期待しか出来ない人間
——2年前の事を机に突っ伏して思い返していると、起立という号令が耳に入った。いつの間にか、退屈な数学の授業が終わっていたらしい。
顔を上げるとセーラー服の女子と学ランの男子達が席を立っている。めんどくさいが、学生辞令だ。僕も大人しく起立し、礼し、さようならした。これでようやく放課後って奴が到来だ。
「
おじさんと出会ったあの日から僕は中学二年生に成長したが、くせっ毛パーマ頭と控えめ伊達メガネスタイルは何一つ変わっていない。
教科書をリュックに押し込んでいると、クラスの友達である男子、
「北海道っても、僕のは日帰りだよ。飛行機往復しに行くだけみたいなもんだって」
「でも北海道は北海道だろ〜? お土産期待してるぜ、
「北海道土産か。
「大きいカニ! 山盛りのウニ!」
「高望みすんなよ。じゃあ地名入りのお土産屋クッキー買ってくるから」
「だぁああッ俺が悪かったよ……クッキーはクッキーでも、せめて『白い恋人』にしてくれよぉ」
「はいはい、分かった分かった。白い恋人な〜」
僕は目線で
(白い……『恋人』か)
リュックを背負ったと同時に僕はその言葉を切り取って、ある座席に視線を送った。そこにいるのは、小学生の時からずっと片想いをしている女子生徒、
「あすかぁ、今から男バスの練習試合見に行こうよ〜」
「男バス? そういえば今日は他校との合同試合だっけ」
今反応したのが、
「めっちゃカッコいい男子がたくさん集まるし、絶対見逃せないでしょ〜」
「えー何何、何の話〜?」
「この後あすかも暇っしょ〜? たまには女子活に混ざりなって」
「今日こそ、あすかっちの好みのタイプを暴いちゃるぞ〜!」
そのワードに足が止まる。当然だ。片想いを何年も貫く地味系の僕には、こうやって遠巻きに彼女の事を知る事しか出来ない。
「好みも何も。私は恋愛に全然興味ないし」
「ぬーッあすかは相変わらず、氷の女王様だねえ」
「なにそれ。好きとかはよく分からないけど、嫌いなタイプはあるよ」
きゃー超聞きたーい、という女子の盛り上がりに乗じて僕も耳を傾ける。明日の準備もあるし、早く帰らないといけない。歩幅を調整しながら
「私のお父さん、競争意識の高いギャンブル中毒みたいな人でさ。賭け事は人生のロマンとかよく言うけど、それって大した努力も出来ない、所詮運任せだよね」
ギク……と背中で反応する。僕も似たようなものだ。だから鳩レースの事は、誰にも言えてない。明日の北海道発レースも、ポポ太郎の力って奴に期待して、今日まで頑張ってきて——。
「そんな風に期待する事しか出来ない人……私は大嫌い」
氷の女王の冷たい言葉が
だからだろう、教室から逃げるように僕の足は一気に加速した。
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