第5話 代替わりした神様
まだこの辺りが田畑ばかりだった頃、前の御祭神は真面目によく働く小柄な女性の神様だった。町がだんだんと大きくなり、人も増えて神社も大きな力が必要となってきた時、前の御祭神では力不足になり伊勢から私が派遣されてきた。
しかし、お使いさんたちには、まるで追い出して乗っ取ったかのような受け止め方をされてしまい、全く働いてはくれなくなった。
それどころか、私を主とは思っていないので、陰口は、当たり前。目の前で悪口を言われたりもした。
人が持ち込む穢れを払ってから人々を迎えるために欠かせない境内の掃除、自分の部屋の掃除、供物の用意などなど、全て一人でしなくてはならなかった。伊勢での下働きの頃もこうだったなあと思い出しながら、ただひたすら一人でやったものだ。
助けを求めようにも、お使いとして動いてくれないから文も出せない。もちろん、自分が出かけて神社を留守にするわけにもいかない。相談する相手もいない。一から十まで一人でやる、そんな日々が何年も何年も続いた。
ある時、大変な大飢饉があった。(おそらく天明の飢饉のことだと思われる)大水と流行り病で人々が大勢亡くなり、食べる物もなく難儀をする中、皆がこの危機を乗り越えられるよう、この時も一人で走り回っていた。
さすがにこの大飢饉の状況下で、人のために働く役目なのに何もせずにいる自分達を恥ずかしいとお使いさんたちも思い始め、初めて連帯感が生まれて一緒に働いてくれるようになった。
まだまだ前の御祭神が良かったと思っているお使いさんもいたけれども。
今は、森を一周して見回りをしたり、市中に出て、次々とできた各神社、あちこちにできた稲荷さんにも話を聞きにいったりする。これはお使いさんに頼むわけにはいかない。私が直接聞くからこそ色々話してもらえるということもあるのでね。
また、バブルがはじけたころから、神々が手を組まないとできないことも増えたので、総括的なリーダーが必要ということになり、私がその役をしている。時とともに仕事内容も変わっていくので私もステップアップしなくてはと考えている。
町が大きくなってお社も大きくなり、木も大きくなった。子供たちも(もう、今はおじいちゃんおばあちゃんになっているが)たくさん来るようになった。
一つ教えてあげよう。
夫婦の気持ちが揺らいだ時、夫婦杉に聞くと良い。夫は雌の木に、妻は雄の木に、口に出して相手の気持ちを知りたいと聞きなさい。愛情を持っていれば暖かく感じる。霊能力のある者なら、ダイレクトに聞こえるだろう。
ある者は頭の中に声が聞こえてきたそうだ。嬉しくて泣いていたから、きっと幸せにやっていることだろう。
私は人と一緒にここから町を見るのが好きだ。ここから見る景色が一番綺麗だと思う。田んぼの様子、季節の花を見るのが好きだ。
これはこれからもきっと変わらず続くだろう。
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