第2話 びんちゃん


私はある時、崩れそうなあばら屋にぼろぼろの服を着た小さな女の子として生まれた。ひとりぼっちだった。

ある時お爺さんが通った。

「私は何者ですか?」と聞いてみた。

そうしたら

「お前は貧乏神だ。やることはわかっているだろう?」と言われた。

「あ、そうか」と思った。

不思議に、どうすればいいのか分かっていた。


立派な門のあるお屋敷を見つけて、様子をよく観察してから仕事をするか決める。

昔はお金持ちの家はすぐにわかったものだけど、今は見つけるのが難しいね。

仕事をすることにしたら、

まずは人の縁を切っていく。

人が離れていくとお金も回らなくなっていく。

そうして貧乏になったのを見届けてから、「おーい、終わったよー」と呼ぶと、福の神(七福神や座敷童)がやってくる。洗いざらいやってきたことを口頭で申し送りをして福の神に引き継ぐ。

そうそう、七福神は笑わない。そして座敷童は滅多に来ないからね。


神社に頼まれて行くこともある。「貧乏にしてほしい」とか「もう福の神を呼んでもいいかな?」と神社の神様が聞いてくるからタイミングを教える。


ある時行った家はお金はあっても、奥さんはお手伝いのように休みなく働いていて、家族の心はバラバラ。全然幸せそうには見えなかった。この家はお金があることが災いしていると思った私は仕事をした。

お金がなくなってようやく、家族みんなで助け合って仲良く暮らすようになって、前よりずっと幸せそうに笑ってる家族になった。


そりゃあ中には後味の悪い仕事もたくさんあったわよ。

ある家は、女癖の悪い亭主で、事業が傾いたら女の所に逃げてしまった。その後は私の仕事じゃないんだけど、その家の二人の子のうちの一人が病気になって亡くなってしまい、もう一人の子も事故で亡くなってしまって、年老いた奥さん一人になってしまった。あれは今思い出しても嫌な仕事だったな。


私の仕事で没落した貴族もいたわね。

そうそう、安倍晴明に仕事したこともある。この時は失敗した。多勢に無勢だった。この人、助けてくれる人がいっぱいいたの。人の縁が強い人は貧乏にならないのよね。


そう、私は、元々あったものを取り戻してもらうために、お金で見失ってしまったものをお金をなくさせることで気づかせるのが仕事。お金がなくなってしまうから嫌われるけどね。でも本当に大切なのは愛の溢れる暖かい人と人との関わりでしょ?

私が来るってことはやり直すチャンスが来るってこと。乗り越えられなかったとしたら、残念ね。


貧乏神は何人もいるの、小さな女の子のままのもいるし、あなたたちが想像してるようなお爺さんもいる。でも男の子はいない。お婆さんもいない。なぜかしらねえ。


実は私、特別な貧乏神なのよ。ヨウコちゃんが福の神にもなれるようにしてくれた。今はヨウコちゃんとその仲間たちからはびんちゃんと呼ばれてる。


瑞原さんが福の神として来てほしいって言った時、奥さんの着物を一枚もらって、福の神の仕事をしてあげた。あの頃たくさん依頼がきたでしょう?

あ、着物はね、色褪せしてるからどれをもらったか見たらわかるわ。とても気に入ってる。私にピッタリに直したのよ。どう?似合うでしょ?あ、見えないんだったわね。


ただね、時々、貧乏神の仕事をしたらいいのか、福の神として行った方がいいのか分からない案件もあってね、そんな時にむうっとしてヨウコちゃんに聞きに行ったら、なんだかとっても大きくなっちゃってて、玄関を入れなかったことがあった。なんだったんだろう?


いつかあなたの家にも行くかもね。

さあて、どちらの私が行くかしらね?

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