第87話 『不殺の迷宮』-1
そして予約してから十日目の朝、冒険者組合から『不殺』に入れますよ、と使いの者がやって来た。
「冒険者組合で支払いをしていただいてから、一日以内に入ってください。入れなかった場合は辞退となりますが、お支払いいただいた入場料の返却はありません」
「わかった。宿に断りを入れたらすぐに行く」
俺はヒューリにカバロのことを頼み、一ヶ月分ほどの料金を渡した。
「踏破する気……ってことなんだね?」
「ああ。もしもの時には、カバロのことを頼みたい」
「……解ったよ。なーに、この子は良い子だからね。一緒に、君の帰りを待っているさ」
「死ぬ気はない。だが一ヶ月を越えるようなら……」
「ちゃんと、待っているよ」
……売ってくれて構わない、と言おうとしたのだが、ヒューリにそう言われて、頼む、としか言えなかった。
カバロを撫でながら、行ってくるよ、と言うと顔をすり寄せてくる。
うん、ちゃんと帰って来るからな。
冒険者組合で入場金の残りを支払い、許可証をもらう。
そして『日数計』と『通信石』の付いた腕輪を渡された。
「君の単独入場は、既にかなり話題になっていましてね。君自身が賭けに参加しなくても、生きて戻ってきたら冒険者組合からある程度のお支払いをお約束致します。なので、この通信石に各階毎で魔力を入れてくださいね。日数計は四十五日ですので、生きていたら四十四日のうちに戻ってください」
「……解った」
本当に、賭け事の好きな奴等ばっかりだな。
「それと……まぁ、これは『お願い』というか、君次第なんですけどね。もし全部の魔具が取り切れなかったら……できれば、迷宮を閉じないで欲しいな……と」
「『核』次第だ。約束はできない」
「ええ、勿論それで構いませんよ」
にっこり笑ってご武運を、などという組合長に軽く手を振って事務所を出る。
そして、すぐさま方陣門で『不殺の迷宮』へと移動した。
入口で入場許可証を見せると、野次馬達から歓声が上がる。
「おい、賭けねぇのか?」
「あんたにゃ結構期待している奴が多くて、十階層に賭けている奴もいるんだぜ」
「自信があるとこ、見せてやってくれよ」
ここで俺が、どれくらいの心積もりでいるかを見ておこうってことか。
それで、掛け率が変わるんだろうな。
まぁ……盛り上がりに水を差すこともないし、儲かると思わせるのもいいだろう。
俺は皇国小金貨を一枚、取り出す。
その金色の輝きに、野次馬達の視線が集まる。
賭け表の誰も賭けていない場所に、その一枚を置く。
「『踏破』だ」
歓声が上がる。
絶対に不可能だと思われている条件への賭けだ。
皇国小金貨を手に入れようと、次々に賭ける奴等が出てくる。
俺は彼等に背を向け、まだ誰ひとり辿り着いたことのない『不殺の迷宮』深部を目指すためにその門をくぐった。
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