧ポーチが残っていて後は抜き取られていたんだ。」

「ちゃんと覚えてるよ。あの時持ってきてたのは…。」

・筆記用具

・化粧ポーチ

・携帯電話

・財布

・護身用のスタンガン

の5つだったようだ。


「スタンガン…!また物騒な。」

「正直南雲くん物騒な噂多かったし、通販で買っておいたんだ。」

「物騒な噂って?」

「うん、あたしなりに色々調べたんだけど中学校の時に近所の公園の砂場にガラスを撒いて子供たちに怪我をさせたり、野良猫捕まえて虐待したり。全部噂なんだけどね。」

「それに南雲君この辺で一番頭のいい中学校に通ってて高校、大学もエスカレーター式で行けるような超名門校なんだけどテストのカンニングがばれて高校進学できなくなっちゃって柏木高校に来たんだって。」

「そうだったんだ。柏木高校では成績は良かったの?」

「うん!うちの学校では優等生だよ!」


なんでよりによって柏木高校に来たんだろう、確かに柏木高校はスポーツは競合で有名だけど偏差値はかなり低い。

不良っぽい人も多く正直そのくらい頭が良かったのならもっといい学校に入れたのではないのか?

それに砂場にガラスを撒いたり猫を虐待するなんて普通じゃないしかなり怪しいな。


犯人に回収されたのは携帯電話と財布とスタンガンか…。

この中に犯人がはるを殺した動機となる物があるのかな?

携帯電話には南雲とのやり取りがあるからそれを隠したかったのかな。

だけどそれだけなら手紙でもいいし直接伝えても証拠は残らない。

わざわざ携帯にメッセージを残すなんてしなくてもよかったはずだ。

犯人は何を隠したかったんだろう。


「ありがとう、他に誰かと接触したり、携帯に何か入れてたりした?」

「ううん、携帯には重要な情報とかは何もなかったよ。それに実際に会えたのは藤原さんだけだし水原先生にも南雲君にも、結局会えなかった。」

少ししょんぼりしたように彼女は言った。

では犯人は何故はるを狙ったのだろう。殺すにまで至る動機が分からないし殺される理由もわからない。


「あたしの情報、役に立ったかな?」

心配そうに彼女は僕を見た。

「勿論!水原先生に南雲俊太、あと藤原花梨も入れると事件の関係してそうな人が3人も見つかった。」

「それに…ありがとう。危険を冒してりんの無念を晴らそうとしてくれて。」

「今度は僕が、はるとりんの無念を晴らすから。」

「…ありがとう。」

彼女は嬉しそうにそう言うと窓のそとを見ながら言った。

「今日は月がまんまるで明るいね。」

空の月はいつもよりも明るく感じた。

そういえばりんを失ってからまともに空を見ていなかったな…。


「月を見たの、久々な気がする。」

「あたしなんて、暇で夜はずっと月をみてるよ。」

「あたし、三日月が一番好きなんだ。」

彼女の首元には三日月型のネックレスがあった。

「そのネックレスも三日月だもんね。」

「…うん、幽霊になってもネックレスは着けられてて本当によかった。」

月明かりに照らされる彼女は生きてる人間にしかみえない。

だが彼女はこの神社から出られず、事件の真相を知ることも、誰に殺されたのかもわからないんだ。

まだまだやりたいこともたくさんあっただろうに。


「そういえばさ、はるのやり残した事ってなんなの?」

そう聞くと彼女は思い出したかのようにハッとすると、僕の方をみた。

「忘れてた!」

「忘れちゃうくらいならやり残した事でもないんじゃ…。」

「ちがうちがう!りんの事に夢中で忘れてたの!」

「それに、ホントに10個もあるのかも怪しいし。」

「ほんとにあるもん!ねえすぐる、紙とペンだして!」


そう言って僕に紙とペンを出させると彼女のやり残したこと10個を僕に書かせた。


新宮陽香のやり残した10のこと


1.南雲俊太に会う

2.藤原花梨ついて調べる

3.水原音弥について調べる

4.三島父兄について調べる

5.大好きな弟に誕生日プレゼントを渡す。

6.両親に手紙を書く

7.大好きな先輩に告白する

8.新宮陽香を殺した犯人を見つける

9.三島凛の事件の真相をつきとめて犯人を見つける

10.新宮陽香の死体を見つける


これが彼女のやり残したことか。

半分ははるとりんの事件の事だ。

もちろんそれらのことはやるつもりだったし問題ない。

だけど2つほど問題な事もあった。


「先輩に告白…!?」

「ちょっとまってよはる!これ僕がやるの?」

「そうに決まってるでしょ!あたしもう話せないんだから!」


僕が呆気にとられてると彼女は「お願いね♡」と言って満面の笑みを浮かべた。

本当に大丈夫かなぁ。


不安に思いつつも決意を固めた。

はると会えたのも、あの兎が導いてくれたもの、きっと神様がもう一度りんと…自分と向き合えるチャンスをくれたんだ。

不思議とはると居ると前向きな気持ちになれた。

自分が死んでもなおりんの事件に向き合っている彼女のためにも、彼女のやり残したことを必ず叶えよう。絶対に。


「…必ず叶えるよ、はるのやり残したこと。」

そう言うと彼女は嬉しそうに言った。

「ありがとう、改めてよろしくね!相棒!」


今度は彼女から僕に手を差し出してきた。

僕は立ち上がり手を差し出すと彼女と握手をした。

実際に感触はないけれど、月明かりに照らされた彼女の手はとても綺麗で本物の人間のようだった。

握手をし終えると僕ははりきってこう言った。

「よし!早速明日から行動しよう!」

「まず明日の放課後柏木高校に行って南雲俊太に会う。そしてはるに何を話そうとしていたのか聞いてみるよ!」

「うん、わかった!あ、でも学校行く前にさ、南雲君の特徴とか話したいからここにきてくれない?」

「わかった!」

「ありがとう、あ!そいえば今何時??」

僕は時計をみて言った。

「19時ちょっと前。結構話してたんだね。」

「まずい!すぐる!はやくここ出た方がいいよ!」

「え?どうして?」

「一昨日きた不良達が明後日また来るって言ってた!」

「うえ!ほんとに!?」


喧嘩なんてしたこと無いし絡まれたら大変だ!

僕は急いで帰り支度をした。


「それじゃあはる、また明日!」

「うん、じゃあね!バイバ~イ!」


鳥居の手前まで送ってくれるとはるは大きく手を振ってくれた。

僕は急いで山を下り自転車の所までたどり着くと夜の町が綺麗に輝いていた。


…ここに、この町に居るんだ。

はるとりんを殺したやつが、平気な顔をして…。


「絶対見つけてやる。」


僕は自転車に乗って寮に帰った。

色々なことを考えていた帰り道はいつもより短く感じた。




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