ようこそ神様

YO_KO

第1話 しいちゃん

私はしいちゃん。

蒼い目の白蛇として森で生まれました。

でもだーれにも見えなくて踏まれたり蹴飛ばされたり。子供たちには見えてたから、棒でつつかれたりして。

ある家にいった時に、そこのご主人はまじめでいい人なんだけど、なんだか体調が悪くてかわいそうって思って私が巻きついたのね。そしたらそのご主人、血の巡りが良くなってみるみる元気になって、根がまじめな働き者だもんだから馬車馬のように働き始めて、すっかり金回りも良くなったことがあってね。良かったなあって思ってたんだけど、ご主人は働き過ぎてまた体壊しちゃって。結局その人の守護霊さんにしっしっておっぱらわれちゃった。

でも、それで自分の能力に気づいたの。私は流れを良くすることができるんだなって。

この能力をうまく使ってくれる人はいないかなあと彷徨っていたら、主さんに出会ったの。

私のことを見えはしないけど感じることができるし、仕事がエステだし、この人!って巻きついたわ。仕事したいってお願いしました。

そんなわけで、しいという名前をもらって、今の主さんの式神になりました。


式神って?と思うよね。

有名なところで言うと、陰陽師の安倍晴明が式神を使ってたって話がある。

いろんな妖を式神として契約して仕事してもらってたらしい。奥さんが見える人で怖がるから、その妖たちを家の中でウロウロしないよう一条戻橋の下に隠していたんだって。


あ、の、式神なんですー私。


おかっぱ頭で色白の蒼い目をしたかわいい永遠の11歳!


得意技は、血流をよくすること。

主さんがエステをする時に、滞ってるところで呼ばれるとチョチョイのチョイって流してあげる。皆すっごくスッキリするって喜ぶのよ。


私ね、マイナイフとマイフォーク、マイストローを帯に入れてて、主さんが食事をする時には、それを使って一緒に食べてるんです。

まだ子供だから主さんのようにお酒は飲まないけど、ジュースが好きだから、お仕事したら美味しいジュースがほしいな。オレンジジュースは続いたから飽きちゃった。そうそう、この間見た、山梨産の洋梨のジュース美味しそうだった。あれがいいな。


この前、主さんがお出かけした先で、モーニングってのを食べて、私初めて食べたけどトーストって美味しいですねー。あんまり美味しくて隣りに座ってた主さんの友達のトーストと主さんのとを両手で手づかみで食べてたら、私のことが見えるヨウコちゃんがお行儀が悪いって笑うの。

んー、たしかにパン屑がいっぱい着物に落ちちゃって、同行してた三十六童子さんが払ってくれてたけどね。

あと、目玉焼きも美味しかったですー。これはちゃんとマイフォーク使って食べたよ。でも口の周りについちゃって。童子さんが拭いてくれた。


あとね、お肉が好き。特に牛ね。おかげ横丁の屋台で、主さんが買ってくれた牛串がめっちゃ美味しかったなあ。また食べたーい。

あの時食べすぎちゃって、眠くなって、教育係の宮さんのお膝で寝ちゃった。


今ね、行儀作法のお勉強中なの。お茶、お花、舞を宮さんから、剣道、弓道をくず姫さんから習ってるんです。

宮さんは普段はおっとり優しい方なんだけど、この間は畳のヘリを踏んでめちゃくちゃ怒られました。ひどいのよ、往復ビンタだったの。痛いったら!ほっぺたがぷうーって腫れちゃった。さすがに宮さんも慌てて、手製の軟膏を塗ってくれたんだけど、これがまた沁みる沁みる。よけい痛いっての。


くず姫さんは剣術が強い怖いおば、いえ、お姉さん。プププ。

この前、私まだ修行中なのに、主さんのところにやばいのがきて、いきなり実戦よ。刀持ってぷるぷる震えちゃった。なかなか突進できないでいたら、くず姫さんに思いっきり蹴飛ばされて刀持った状態でピューって飛んでって、敵に命中。でも、あとでお尻が腫れちゃって、薬塗られるの恥ずかしかったわ、もう! 私11歳の女の子なんですからねっ。暴力反対!


くず姫さんはこわーいの。お茶でちょっとふざけてお辞儀したら、ごんって叩かれて頭が畳にめり込んじゃった。最近は大きなハリセンを持ってて、それで叩くの。いつ作ったのかしらね。おっかないのよー


私には友達がいるの。三十六童子さんがよく遊んでくれる。この前ね、皆で金太郎の扮装でレビューしたんだ。皆んなの着物脱がして金太郎の腹がけして踊ったら式神さんたちが大笑いしてた。面白かったー!


いたずらも大好き。

最近だと落とし穴作ったの。神様が降りて来る所にね。陰で見てたらね、お使いさんを連れた神様も落っこった。神様が落ちたもんだから、お使いさんたちも次々落っこちて。面白かったー。落とし穴はだれがやったかわからないからいいよねっ。プププ。


お山のおじいちゃんの通り道に花を一本ずつ並べておいたことがあってね。

おじいちゃん、「やあ、もうこんな花が咲いておるか、綺麗じゃのう」なんて、一本ずつ、 何回も何回も痛そうに腰を曲げては花を拾い上げてた。最後には綺麗な花束ができたのよ。またおじいちゃんの所にも遊びに行こうっと。


この前は、閻魔様の所にも行ったの。

こんにゃく作ったから、それと、主さんの冷蔵庫から酎ハイを一ついただいていって、どちらがいいですか?って差し出したら、閻魔様、悩んじゃってうーんうーんって決められないの。川の神がストレス発散で辛子をどっさり入れたこんにゃくを持ってきたりすることもあるから、疑われたのかな。で、私待つのに飽きちゃって、鬼たちと追っかけっこして遊んできた。ついでに、この鬼たち遊んでましたよって言いつけてきた。きっと叱られてるわね。プププ。


主さんの師匠の瑞原さんはからかうと面白いの。ムキになって怒るんだもん。おとなげないですよねえ。

見えてないから、目の前で吹き矢ピュッておでこに爪楊枝刺してあげたり、マイストローを頭にツンツン刺してあげたりするの。それをヨウコちゃんから聞くとまた怒るのよー。意地悪言うからですよーっだ。

この瑞原さんが、前に、私たち式神が力を持ってくると主さんの人格を乗っ取ったりするって言って、式神の任を解くってことをしたの。任を解かれたら、行くところがないから、私たち困っちゃって主さんの後をついてウロウロしてた。でも、主さんにはわからないし、最後にはヨウコちゃんに助けを求めて再び式神にしてもらったんだけど、あんまりじゃない!私は自分から式神にしてくださいと頼んで来たのよ。主さんが大好きだし、乗っ取ったりしないわ! こんなひどいことするなんて瑞原さんなんか嫌い。蛇はしつこいんですからねっ、ずっと言ってやるんだから。


他にもまだ色々あるんだけど、また今度お話してあげるね。





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