第67話 『カース上級二番・藍迷宮』-3

 それ以降、単体での魔獰犀はいるものの、水場はなかった。

 そして最後の三十八階層を見て、半年前の踏破者が何故この迷宮を閉じなかったかが判った。


 迷宮の核がある場所、部屋の中心が水場の底……なのだ。

 勿論、水の中には数頭の魔獰犀まどうせいがいる。

 半年前まではここまで魔獰犀の数がいなかっただろうし、記章の扉は回廊出口のすぐ横にあるから隙を見て記章だけを取ったのだろう。


 取り敢えず、雷光剣で魔獰犀は全て麻痺させる。

 その後で【土類魔法】で水場の底を一部分だけ深く掘り下げて水を流れ込ませ、水から魔獰犀の身体を殆ど出して『炎熱の方陣』で焼いてしまう。


 へぇ……表面が濡れててもあまり関係なく焼けるんだな。

 灰が溶け込んだ水を浄化し、魔力溜まりのある周辺に水が入り込まないように【土類魔法】を使って堰を作る。

 おっと、登りやすいように階段状にしておかねぇと。


 核は……ん? なんだ?

 この塊……石かな?

 溜まっていた水で洗ってみると、どうも鉱石みたいだ。

 魔力はかなりありそうだが、どーにもならないな、これ。


 あ、そうだ。

 セイリーレに行った時に、あいつにやるか。

 迷宮の岩、欲しがっていたし……雷光剣には、随分助けられているからな。

 おっと、記章ももらっておかなくては。


 迷宮の核を冒険者組合に差し出せばそれで踏破証明になるが、魔具でもないし信用されないだろう。

 うん、この他には何も埋まっていないみたいだから、この迷宮は俺が出てしまえば閉じてしまうはずだ。

 記章を持って、まずは最後に作った『休憩部屋』へと方陣門で移動する。


 戦果確認……っと。

 討伐確認部位を取ったのは魔黒猩まこくしょうと魔獰犀だけ。

 でも、これで充分だ。

 魔獰犀の牙はまだ売らなくていいし、魔虎の牙と一緒に取っておこう。

 整理整頓も済んだし、地上に戻ろうか。



 二日と半日ほどで出て来た俺に、門番達は少しほっとしたような顔をした。

「よかったぜ、あんたが途中で引き返せる冒険者で」

「なんでだ?」

「魔虫に集られて死んだ奴が、魔獰犀幼体の牙を持っていやがったんだ」

「魔獰犀なんて単独じゃあ無理だから、十五階層以下に入らなくて本当に……」

「いや、狩ったが?」

 俺は、魔獰犀の討伐部位を門番に見せた。


 あ、こいつ等は目じゃなくて口が大きく開くのか。

 面白いなぁ、ストレステの連中は。


「かかかかかっかっかっ狩った? えええええぇぇっ?」

「ふぉ……あ、あんた、すげぇな……うぇっ? 一頭じゃねぇのかっ?」

「ああ、十二頭ほどいたな。記章だ。証明札をくれ」


 ほー、更に口がでかく開くのかぁ。


「……魔法師ってのは……とんでもねぇなぁ」

「まぁ、あの時の『緑の炎』を見りゃ、納得もできるか……」

 門番達が証明札を俺に渡した時、ズズズズ……と、迷宮が唸りだした。


「……! あんた、迷宮核、採れたのか!」

「うおーっ! やっとここの門番が終われるぜ!」

「なぁ、なんだった? 何が埋まっていた?」

 興味津々で訪ねてくる門番に、秘密だ、とだけ言って、俺はカースへと戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る