第94.5話
「おめでとう、ミトカくん、君達がこのテルムントに拠点を置くと決めてくれたのは実に素晴らしいことだよ!」
「ありがとうございます、知事」
「金段一位のミトカくんは『銅証』、他の三人も皆さん金段に上がられたということで『鉄証』を贈らせてもらいますよ」
「やった……!」
「知事さん、俺達も金段一位になったら『銅』になれるのかい?」
「はい、勿論ですよ。そして、連団の全員が金段ですから、もし迷宮に挑まれる時には入場料は無料になりますよ。ただし……『名付き』以外、ですけどね」
「助かるよ。この辺りの迷宮はまだ入ったことがないから楽しみだ」
「知事! 知事! 大変です!」
「これ、お客様がいらしているというのに」
「俺達は構わないよ。急ぎの連絡なんだろう?」
「ああ、すみません、『深紅』の皆さん……君、何があったと言うんだね」
「『不殺の迷宮』を踏破した『緑炎の魔剣士』が……出国手続きを取ったそうです!」
「な、なんだと? あ、いや、イスグロリエストに宝石類を売りに行っただけなんじゃないのか?」
「それが、馬を連れて行ったそうで……外門の衛兵によると『旅に行く』と……」
「……は?」
「『緑炎の魔剣士』って、あのカースで魔虫を全滅させた人だろ?」
「ああ、凄い勢いで上級迷宮を何基も、なんなく単独踏破したって……確か、ガイエスとか言う……」
「ガイエス? あいつ、ここに来ていたのか?」
「なんだよミトカ、また知り合いかよ」
「あいつは……ガウリエスタで、たったひとりの『本物の冒険者』だ」
「……流石、ミトカさんだ。ガイエスさんとお知り合いとは……!」
「あの方も金段一位ですから、近日中に帰化を勧める予定だったのですよ。と、とにかく、国境門で引き留めろ! すぐに向かう」
「いえ、国境門もつい先ほど出たと……」
「ならばすぐに、跡を追わせろ! 一旦お引き留めして、帰化を打診するのだ!」
「帰化……するかな?」
「ミューラ人だったからな。ここで国籍を移動しておかないと……大変かもしれない」
「そうだ、そう言ってお引き留めしろ! 金段一位の冒険者を、他国に渡すわけにはいかん!」
「イスグロリエストの国境門近くにいる者はまだ通っていないと言っていますから、すぐに接触できますよ」
「よし、絶対に、丁重に! お迎えするんだぞ!」
(やっぱり、凄い冒険者だったんだな。もう一度、会えたらいいけどな……)
***
「アステルぅ、あれはしょうがないってぇ……俺だって、絶対に年上だと思ってたしさぁ」
(あたしが……このあたしが……適正年齢にさえ達していない『お子様』に……! ミューラ人は若く見える人が多いって言ってたから、絶対に年上だと思っていたのにっ!)
「アステル小隊長は……まだ落ち込んでいらっしゃるんですか?」
「ああ、今回はちょっと深傷かも……そっとしておいてやって」
「じゃあ『緑炎の魔剣士』がこの国を出たって言うのも、知らせない方がいいですね」
「えっ? ガイエス、皇国に戻っちゃったの?」
ばんっ!
「あ、アステル……扉、壊すなよ……」
「本当なの?」
「は?」
「あいつが、出国したのは本当なのっ?」
「はいっ! 先ほど、国境門を越えた、と連絡がありました!」
「まさか追いかけたりは……」
「忘れなさい」
「いいわね? あれの全てを今、即刻、何もかも、完全に! 忘れなさいっ!」
「……」
「絶対、絶対っ! 再入国なんか、させちゃ駄目よっ!」
「何、言ってんだよ。金段一位の冒険者を、入国拒否なんかできる訳ないだろ?」
「あたしは認めないっ! ぜーったい、認めないんだからぁ!」
バンッ!
「姉ちゃんが認めるとか、関係ねぇって……あ、あいつは今、ちょっと情緒不安定なんだ。ガイエスは……多分イスグロリエストに、迷宮の宝石類を売りに行っただけだと思うから。再入国の時は……アステルに知らせないようにしてくれ」
「はい……小隊長、何があったんですか?」
「まぁ、勘違いで暴走しちゃったとか……そういうこと」
「それならいつものことですね。立ち直りは二、三日くらいですかね?」
「……そか、割と……いつものことだな。そー言えば」
(昔は、あれ程じゃなかったんだけどなぁ。知らずに付き合った奴が続けて二回、既婚者だったあたりから、おかしいんだよなぁ。それにしても……年上じゃなくても『老け顔』ならいいのか? うーん、もう少し落ち着きゃいいんだけどぁ、姉ちゃん……)
(せめてっ、せめてあと十五歳……ううん、十歳上だったら……! 悔しいっ! すっごく理想に近かったのにぃ!)
「今回は……五日くらいは、かかるかな?」
「では、その間、仕事はよろしくお願いしますね」
「え?」
「そろそろ本気でちゃんとしてくださらないと、降格になっちゃいますよ?」
「……」
「ガイエスさんが来てから、副隊長の評価、だだ下がりですからね?」
「解った……すまん……」
(……なんで、あたしが好きになる人っていつもこうなのよぅーーっ!)
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