第86.5話
(何……何が、起きたの? なんで、あたし、こんな所に?)
「明日、ガウリンク獄へ送る。船の準備を」
(ガウリンク……って、あの北端の、拷問獄……え、どうして? あたし、あたしが?)
(う、動く……手も足も……)
「しかし、凄かったですねぇ! 流石、金段一位の冒険者だ! 一撃で、しかも誰ひとり怪我をさせずに麻痺させちゃうなんて!」
「でもこんな奴等、殺しちゃっても罪にならなかったのに、なんで……」
「ばっか、こいつらにガイエスさんが手を汚す程の価値がある訳ねぇだろ?」
「まったくだよなぁ。でも、ガイエスさんはミトカさんと同じように『冒険者の中の冒険者』なんだよ! 殺しが目的じゃねぇんだ」
「そうだ、ミトカさん、今度またこっちに来るってよ。不殺に挑むのかな?」
(い、今のうちに……今なら、ニルエスからアレを奪えるわ。そしたら……逃げ出して、自由になるのよ……今度こそ!)
(なんで……なんで、ガイエスには俺の『暗示』も魔法も何も効かねぇんだ……あ……? ナスティ……? く、来るなっ! くそぅ、身体中が痛ぇ……動かねぇ)
(……いた。まだ動けないみたいね。剣があるわ……ああ、さっきの、オーデンが使った剣ね。殺せるかしら。こいつに……あたし、ちゃんと攻撃できるかしら……? まだ【隷属魔法】が効いていたら……でも、殺しちゃえば、あの契約も無効、よね?)
(なんだ? なんで、こいつが剣なんか……! うわぁっ、来るなぁぁぁっ!)
ぐさっ
「……ぃぁがぁっ……!」
ぐさっぐさっぐさっ……
「ふっ、ふふふっ、ふふぁっあ……ははっあははははっ! できたわ! できた! あたしは勝ったわ!」
「うわっ! しまった! 何してやがる、このっ!」
「やべぇ、なんで縄がほどけてるんだよ!」
「悪くない! あたしは悪くないわっ! 全部こいつの【隷属魔法】で操られていただけなのよっ! でもっあたし、今それを打ち破ったのよ! 【隷属魔法】に勝ったのよ!」
「……何を言ってるんだ、こいつ」
「取り押さえろっ! くそっ、ちゃんと縛り上げてなかった俺達も怒られちまうな」
「ぎゃぁっ! 痛い、痛いっ! あたしは被害者なのよっ!」
「何を勘違いしてるのか知らんが、この男に【隷属魔法】なんぞ、ないぞ?」
「え……?」
「あーあ……もう駄目ですね…」
「殺人の現行犯だな。しかも自分勝手な思い込みで仲閒を刺し殺したんだ。『迷宮刑』確定だろうな」
「『獄』なら……三十年くらいで、出られたかもしれねぇのに」
「ま、いままで『獄』で一年以上生きた奴はいないけどな。おい、そっちももう一度縄を確認しておけ。麻痺が切れる時間なのかもしれない」
「はい、しっかり縛っておきますよ。あとで隊長に叱られちゃいますねぇ……」
「まぁ、死んだところでどうでもいい奴でよかったけどよ。減俸だけで済むかなぁ」
「左遷かも……くそーっ!」
(……なかったのか? ニルエスに【隷属魔法】が……? じゃあ、どうして俺達は……逆らえなかったんだ?)
「ねぇ……迷宮刑って? 何? 何、するの?」
(痛い、身体中が痛い……嫌だ。痛いのは……嫌だ)
「『育成』の手助けさ。何もする事はないよ。ただ『そこに居ればいいんだ』」
「なんだ……そうなのね……ふふ、それなら……すぐ終わるわね」
「すぐ……かどうかは解らないが『終わる』のは確実だよ」
(俺は……どうして誰にも……逆らえなかったんだ?)
「あれ? この男の身分証、見てくださいよ」
「なんだ、こいつ『隷位流民』じゃねぇか。親が隷位のまま、成人した時にちゃんと在籍地の手続きしてねぇんだな」
「その上、魔力が二桁しかないのか。これじゃ、支配系魔法にかかり放題ですねぇ」
「だが犯罪を犯すか犯さないかは、別の話だ。隷位だったとしても、しっかりとした意思や正義感があれば【隷属魔法】で命じられても、人殺しなんてしないからな」
(……俺は、俺だけは、リーチェスに【隷属魔法】をかけられていたのか? いや、別の誰かに? 俺は……俺自身のものじゃなかったのか?)
「【隷属魔法】は、弱さにつけ込む魔法だ。『命令に服従させる魔法』じゃない。『自分』ってもんをしっかり持ってりゃ、意志に反することはさせられねぇもんさ」
「じゃあ、魔法が掛けられている時に起こした犯罪ってのはどうなるんすか?」
「当然、そいつ自身の罪だよ。【隷属魔法】には何かをさせるという強制力はないからな。勘違いして命令する奴は多いが、その命令に賤棄が従うのは与えられる痛みに耐えられないで従っているか、『賤棄自身が元々そうしたいという気持ち』があるからだ」
(……悪いのは……俺じゃない。俺のせいじゃない)
「やった事は全部、自分自身の責任だよ」
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