第95話 白い森の狩猟小屋-1

 方陣門は無事にセイリーレの西側、あの狩猟小屋の目の前へと繋がった。

 ああ、風が暖かいな。

 ストレステよりはずっと……


 そう思った、その時、目の前がさーーーっと色をなくし、真っ暗になった。

 全身から力が抜け、膝と右肩、そして頬に衝撃を感じたが……全く動くことができなかった。


 何、が……?




 暗い、暗い、闇の中で何かが俺を見ている。

 ああ……『不殺』の最下層にいた……あの魔竜か。

 深紅の瞳が俺を覗き込み……炎が放たれた。


 燃えている。

 なのに、全く熱くない。


 俺は、もしかして、もう死んでいるのか?


 今までのことは、夢なのか?


 どこで死んだ?


 不殺の迷宮?

 それとも、他のどこかの迷宮か?

 いや、そもそもストレステに辿り着いていないのかもしれない。


 セレステの、あの襲撃の夜か?

 いや、乗合馬車乗り場で……あの剣を抜いた男に殺されたか?


 セイリーレにさえ辿り着けずに、白い森の魔狼に食い千切られた?

 ああ、毒沼に落ちて蛇たちの餌食になったのか?


 それとも、それとも、それとも……




 今……俺が居るのは、セイストの牢の中で……ただ、自由になれる夢を見ているだけなのか……?

 冒険者になったことすら……幻で、俺はマイウリアから逃れることができずに、革命戦争に駆り出された?

 ああ、それなら……マハルが焼けたことすら……夢だったらいいのに……



 しゃらん……



 何かが落ちた。

 なんだろう、凄く……軽くなった。


 胸の辺りが暖かくなってきた。

 身体の強張りが溶けていくようだ。


 現実だ。

 全部、俺が通ってきた道だ。

 方陣門でも戻ることはできない、俺が過ごしてきた月日。

 マイウリアでの悲しみも、ガエストでの苦い思いも、イグロストでの安らぎも、ストレステでの喜びも……全部、俺のものだ。



 大丈夫、俺は、生きてる。

 ちゃんと、俺のままで。


 ヒン


 あの声は……えーと……ああ、カバロ……

 そうだ、カバロ、だ。

 そろそろ腹が減ったよな。

 飼い葉、出してやらなくっちゃ。



「お、気がついたか?」


 え?

 喋れたのか、カバロ。


 ……違う……


「……なんで?」


 カバロ、何処行った?



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