第86話 カトエラ-4
組合事務所の裏庭は、まるでこういう時のためにあるかのように、広く開けられていた。
そして賭けは勝敗だけでなく、何太刀入れられるかとか、どんな魔法が使われるかとか、いろいろな賭場がたっていやがる。
この町の奴等、賭け事が好き過ぎる。
……圧倒的に俺の勝ちに賭けられているみたいで、賭け表を見たのかニルエスが睨んで来やがる。
面倒だし、勝ち負けなんてことにはあまり興味もない。
だが、こいつ等から言われたことに腹立たしい気持ちもある……んで、一発入れりゃ黙るだろうし俺自身の気もおさまりそうだから、乗せられてやることにした。
まぁ……ちょっとだけ、あの頃とは違うんだぞってのを、見せつけたいってのも否定はできん。
でも、いくらこいつ等とは言え、怪我はさせたくないし、こっちも怪我などしたくない。
使うのは『光の剣』だな。
オーデンの馬鹿みたいな突進にさえ気をつければ、後のふたりの攻撃は魔狼以下だ。
だが、三対一で『痛過ぎても死なない場所』を狙えるかは……微妙だな。
どーせ死なないだろうから、初撃に『雷光剣』ぶっ放しちゃおう。
「では、始めっ!」
デルクの声と同時に、光の剣を起動させ雷光を放つ。
魔法を使おうとしていたナスティと、その近くで弓に矢を番えていたニルエスを巻き込んで
観客達が響めく。
いけね、観客のことまで考えていなかったな。
だけどどうやら誰も巻き込まなかったみたいでよかったぜ。
そして全く雷光が入らなかったはずのオーデンが、何もできず倒れ込んだふたりを見つめたまま動かない。
予想外の攻撃に、呆然としているのだろう。
俺は『炎熱』の鞭でオーデンの金属の盾を攻撃した。
「うぁ、熱っ!」
慌てて盾を手から離し体勢を崩したその身体に、『光の剣』で斬りつける。
袈裟懸けに一撃、返すように足に二撃目。
これでお終い。
三人は為す術なく地面に転がり、呻き声ばかりが響く。
組合長も、デルクも、観客達も……身動きもせずに見つめているだけだったので、終わったぞ、と声をかける。
途端に地鳴りのような歓声が上がり、デルクの勝者を告げる声がかき消された。
「なんだよ、今の! 【雷光魔法】か?」
「いや、剣……だろ? 光って見えたけど……」
「『魔剣』だ! すげぇぜ!」
「あれか! 噂の『緑炎』って! 確かに緑の炎だった!」
「『緑炎』って魔法師だろう? 剣も使えるのか?」
観衆達は目の前で起こったことが信じられないのか、それともあまりの一方的な試合に興奮しているのか。
「ガイエスくん……魔法……? なのか? 最初の雷撃は?」
組合長が瞬きを忘れたかのように、両目を見開いている。
この人の目は、あんまり大きくならないんだな。
「……剣に、【雷光魔法】を乗せたのか? そんなことして、剣は大丈夫なのかい?」
どうやら、普通の剣に雷光を付与したから光っていた……と思っているみたいだ。
まぁ、その方が理解しやすいだろうな。
『柄だけ』の剣より。
「問題ない。俺の『剣』はセイリーレの物だからな。これくらいじゃ壊れない」
あちこちから、やっぱりセイリーレか、あの町の剣なら解る、セイリーレの剣じゃなきゃ魔法なんか乗らねぇよ、などと知った風な物言いが聞こえる。
多分、ここにいる誰ひとり知らない物だ。
この『光の剣』は、俺だけのために作られた『剣』だからな。
「組合長、この三人はどうしますか?」
「実力差も図れない馬鹿なんて要らないから当然、除名処分。本人達も納得済みだし。あ、憲兵に引き渡すから、あっちの部屋に放り込んでおいて。それと、治療費は自分達持ちって言っといてね」
「多分、怪我はしていない。麻痺しているだけだ」
「おまえ、麻痺の魔法まで使えるのかっ?」
デルクは本当に目がでかくなるなぁ。
目が乾いて痛くならないのかな?
不思議だ。
「『緑炎の魔法師』……いや、『緑炎の魔剣士』だな! 剣戟で魔法を放つなんて、普通じゃ絶対にできねぇよ」
そうか。
俺がこの『雷光剣』を使えたのは、職業が『魔剣士』だからなのか?
剣も魔法も中途半端な職業なのではなく、どちらも極められる、そういう職業なのかもしれない。
運ばれていく三人を眺めながら、なんだかやっと全部『吹っ切れた』って気がした。
あいつ等に剣を向けることも、魔法を放つことも、まったく抵抗がなかった。
俺はもう完全に、あいつ等は『仲間』なんてものじゃないんだ、と改めて自覚したのかもしれない。
ものすごく、晴れ晴れとした気分になったんで、この『試合』も悪くはなかったな、と思えた。
組合から『特別褒賞』なんてものが渡されて、またしても観客達が快哉をあげる。
そして賭けていないはずなのに、俺の勝ち分だ、とストレステ硬貨の袋が渡された。
……早めに両替しちまおう……
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