第85.5話

「……生きてた……あいつ、なんで……! しかも、金段だなんて!」

「許せないわ、あたし達がこんなに苦労しているっていうのに、なんで……あんな、いい服着て、武器まで……!」

「あんな奴、あんな奴、絶対に認めん……! 殺す……殺してやる!」


「おい『犯罪者』共」

「……!」

「もしもこの試合でガイエスくんに勝てたら、刻印を消してもらえるように衛兵団に口添えしてやるよ」


「何っ! 本当か?」

「ああ、勿論だ。でも負けたら資格剥奪で、そのまま憲兵に引き渡す」

「あいつになら勝てるわよ、ねぇ?」

「……ああ」


「ふぅん。じゃあ、一応武器と防具は貸してあげるよ。頑張れよ」


「殺しても……いいのか?」

「試合に『事故』はつきものだからね」


*****


「……宜しかったんすか? 組合長……あんな事言って」

「だって、試合は面白い方がいいでしょう?」

「二等位魔法師を『犯罪者』と試合させたなんて事、皇国にばれたら大変ですよ。それに万一のことがあったりして、怪我でもしたら……」

「大丈夫。ガイエスくんは絶対に負けないよ。なんてったって『緑炎の魔法師』なんだよ?」


「まぁ、俺もガイエスさんが、どう戦うのかは見たいですけど……」

「魔獣と戦うのと、人に向けての攻撃は違う。対人戦なんか見たって、迷宮での強さや戦い方の目安になどならないよ。ま、興味は、僕もあるけどね」


「だったら、余計に危なくないっすか? ガイエスさんは、あいつ等みたいに『人殺し』に慣れているわけじゃないですよ」

「そうだよ。だから、だよ。人殺しなんてするクズより『冒険者』の方が強いって見せつけておけば、馬鹿な事をする奴らが減るかもしれない」

「この数ヶ月であいつ等の無様な姿を見て、結構温和しくなっている奴等もいますけど……」

「ただ温和しいんじゃ、駄目なんだよ。冒険者なんだから」

「まぁ、そっすけど」


「『冒険者』はね、誰より、何より強くなくっちゃいけないんだよ。でも下らない事で、その強さをひけらかすような真似をしない。それを示せるのは……今は、ガイエスくんだけだろうからね」

「……てことは、この『試合』には、組合からも褒賞出すんすね?」

「当然だろう? 準備しておいてね。ガイエスくんには……はした金かもしれないけどねぇ。それと、あいつ等を縛り上げるものも用意しておいて」


「え?」

「多分、ガイエスくんは殺さない。どんなにクズで死んで当然の奴等でも、きっとね」

「……ぶっ殺してたって、いいと思うんですけどね。『試合に事故はつきもの』って言ってたじゃないっすか」

「そんな汚れ仕事は、冒険者のすべき事じゃない」

「組合長、結構……夢見がちっすね」


「『冒険者』に夢を見られなくなったら、こんな国になんかいられないよ」

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